第二百八話 謎の紫色の光
すると、俺がビルゴを外に誘き出そうと僅かに距離を取ってしまった時だった。
ビルゴが、ニヤリとしながら懐からペンライトみたいな魔導具を取り出した。
「まさかここまで追い詰められるとはな。奇襲を読んでいたとはいえ、対策不足だった、よ!」
カチッ。
ブォン、バリバリバリ。
「「ガアアアアー!」」
なんと、ビルゴが謎の魔導具のスイッチを押した途端、ランドルフ伯爵夫妻を紫色の光が包みこんだのだ。
激痛なのか二人が無意識に叫び声を上げているが、その代わりに二人の力が増している気がする。
更に、とんでもないことが起きた。
ぬるっ。
「……」
物言わぬ屍となっていたはずの魔獣化したダインが、無言で立ち上がったのだ。
あまりにも不気味な状況に、俺たちは一瞬固まってしまった。
シュイーン、ズドドドン!
「「「があっ」」」
ランドルフ伯爵夫人が、強烈な魔力弾を俺たち目掛けて乱射してきたのだ。
しかも、今までは風魔法系を主軸にしていたはずなのに、明らかに闇魔法系の魔力弾だった。
完全に不意を突かれ、俺たちは防御姿勢を取る間もなく吹き飛ばされてしまった。
そして、そのまま屋敷の玄関のドアから外に出てしまったのだ。
ザッ、ザッ。
「「「うぐっ……」」」
「ははは、俺たちを外に引きずりだしたかったみたいだが、お前らが外に吹き飛んだな」
ダメージが大きく何とか立ち上がった俺たちを、ビルゴが馬鹿にしたように大笑いしていました。
どうやら、あの謎の魔導具は屋敷の敷地内に隠されている魔導具と連携しているらしく、隠されている魔導具の出力を上げる効果があるらしい。
スッ。
シュイン、ズドドドン!
「ぐううう……」
またもやランドルフ伯爵夫人が右手を伸ばして魔力弾を乱射したので、俺は間一髪魔法障壁を展開して魔力弾を防いだ。
魔力弾なのに、とんでもない威力の魔法だよ。
ブオン、ガキン、ガキン!
「……」
「ぐうっ、力が増しているぞ」
更に、ランドルフ伯爵が剣を構えて物すごい勢いで突っ込んできた。
こちらもアルス殿下が辛うじて受け止めるが、明らかに先ほどよりも剣の威力が増している。
アルス殿下は、一気にランドルフ伯爵に押され始めた。
「……」
バシン、バシン!
しかも、無言で立ち上がった魔獣化したダインが、物すごい勢いで俺が展開する魔法障壁をぶん殴ってきた。
ダインは、自身の拳が壊れても関係なく殴ってくるので、一種の恐怖すらある。
しかし、俺たちも対抗策を準備していないわけでは無い。
「ビアンカ、いけ!」
「うむ、任せるのじゃ!」
シュイン、バリバリバリ!
「「「があああ!」」」
ビアンカ殿下が、俺たちも巻き込むのも関係なく広範囲のエリアスタンを放った。
自爆覚悟の攻撃はかなりの効果があり、少しの間だがランドルフ伯爵夫妻とビルゴの動きを止めることに成功した。
「はあああ、せい!」
シュッ、シュパッ!
ボトリ、ドサッ。
その間に、エステル殿下がダインの残りの腕を切断した。
ダインは両腕を失ったことで完全にバランスを失い、仰向けに倒れて動けなくなった。
これで、少なくともダインは戦闘不能になったはずだ。
シュイン、ぴかー!
「アルス殿下、大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ。助かった」
ビルゴたちが動けなくなった間に、俺は一番ダメージの大きいアルス殿下に近寄って治療を行った。
他の人にも、エリアヒールをかけて治療していく。
咄嗟に使ったとはいえ、エリアヒールが成功して良かった。
「くそ、ふざけた真似をしやがって!」
カチッ。
「「ガアアアアー!」」
しかしながら、ビルゴは更にペンライト型の魔導具のスイッチを押した。
ランドルフ伯爵夫妻を再び謎の紫色の光が包み込み、悲鳴を上げていた。
明らかに許容範囲を超えた力を注ぎ込まれたのか、ランドルフ伯爵夫妻から少し煙も上がっていた。
更に、とんでもないことが起きてしまった。
「……」
ドン、ドンドンドン!
「全員、退避!」
シューン、ズドーーーン!
「ぐう、ぐううう!」
「「「きゃあ!」」」
なんと、倒れていたダインの胸元が紫色に輝き始めたと思ったら、急にダインの体が膨らんで大爆発を起こしたのだ。
俺は、何とか辛うじて広範囲魔法障壁を展開したが、爆発の衝撃は凄まじくて屋敷の庭や部屋の窓ガラスも吹き飛ぶ程だった。
当然、俺たちだけでなくビルゴたちも吹き飛ばされた。
そして、ダインは完全に跡形もなく吹き飛んだのだ。
ゆらり。
「「うっ、うう……」」
しかし、それでもランドルフ伯爵夫妻は全身に致命傷に近い傷を負いながら立ち上がったのだ。
不自然に手足が曲がっていて、かなり危険な状態だ。
「がっ、くそ。やり過ぎたか……」
そして、ビルゴも剣を杖にしながら何とか立ち上がろうとした。
爆発の衝撃で、ビルゴもかなりのダメージを負っている。
だが、俺たちも爆風の直撃は避けたが吹き飛ばされていた。
それぞれが何とか立ち上がろうとした時、庭の中を駆け回っていたシロとミケが庭に飾ってあった女神の彫刻を前にして叫んだ。
「「怪しいもの、見つけた!」」
そして、シロとミケは、マジックバッグからバトルハンマーを取り出して女神の彫刻を豪快に壊し始めた。
更に、女神の彫刻にあったガラス玉をハンマーで叩き割った。
バリーン!
ガラス玉の中から、怪しく紫色に光るもう一つの水晶玉みたいなものが出てきた。
特殊なガラス玉でコーティングすることで、一見すると普通の女神像が持っているガラス玉に偽装していたのか。




