第百八十九話 屋敷を捜索
「保護したものは、全て客室で保護しています。怪我などもなく、健康状態も良好です」
「そうか、それは何よりだ」
ルキアさんとエステル殿下とともに屋敷内の捜索に参加した侍従長が、色々と状況を伝えてくれた。
屋敷内にいる闇組織の構成員は全てタラちゃんとフランソワによって拘束されており、ブルーノ侯爵領兵の詰所に連行された。
なので、屋敷内には既に脅威は存在していない。
そして、ブルーノ侯爵領兵と国軍も駆けつけており、執務室などを厳重に警備していた。
「アルス殿下、サトーさん、お待たせしました」
ここで、ワース商会の制圧を担当していたリンさんが僕たちの前に姿を見せた。
スライム軍団とホワイトもいるが、何故かミケとシロの姿がなかった。
「あれ? リンさん、ミケとシロはどこに行きました?」
「その、いっぱい動いてお腹が空いたからと大部屋に向かいました。代わりに、ルキアさんがこちらに来るそうです」
ミケとシロはワース商会のものを相手に大立ち回りしたらしく、相当動いたという。
馬も大暴れしたため、こちらの被害は全くなかったという。
そして、ホワイト率いる従魔たちが隠されていたものを根こそぎ見つけ出し軍に引き渡したという。
町中も、ハミングバードのサファイアとアクアマリンとショコラが巡回して問題ないことを確認しているという。
ブルーノ侯爵領兵も、町中を巡回して治安維持に努めていた。
実は、基本的にブルーノ侯爵領兵は中立の立場を取っていたが密かにルキアさんがオース商会経由で連絡を取っていたという。
なので、いつでも動けるようになっていたらしい。
因みに、ブルーノ侯爵領兵に行動開始の連絡をしたのはショコラだという。
「皆さま、お待たせして申し訳ござません」
「いや、ルキアもよくやった。それに、住民への対応も領主の娘にとって重要なことだ」
ここで、大部屋からルキアさんが駆けつけてきた。
久々に領民の前に姿を見せたから、挨拶対応も大変だったのだろう。
父親であるブルーノ侯爵が相手を引き受けてくれたらしく、それでこちらにやってきたという。
すると、ルキアさんが苦笑しながら俺に話しかけてきた。
「その、サトーさんのことをブルーノ侯爵家に現れた聖女様だと崇める人がかなりおりました」
あの、なんですかそれは。
俺は、ただの女装している男だぞ。
これには、アルス殿下もリンさんもただ苦笑するだけだった。
ぽちぽちぽち。
「あの、ビアンカ殿下、いったい何をしているんですか?」
「もちろん各所に連絡をしておる『聖女サトーは、今後も使えそう』じゃと」
おーい、いったい何を報告しているんですかい!
しかも既に報告済みらしく、アルス殿下の通信用魔導具にも連絡が入っていた。
俺は、ガックリとしながら先ずは執務室の中に入った。
そして、早速従魔たちが一斉に動き出した。
ガサゴソガサゴソ、ガサゴソガサゴソ。
「ふむ、これは凄いな」
アルス殿下も感心しているけど、何も問題ない書類は手をつけずに問題のある書類だけ発見していった。
これだけの芸当ができるのは、潜入捜査を行なっていたからだろう。
出てきた書類をルキアさんがチェックするけど、全部問題のある書類だった。
そして、僅か三十分で捜索が完了した。
続いて、ガッツ、偽物ブルーノ侯爵、偽物令嬢、偽物執事の部屋を捜索したが、ガッツの部屋からは大量の魔導具が押収された。
悪の親玉であるビルゴの指示書と思わしき書類もあり、これで闇組織の関与が確定した。
偽物三人の部屋からは大量の金品や宝石が出てきて、かなり贅沢なことをしていたのだと直ぐに分かった。
これから幾ら使われたのかを確認して、横領額を決めるという。
そして、幸いにしてブルーノ侯爵とルキアさんの部屋は手つかずだった。
「これだけ証拠品が押収できれば、闇組織の犯行だと裏付けられる。ランドルフ伯爵家の犯行ではないが、何か関わっているのは間違いない」
アルス殿下とビアンカ殿下が次々と証拠品を通信用魔導具で読み取って送っているけど、明日の朝もう一回捜索を行うことになった。
と、ここでルキアさんが俺にある依頼をしてきた。
「その、サトーさんには教会で無料治療をして欲しいのです。迷惑をかけた町の人に、少しでも謝罪できないかと思っております。父も、この案に賛成しております」
この案には、俺も賛成だ。
後は、場合によって使用人の補充もしないとならないので、かなり忙しく動くことになる。
そして、気になる事が。
「あの、できればバスク子爵領に置いていった三人を迎えに行きたいのですけど……」
「ああ、それは大丈夫です。既に、馬とタラちゃんがバスク子爵領に向かっておりますので、明日には来るかもしれません」
リンさんも、かなり手回しが早いですね。
それなら、俺も一安心だ。
現場保存を兵に任せ、俺たちは大部屋に戻った。
「お代わり下さい!」
「「下さい!」」
そこには、ビアンカ殿下、ミケ、シロが何回目か分からないお代わりを頼んでいて、テーブルの上にはものすごい数のお皿が積み上がっていた。
パーティー自体はもう終盤なのだが、他の招待客の視線を一身に集めていることに。
しかも、エステル殿下は大立ち回りをする前に自ら王女と言っていたのだ。
うん、ミケとシロ、それにリーフはいいとして、エステル殿下がこれはちょっとまずいのでは。
早速、動き出したものがいた。
「エースーテール……」
「お、お、お、お、お兄ちゃん!」
「正座!」
あーあ、アルス殿下が激怒してエステル殿下を説教し始めた。
せっかく珍しくエステル殿下が良い姿を見せたのに、全てがパーになった。
ブルーノ侯爵も思わず苦笑している中で、今夜は解散となった。
ちなみに、アルス殿下たちは屋敷に泊まるそうだが俺たちはこのままコマドリ亭に戻ることに。
客室が確保できていないので、こればっかりはしょうがないだろう。
エステル殿下はどうなるのか、さっぱり分からないけどね。




