第百七十七話 まさかの大忙しの接客
こうして役割分担も決まったので、俺たちは昼食を食べたらそれぞれ行動を開始することに。
ちなみに、コマドリ亭の外に出ると何故か向かいのワース商会の軒下にぶら下がっている大きなミノムシが増えていた。
この調子だと、更に大きなミノムシが増えそうだ。
そんなことを思いながら、オース商会に入ってエプロンを受け取って接客を始めた。
「いらっしゃいませー」
「えっ? 妖精?!」
何故かリーフまで俺と一緒に接客を始めていたけど、リーフの場合は声掛けくらいしかできない。
なので、俺がひたすら接客することになった。
「こちらの商品などはいかがでしょうか。奥様によくお似合いかと」
「あらあ、美人の店員さんに褒められると気分が良いわね」
普通に接客しているつもりなんだけど、何故かおばさんからよく褒められた。
逆に男性客は、顔を赤らめてもじもじとしていた。
うーん、中々難しいぞ。
「おっ、邪魔する……」
「ブルル!」
ドカン!
ちなみに、オース商会の邪魔をしようとしたものは、店頭にいる馬に阻止されていた。
コマドリ亭に近づくものも、同様に馬に阻止されている。
そして、その度にワース商会の軒先に大きなミノムシが増えていった。
逆にいうと、今オース商会に入っているお客様は全員問題ない人だ。
なので、俺も積極的に接客していた。
「うーんとね、こっちのお菓子の方が美味しかったの。こっちは日持ちするよ」
リーフはというと、いつの間にかお菓子コーナーで接客していた。
まあ、正直に言っているけど間違った接客ではないのでそのままやらせておきましょう。
そして、気がつくと店内にものすごい数のお客様が入ってきた。
うん、これはどういうことでしょうか?
店員のおばちゃんに、理由を聞いてみよう。
「どうやら、美人店員がいるって噂になっているみたいよ。妖精店員もいるし、更には善悪を判断して門番のようにしている馬までいるから、ひと目見てみようとしているのよ」
わお、人が増えた原因は俺たちでしたか。
かといって、今から店員を辞める訳にはいかない。
リーフと馬がいる限り、状況は同じだ。
馬も、全く敵意のない子どもには普通に体を撫でさせていた。
そして、ワース商会のものを次々と撃退していた。
あっ、いつの間にか大きなミノムシの数が減っていた。
とはいえボコボコにした上で最低限の治療しかしていないから、間違いなく数日は使いものにならないだろう。
ちなみにボコボコにしたのは、俺ではない。
そんなことを思いながら、次々と接客していった。
人が多いので、会計のおばちゃんも他の店員も大忙しだ。
そして、俺は別の意味で大忙しだった。
「て、店員さん! さ、サイン下さい!」
「えっ、わ、私ですか?!」
「はい! こんな美人がいるなんて凄いです!」
なんと、俺にサインを求めるお客様が多数現れたのだ。
念のために店長に確認したら、あっさりオッケーを出した。
そして、一人サインをしたら後は雪崩のようにお客様が俺に押し寄せたのだ。
しかも、サインを求めるのは圧倒的に女性客だった。
なんで、こんなことになったのだろうか……
「かきかき、こんな感じでいいかなー?」
「わあ、可愛い字だね。妖精からサインもらっちゃった!」
小さな店員さんにもサインを求める人がいたけど、それだけ俺たちの存在が珍しいみたいだ。
もちろん、本来の業務である店内の接客もしっかりと行った。
「いやはや、たくさんのお客様がいらしていて凄いですな」
売上がとんでもないことになっていて、店長は持ち手をしながら満面の笑みだった。
そりゃ、これだけのお客様が買い物をして喜ばない経営者はいないだろう。
こうして、俺たちは夕方の閉店時間まで忙しく働いたのだった。




