第二百五話 戦闘開始
いずれにせよ、まずダインを倒さないとならない。
しかし、ビルゴもどうにかしないとならない。
とにかくダインを弱体化させようと、状態異常回復魔法を使うために魔力を溜め始めた、その時でした。
タッ、タッ、タッ。
屋敷の二階から、中年の夫婦と思われる二人が完全武装の状態で降りてきた。
男性は鎧を身に纏い、豪華な装飾が施された剣を手にしていた。
一方、女性の方は漆黒のローブを身に纏い、金属製の彫刻が施された杖を手にしていた。
気になるのは、二人とも生気のない目をしていることだ。
すると、アルス殿下がダインに叫んだ。
「ダイン、貴様はランドルフ伯爵夫妻に何かを仕掛けたな」
「ふふ、流石はアルス殿下だ。しかし、種明かしはしないぞ」
どうやら、ビルゴは何らかの方法を使ってランドルフ伯爵夫妻を操っているようだ。
なら、纏めて異常状態を解除すればいい。
俺はそう思い、一気に溜めた魔力を解放した。
シュイン、ぴかー!
俺の放った状態異常回復魔法の光が、ランドルフ伯爵家の三人を包み込んだ。
しかし、最初から人に戻るとは思っていなかったダインはともかくとして、ランドルフ伯爵夫妻にも全くと言っていいほど効果がなかった。
というか、何らかの力によって状態異常回復魔法が阻まれたって感じだ。
「ということは、俺たちはその何かをどうにかしないといけないみたいだな」
「サトーは物わかりが良くて助かる。つまりはそういうことだ」
ビルゴが俺にニヤリとしていたが、そのどこに何があるかを戦いながら見つけないとならない。
これは、かなり難易度が高い戦いになりそうだ。
俺は、剣を手にしながらどうするかを考えていた。
「こうなったら、分かれて行動するしかない。勘のいいシロとミケに自由に行動させて、俺たちで四人を抑え込もう」
俺の考えに、アルス殿下も頷いた。
そして、直ぐに指示を出した。
「そうするしかなさそうだ。直ぐに動くぞ! サトーはビルゴを抑えてくれ、私がランドルフ伯爵を抑える。その他のもので、ランドルフ伯爵夫人とダインを抑えろ」
「「「了解!」」」
直ぐに、俺たちは身体能力強化を使ってそれぞれのターゲットに向かって斬り込んでいった。
結局、ランドルフ伯爵夫人にはビアンカ殿下とマリリさんが、そしてダインにはエステル殿下、リンさん、オリガさんが対応することになった。
シロとミケが屋敷の中と外に分かれて行動を始めたが、そうはさせじとビルゴが動き出した。
シューン。
「「「グオオオー!」」」
「ちび二人が幾ら強くても、これだけのオークを相手にするのはキツイだろう!」
ビルゴは、俺の剣が届く前に素早く魔導具を発動させた。
百体を超えるオークが、この屋敷内外に溢れかえった。
物量で、俺たちを足止めするつもりだな。
ガキン、ガキン!
「まさか、俺が受けた初心者冒険者向け講座の講師と、こうして切り合うとはな!」
「ふふっ、ルーキーはベテランの言うことを聞いていることだな」
俺は、とにかくビルゴに魔導具を使わせないようにと、接近戦で挑んでいた。
俺は攻撃魔法が使えない上に他にも遠距離攻撃が使えないので、とにかく手数をかけてビルゴの動きを止めるしかない。
幸いにしてビルゴは俺のことをおちょくっているのか、俺の作戦に付き合っている。
とにかく、この作戦を続けることが大切だ。
ガキッ、キン!
「……」
「よもや、こんな形でかの有名なランドルフ伯爵と真剣勝負をするとは」
ランドルフ伯爵とアルス殿下は、お互いに激しく切り合っていた。
ランドルフ伯爵は剣の名手で、それこそ王国内でも屈指の実力者だという。
そんな相手と互角に渡り合っているアルス殿下も、相当なものがあるぞ。
シュイン、ズドーン、ズドーン。
「……」
「稀代の魔女と呼ばれた伯爵夫人と戦うとはのう」
「援護します」
ランドルフ伯爵夫人は見た目通りの魔法使いタイプで、ビアンカ殿下とマリリさんの二人を相手にしても余裕で魔法を撃ち合っていた。
しかし、屋敷内でこれだけの魔法を撃ち合って大丈夫なのかと心配になる。
ただ、こちらも互角の勝負に持ち込むことが出来ていた。
ザシュ、ザシュ!
「とやー!」
「えやー!」
「「「ブヒー!」」」
シロとミケは、斬馬刀みたいになった魔法剣を使って次々とオークを倒していった。
もちろんオーク肉は美味しいってことを知っているので、無駄なく効率良く頭部を潰していた。
こちらは、数が多いだけで早いうちにどうにかなるかも知れない。




