第二百二十二話 国境に到着
王妃様とフレイザー侯爵夫妻は、昼食を食べ終えて王都に帰っていった。
流石にフレイザー侯爵夫人がいきなりランドルフ伯爵領に滞在はできないので、諸般の手続きを整えて改めてランドルフ伯爵領に来るそうです。
バルガス様、テリー様、ルキアさんも、昼過ぎにランドルフ伯爵領を出発した。
自分の領地があるから、いつまでもランドルフ伯爵領に構っていられない。
逆に、人神教の脅威を目の当たりにして良かったとまで言っていた。
軍務大臣夫人とヴィル君は軍務大臣と一緒に王都に帰るそうなので、あと数日はランドルフ伯爵領に滞在することになった。
軍務大臣夫人はとても強いから、俺たちが不在の時にアステルちゃんをみてくれるという。
「はあ、この日が来てしまった……」
「別に、そこまで凄いことをやるわけじゃないでしょう?!」
そして葬儀の翌日、俺はまたまた女装をして屋敷の玄関にいた。
エステル殿下が冷静にツッコミを入れていたけど、女装をするのは流石に抵抗があるんですよ。
今日は、元々予定されていた国境に行って兵を治療することになっている。
メンバーは俺、アルス殿下、エステル殿下、ビアンカ殿下、リンさん、オリガさん、軍務大臣で、他の面々は屋敷に残ってお勉強というなのお留守番だ。
従魔たちはおもちとリーフだけついてきて、後は全員屋敷に残ることになった。
念には念を入れてのことらしいが、どう見たってやりすぎな気がする。
「屋敷の最初の門番なのだから、不審者は全部撃退しろよ」
「ブルル」
うちの馬が一頭屋敷に残り、もう一頭で俺たちが乗る馬車を引くことになる。
うちの馬一頭でも、ゴブリン千匹は余裕で倒すだろうな。
ということで、俺たちは馬車に乗り込んで一路国境に向かった。
「普通の馬車なら二時間はかかるが、この馬なら一時間もかからずに国境まで着くぞ。本当に、この馬の子どもが欲しいものだ」
軍務大臣がもの凄く物欲しげな視線を俺に向けるが、単に軍馬を魔法使いにすればいいんじゃないかな。
今はいないけど、ホワイト辺りなら上手に軍馬に魔法を教えそうだ。
ビシッ!
ここで、おもちが元気よく触手を上げた。
試しに、国境の軍の軍馬を魔法使いにさせるという。
どの馬を軍馬にするかは、国境についたら決めればいいだろう。
ということで、あっという間に国境に到着した。
エステル殿下が早く着きすぎてお菓子を食べる暇がないとボヤいていたけど、本気で言うとアルス殿下に怒られますよ。
そして、俺が馬車から降りた時だった。
「「「うおー!」」」
俺の姿を見た兵が、野太い大声を上げながら大フィーバーしていた。
あの、女装男子に盛り上がったってしょうがないですよ。
俺の心の叫びを知っているエステル殿下とビアンカ殿下が、腹を押さえながら必死になって爆笑を堪えていた。
「えーっと、皆さん大変なお仕事お疲れ様です。皆さんのおかげで、こうして国の平和が保たれております。イチ国民の一人として、お礼申し上げます」
「「「うおー!」」」
俺が丁寧に挨拶をすると、兵はまたまた大フィーバーしていた。
ははは、もうどうにでもしてくれ。
すると、軍の片隅でヘロヘロになっている小さな軍馬がいたのだ。
直ぐにおもちが向かい、俺も向かった。
「聖女様、そいつは駄目ですよ。病気なのか分からないが、全然大きくなりゃしないぞ」
「ガリガリだから肉にするのもできねーんだ」
兵が何かを言っているけど、流石に目の前で見捨てる訳にはいかない。
俺は、聖魔法を使って一気に弱っていた軍馬を治療した。
そして、こっそりとおもちが軍馬と魔力循環をしながら何かを話をしているが、どうやら中々面白いことが分かった。
「ふう、軍馬の治療が終わりました。あと、この軍馬は治癒師の才能があるみたいですよ」
「「「はっ?!」」」
俺が伝えた内容に、兵は度肝を抜かれていた。
とはいえ実際にやってみようということになり、軍馬とおもちを連れて怪我人のところに向かった。
シュイン、ぴかー。
「ブルル」
「はあ?! 骨折が直ったぞ?」
小さな軍馬が回復魔法を使い、兵は目を開くほど度肝をぬかれていた。
すると、こんな声が聞こえてきた。
「すげー、聖女様がいきなり奇跡を起こしたぞ。死ぬ寸前の軍馬だったのに、生き返っただけでなく新たな役割を与えるとは……」
「ははは、こりゃ半端ないぞ……」
軍馬を治療しただけじゃないので、兵も驚いているみたいですね。
でも、まだまだ治療はこれからです。
ということで、ここからは手分けして治療しましょう。




