第百九十一話 今日の役割分担
そして、もう一つ大事な話があった。
「ランドルフ伯爵家の様子を確認するために、当面はバスク子爵領からブルーノ侯爵領へ拠点を移す。偵察も出しているが、近い内に従魔による調査も行う予定だ」
アルス殿下のいう通り、ランドルフ伯爵家と国境を接する人神教国への対応が最大の目標となる。
ランドルフ伯爵家の令嬢が偽者だったということもあり、詳しく調査を行う必要がある。
なにせ、学園を強制退学になったあのぽっちゃり君がいるところだ。
優秀なはずの両親もどうなっているか、確認する必要がある。
この辺は、アルス殿下とビアンカ殿下が調整するそうだ。
国との調整が発生するので、俺ならともかくとしてエステル殿下に任せるのは難しいだろう。
「では、改めてこの後の流れを整理する。ルキアとリンはブルーノ侯爵家の対応、私とビアンカは国との調整だ。サトーは治療を担当し、普段王都でも巡回をしているシロとミケにはブルーノ侯爵領兵とともに町の巡回をしてもらう」
「「頑張るよ!」」
えーっと、役割分担としては問題ないと思う。
シロとミケに関しても、慣れている仕事だから問題ない。
二人とも、やる気満々で手を上げていた。
しかし、一人だけ名前が呼ばれていないものがいたような気が……
「アルス殿下、その、エステル殿下は何をするのですか?」
そうです、王族の一人であるエステル殿下の名前が呼ばれていません。
当の本人もやる気があるみたいだけど、アルス殿下が下した決定はある意味残酷なものだった。
「ああ、エステルはレポート提出忘れがあったからそれをやらせる。学園側からわざわざ王城に連絡があった」
「あっ……」
エステル殿下も、何かを思い出したのかヤバいって表情のまま固まっていた。
あーあ、この分だとフローラ様はまた怒っているだろうなあ。
こればっかりは、俺も何も言えなかった。
「では、エステルとビアンカ以外は解散だ。大変だろうが、それぞれ頑張ってくれ」
「「「はい」」」
ということで、ブルーノ侯爵も含めて一斉に動き始めた。
ビアンカ殿下はこのままアルス殿下と打ち合わせだろうが、エステル殿下が残っている理由はもちろん怒られるためだ。
そして、俺たちが応接室を出た瞬間、兄から妹への怒号が響き渡ったのだった。
「うう、なんで女装をしないといけないのだろうか……」
「聖女様だから、女性にならないといけないんだよー」
俺は、リーフとスライムのおもちとともにとぼとぼと治療を行う教会へ向かった。
場所を教えて貰ったから、だいたいの場所は分かる。
俺のぼやきにリーフが正論で返して来たが、俺はパパっと女装してから屋敷を出る事になった。
ちなみに、回復魔法が使えるネズミのホワイトは他の従魔の指揮を取るために屋敷に戻った。
フランソワも回復魔法が使えるが、レポートを書くエステル殿下の監視という重要な役目を仰せつかった。
その為に、この面々で治療を行うことになった。
まあ、治療だけだから大丈夫かなと思ったら、予想外のことが起きてしまった。
ズラズラズラ。
「な、なにこれ……」
「人がいっぱいだよー!」
何と、既に教会前には多くの人が列を作っていた。
しかも、俺の姿を見て驚いている人が多数だ。
俺たちは、急いで教会の中に入って聖職者に話を聞いた。
「その、町で噂の聖女様が無料治療すると一気に話が広まりまして……」
シスターも困惑した表情で話をしてくれたが、つまりは女装した俺に治療して貰いたいというものが多数現れたということだ。
うん、これはさっさと治療を開始しないとヤバそうだ。
俺たちは、無言で頷いて改めて気合を入れなおした。




