第百九十九話 まさかの手合わせの相手
翌朝から、軍務卿とヴィル君も訓練に参加することになった。
というか、二人とも既に訓練着に着替えてやる気満々だ。
軍務卿はゴツい木剣を手にしているけど、いったいどうするつもりなんだろうか。
取り敢えず、準備運動を行なって魔力制御からすることにした。
「ふむ、これが例の魔法剣か。中々面白い代物だ」
俺たちが魔法剣を使って魔力循環を行なっていると、軍務卿が興味深そうに訓練の様子を見ていた。
効果のある訓練は、どんどん軍の訓練に取り入れるつもりらしい。
というか、ヴィル君は普通に魔法剣を発動させているぞ。
やはり軍務卿の家系だけあって、見た目からは想像つかないほど格闘センスがあるのでしょう。
その後は魔法障壁の訓練などを行い、今度は手合わせをすることに。
格闘技を専門とするヴィル君は、ミケ、シロ、ドラコと手合わせするみたいだ。
さて、俺はいつも通りエステル殿下とリンさんと手合わせを行おう。
そう思っていたのだが……
「サトー、儂と手合わせするぞ」
えっ、俺が軍務卿の相手をするの?!
思わず振り返ってエステル殿下とリンさんを見たけど、苦笑いしてどうぞどうぞってしていた。
くそうって思いながら、俺は木剣を手にして軍務卿と対峙した。
身長は二メートルを超え、孫がいるとは思えないほどの筋肉質の体は凄みすら感じた。
そして、いつの間にかブルーノ侯爵も観戦に訪れていて、審判役をルキアさんが務めていた。
「それでは五分一本勝負、始め!」
「はあああ!」
ブオン、ブオン!
軍務卿が、力強く鋭い剣撃を繰り出してくる。
俺は、最小の動きで軍務卿の木剣を避けつつ、隙をついて木剣で切り掛かった。
しかし、軍務卿も俺の剣を難なく受け止めている。
間違いなく、今まで戦った人の中で一番強い。
俺は、できるだけ軍務卿の剣術を盗めるように集中しながら手合わせを続けた。
「時間です、そこまで」
そして、何とか五分間耐えきった。
俺は汗だくなのに、軍務卿は息は荒いが平然としている。
このおじいちゃん、マジで化け物だよ。
「凄い、お祖父様の剣を全部回避して打ち込んでいます。サトーさんは、凄腕なんですね」
ヴィル君が目をまんまるにするほど驚いているけど、俺は回避能力が高いだけですよ。
なんせ、いつもミケとシロの二人を相手にしていたのだからな。
すると、軍務卿が徐ろに俺に近づいてきた。
「ふむ、回避能力は素晴らしいものがある。しかし、攻撃時の踏み込みが足らない。魔法剣に頼っているのでは、キチンとした剣は扱えない。期間は短いが、儂が鍛えてやる」
あの、軍務卿。
ニヤリとしながら、俺の肩を叩かないで下さい。
俺は、剣豪を目指しているわけじゃないのですから。
慌ててビアンカ殿下とヴィル君を見たが、黙って首を横に振るだけだった。
それって、諦めろってことですか……
「ははは。では、さっそく始めるぞ!」
そして朝食までの間、俺は軍務卿によるシゴキを受ける羽目になった。
お陰で、朝からヘロヘロになってしまった。
後でヴィル君に聞いたら、軍務卿は最近の兵は軟弱もので困ると呟いていたので、どうやら俺をいいターゲットにしたのだと言っていた。
いやいや、俺は軍属じゃないんですけど……
思わずガクリとしてしまったのだった。




