第二百十三話 聖女様の噂は凄かった
昼食後、俺は女装して町の人の治療をすることになった。
ちゃちゃっと着替えて、準備完了。
「おー、ママー!」
「あー!」
そして、何故か部屋を出た瞬間に俺にコタローとアステルちゃんが抱きついてきた。
どうやら、アステルちゃんは俺が女装していることに気がついているみたいだ。
対して、側にいた侍従長は俺の女装姿をを見てぽかーんとしていた。
「はあ、まさかあの聖女様の正体がサトー様が女装した姿だとは。しかし、どこからどう見ても女性にしか見えません」
侍従長の傍に控えていた使用人もウンウンと激しく同意していたが、もうどうにでもなってくれと思った。
アステルちゃんはお昼寝の時間なんだけど、コタローは俺について行く気満々だった。
しょうがないので、コタロー抱っこして屋敷の外に出た。
ざわざわざわ。
「えっ、何この人混みは……」
「おおー!」
屋敷の外に出ると、門のところにとんでもない数の人が集まっていた。
コタローも大興奮しているけど、もしかして……
俺は、コタローを抱っこしながら家臣受付のところにいたリンさんとビアンカ殿下に質問した。
「リンさん、ビアンカ殿下、この大人数はどうしたんですか?」
「えっと、言い難いのですけどサトーさんの治療を希望する人になります」
「妾が思っている以上に、聖女様の名は広まっておるのう。フランソワはならずものを捕まえているから貸し出せぬが、とにかく頑張るのじゃ」
嗚呼、あまり予想したくなかった答えが返ってきた。
別に、治療できれば他の人でもいいんじゃないのかな。
流石に人が多いので、回復魔法が使えるフェアとレイアにも手伝って貰うことに。
そして、俺はコタローを膝に乗せて治療を開始した。
シュイン、ぴかー。
「な、なんという回復魔法なのでしょうか。これが、聖女様が扱う聖魔法なのですね……」
何故か教会のシスターまで俺の隣に来て治療の様子を見ていたが、聖魔法が使えるようになったので治療の効率がぐんと上がった。
それでも、あまりにも人が多いので魔力を節約しながら治療をしていた。
「優しい人に引き取られて、本当に良かったわね」
「うん!」
時折膝に乗せているコタローの頭を撫でている人がいるが、コタローは元気よく手を上げながらニコニコと返事をしていた。
俺がフェア、レイア、コタローの保護者になっていることもかなり広まっていて、行き場のない子どもを保護する心優しい聖女様扱いになっていた。
フェアとレイアの治療を受ける人も、聖女様に保護された子どもは才能が開花すると訳わからないことを言っていた。
というか、治療しても治療しても、人の列が全然減らないぞ。
中には、長時間並んでいて体調を崩している人もいた。
うん、これはヤバいので、屋敷にいる回復魔法が使える従魔で唯一動けるホワイトに助っ人を頼んだ。
こうして、三人と一匹体制での治療がずっと続く事になった。
「はい、いいですよ。では、次の人どうぞ」
「軍希望じゃな。では、明日実技を行うぞ」
家臣の受付希望者も、かなりの列を作っていた。
リンさんとビアンカ殿下もかなり忙しく動いていて、次々と手続きを済ませていた。
シロとミケが悪意のあるものを見分けるので、犯罪者はどんどんと捕まっていた。
「グルル……」
「拘束します!」
シュッ、グルグル。
そして、バハムートに乗ったタラちゃんとフランソワが、次々と不審者を捕まえていた。
うちの馬は二頭とも国境に行っているので、バハムートが馬の代わりをしていた。
ランドルフ伯爵領兵と軍も忙しく動いているが、明日には軍の増援が来るので頑張って欲しい。
「すー、すー」
いつもならバハムートの活躍を見るとコタローが喜ぶのだが、コタローは俺の膝枕でお昼寝をしていた。
使用人がコタローを客室に連れて行こうとしたのだが、そのコタローが俺の服をぎゅっと掴んでいるので動かせないでいたのだ。
治療を受けに来た住人にとっては微笑ましい光景らしく、またコタローの頭を撫でている人がいた。
こうして、夕方まで俺たちは相当忙しく動いていたのだった。




