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異世界転生は苦労がいっぱい 〜いきなり高貴な人の面倒ごとに巻き込まれたけど、仲間と一緒に難題を解決します〜  作者: 藤なごみ


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第二百十話 ランドルフ伯爵夫妻が託したもの

 ドタッ、バタッ。


「ゴフッ……」

「ランドルフ伯爵!」


 ビルゴを倒すとほぼ同時に、ランドルフ伯爵は血反吐を吐きながら倒れ込んだ。

 直ぐにアルス殿下がランドルフ伯爵の元に駆けつけたが、見るからに瀕死の重傷なのが見てとれる。

 ランドルフ伯爵夫人もボロボロの状態で、こちらも間違いなく瀕死の重傷だ。

 ランドルフ伯爵夫妻を並べるように地面に寝かせ、俺は残り少ない魔力で二人の治療を行った。


 シュイン、ぴかー!


「わあ、治療の光が凄く眩しい!」

「サトーが聖魔法に目覚めたからじゃ。もの凄い効果もありそうじゃな」


 エステル殿下とビアンカ殿下が俺の魔法にびっくりしていたが、確かに聖魔法に目覚めた効果からかかなり治療効果が上がった気がした。

 しかし、それでも治療の手応えがかなり悪かった。

 そんな時、屋敷に救援が現れた。


「サトー、来たよー!」

「うお、これは凄い」


 リーフを先頭にした従魔たちと軍務大臣が、ランドルフ伯爵領兵と共にやってきたのだ。

 ワース商会の対応していたリーフたちもだけど、軍務大臣がランドルフ伯爵領兵とやってきたのには何か理由があるみたいだ。

 とにかく、ランドルフ伯爵夫妻を治療しないと。

 俺はほぼ魔力が空っぽになってしまったので、代わりにリーフ、ホワイト、おもちの三匹に治療を代わってもらった。


「行くよー!」


 シュイン、ぴかー!


 再びランドルフ伯爵夫妻への渾身の治療が始まった。

 リーフたちが全力を込めて回復魔法を放つが、結果は俺の時と全く同じだった。


「うー、全然良くならないよー」


 リーフが呼吸を整えながら悔しがっているが、それはホワイトとおもちも同じだった。

 全く回復魔法が効かないなんて……

 すると、ランドルフ伯爵夫人が、ゆっくりとあることを話した。


「回復魔法が、効かない、ことも、あるわ。それは、対象者、が、死ぬ、寸前、だから、よ……」


 回復魔法の対象者が死ぬ寸前だと、体力ももうないので回復魔法が効かないらしい。

 その衝撃的な発言に、真っ先に動いたのがランドルフ伯爵領兵の偉い人だった。


「お、お館様! 奥様! し、死ぬなんて、グズッ、死ぬなんて言わないで下さい!」

「良いのだ。息子の、仇は、とった。馬鹿な子ほど、ふふ、可愛い、ものだな……」

「うおおおお!」


 ランドルフ伯爵領兵の偉い人は、ランドルフ伯爵に抱きついたまま嗚咽を漏らしていた。

 そして、ランドルフ伯爵はアルス殿下にあることを話した。


「殿下、小さな、息子が、いる。後を、頼む。ダイン、に、見つからぬ、よう、使用人、の、子、として、そだ、てた」

「ランドルフ伯爵、確かに承った」

「そうか、それ、は、よかっ、た」


 ランドルフ伯爵は、確かにアルス殿下にニコリとした。

 すると、シロとミケが急いで屋敷の中に入った。

 と、思ったら、あっという間に使用人と小さな赤ちゃんを連れてきた。


「だ、だ、旦那様! 奥様!」

「じ、侍従長、アステル、は……」

「ここに、アステル様はこちらにおります!」

「あぶー」


 あのダインと同じ茶色の髪の毛の赤ちゃんを、侍従長と呼ばれた女性がランドルフ伯爵夫人に抱かせた。

 赤ちゃんは、ランドルフ伯爵夫人の顔をペシペシと叩いていた。

 赤ちゃんのあどけない姿に、この場にいる全員が涙を堪えられなかった。


「ビル、ゴ、は、三年、前から、我が家に、配下の、ものを、送り、こんだ。一年、前、分かった、時には、既に、操り、人形、だった……」

「分かった、分かったから。もう喋らなくてもよい」


 軍務大臣が、ランドルフ伯爵がこれ以上話すのを止めようとしていた。

 屋敷の使用人や軍の関係者から話を聞けば、だいたいのことは分かる。

 そして、ランドルフ伯爵は、エステル殿下に詫びを入れた。


「エステル、殿下、息子、が、迷惑を、かけた……」

「もう、大丈夫、です……」


 エステル殿下も、涙が溢れ出ていた。

 結局、ダインはビルゴによって両親の目の前で爆死させられたのだから。

 そしてランドルフ伯爵は、息子を抱く妻の手を取った。


「願わく、ば、争いの、ない、世界、に……」

「どうか、息子、が、穏やか、に、育ち、ます、よう、に……」

「あぶー」


 ランドルフ伯爵夫妻は、最期に自身の思いを語った。

 そして、互いに息子を抱きしめていた。


「あぶあぶー」


 こうして、ランドルフ伯爵夫妻は、朝陽が周囲を照らす中息子に自身の願いを託す形でその生涯を終えた。

 屋敷の庭では、赤ん坊の声とともに涙声が暫くの間響いていたのだった。

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