第百八十二話 パーティーのドレスは?
朝食を食べ終えたら、それぞれ動き始めた。
今日は徹底的にやると、みんな意気込んでいるのがとても怖い。
特に、街道に行く馬とタコヤキは程々にするように。
というか、俺も他人を気にする余裕はなかった。
「あ、握手して下さい!」
「きゃー! 私の方を見てくれたわ!」
「さ、サインして下さい!」
オース商会開店直後に、またもや多くのお客様が押し寄せた。
女性客は俺のことをまるでアイドルに出会ったみたいにはしゃいでいるし、男性客は俺の女装姿を見て頬を赤らめていた。
そのことを差し引いても昨日以上の大混雑で、小さな店員さんのリーフも忙しく動いていた。
というのも、俺だけでなくリーフ目的のお客様もいたからだ。
ブルーノ侯爵領にも妖精はいるが、それでも珍しいことには変わりない。
店員も増員していたが、それでも会計には列ができていた。
バキッ、ドカッ!
「「「ぐふぁ!」」」
「ヒヒーン」
門番役の馬は一頭だけだけど、それでも十分な効果が出ていた。
でも、昨日と同じく店頭で時折聞こえる打撃音を気にする余裕は全くなく、目の前のお客様の接客に専念した。
こうして怒涛の接客をしていたけど、いつの間にかエステル殿下、ミケ、シロの力持ち軍団がやってきていて商品の補充をしていた。
うん、声をかける余裕はないしあちら側も俺に声をかけなかった。
目まぐるしい時間が流れていき、気がついたらお昼を過ぎていた。
「つ、疲れた……」
「疲れたよ……」
ようやく落ち着いたところで、俺とリーフは二階の店長室に呼ばれた。
既に三時を過ぎていて、サンドイッチなどを食べてソファーにぐたーってしていた。
うん、下手な訓練よりもずっと疲労した。
対して、目の前にいる店長は売上が良くて凄いご機嫌だ。
「いやあ、サトー様のお力はものすごいですな。町のものは『聖女様』が現れたと言っておりますぞ」
あの、女装男子にどんな幻想を抱いているんですか……
思わずズッコケたくなる話だったぞ。
そういえば、お客様の中に「聖女様がいた!」ってはしゃいでいたものがいたなあ。
リーフの場合は、単に小さな店員さんだった。
でも、店長が俺とリーフのことを呼んだのは別の理由だった。
「お屋敷より、サトー様はできるだけ地味な服装で来てくれとの要望がありました。何でも、サトー様が来るのはいいのだがランドルフ伯爵令嬢様が目立たなくなるのは避けたいとのことです」
あー、うん。
この時点で、ランドルフ伯爵令嬢は面倒くさい相手だと分かった。
俺だって、フリフリのドレスは着たくない。
ある意味、好都合だった。
「しかし、サトー様は何もしなくても美人ですので、ちょっと考えものですな……」
「あー」
リーフよ、しげしげと俺のことを見ながら店長に同意するのではない。
俺だって、さっさと女装をやめたいわ。
とりあえず、閉店後にオース商会の馬車に乗って屋敷に行くことになった。
ビアンカ殿下とルキアさんたちは、うちの幌馬車で向かうことになっている。
何にせよ、もう少しで閉店時間だ。
店内に戻って頑張らないと。




