第百七十六話 これからのことを話します
とりあえず、尻もちをついている娘さんを起こさないと。
ルキアさんと同じくらいの年齢のウサギ獣人で、父親が人族で母親がウサギ獣人なのだから母親の血を受け継いでいるみたいだ。
「あの、大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫……痛っ!」
どうやら、尻もちをついた時に地面についた手を捻ってしまったみたいだ。
俺は、直ぐに女性の治療を行った。
シュイン、ぴかー。
「これでどうでしょうか?」
「わあ、痛みが全然ない! ありがとうございます」
女性は、尻もちをついたまま自分の手を信じられない表情で見たあとニコリとしながらお礼を言ってきた。
そして、改めて手を取って女性を起こした。
ぐいっ。
「きゃっ……」
女性は立ち上がる時に躓いてしまい、手を取った俺の胸元にもたれかかった。
そして、少し頬を赤ながら俺を見上げた。
「大丈夫ですか?」
「あっ、は、はい! ありがとうございます!」
女性は、バッと俺から離れた。
ちょっと焦った表情をしていたけど、これなら大丈夫だ。
「サトー、やったね……」
「息をするようにやったのじゃ」
エステル殿下とビアンカ殿下がジト目で俺を見ているが、これは事故だから気にしないことにした。
何が起きているかを聞かないといけないので、オース商会の店長とともにコマドリ亭の中に入って話を聞くことになった。
「どうやらランドルフ伯爵家令嬢が、自分の婚約披露パーティーを派手にしたいがために各商店から無理矢理上納金を集めようとしているみたいです。そのために、他の店でも同様に無理矢理みかじめ料を取るか人質を取るような手段をしているようです」
コマドリ亭の旦那さんが何があったか説明したら、一斉に怒りの炎が燃え上がっていた。
特に、ルキアさんが珍しいレベルで激しく怒っていた。
「とりあえず、町を回って無謀なことを止めなければならぬのう。屋敷とワース商会への従魔の潜入と合わせて、町を巡回するとするか」
「幸いなことに、町を守る兵は中立を貫いております。捕まえたものを兵の宿舎に突き出せば、対応してくれるかと」
ビアンカ殿下の方針に、オース商会の店長が情報を付け加えてくれた。
見た目倒しの連中が多いので、リンさんたちだけでも問題ないという。
念のためにタラちゃんとポチもついていくらしいけど、正直やりすぎないかが心配だった。
残りの従魔で、ブルーノ侯爵家とワース商会に潜入するらしい。
「で、私は何をすれは?」
「サトーは、オース商会でバイトじゃ。ワース商会の目の前じゃし、現地に残って何かあった時に直ぐに動いて貰わなければならぬ」
「サトー様なら、問題なく接客できます。エプロンもございますので、直ぐに接客できます」
またまたビアンカ殿下の言葉に、オース商会の店長が言葉を続けた。
間違いなく面倒なことが起きそうだから、確かに動かない方が良さそうだ。
話はこれで終わったので、後は宿泊の手続きをします。
「では、私は商会に戻って準備を進めます。後ほど、宜しくお願いいたします」
オース商会の店長は、準備をするということで商会に帰っていった。
その間に、オリガさんとマリリさんが色々手続きをしてくれた。
「八人と馬二頭で、二泊三日お願いします」
「可能でしたら、三部屋でお願いします。最悪、サトー様お一人だけは別部屋でお願いいたします」
「な、何か理由がありそうですね。三部屋ご用意いたします」
あの、マリリさんや、そんな言い方だと誤解されそうで怖いんですけど……
二段ベッドが二個ある部屋を三部屋用意してくれたので、何とかなりそうです。
馬には、後で厩舎の場所を教えておけば大丈夫でしょう。
そして、ご厚意で昼食を用意してくれることになった。
旦那さんがササッと焼肉定食を用意してくれたのですが、食欲をそそるいい匂いがしていた。
「「おいしー!」
「いやあ、このくらい歯ごたえのある肉はいいなあ。かぶりつくのが、また溜まらないな」
ミケとシロはともかくとして、エステル殿下も王女様らしくなく豪快に肉にかぶりついていた。
もはや誰も何も言わないし、そもそもがうちのメンバーは肉食系が多い。
リンさんもルキアさんも、モリモリとお肉を食べていた。
従魔たちも用意してくれた昼食を食べているし、これから動くだけの元気を溜めているみたいだった。
「とりあえず、ワース商会のものが何か悪いことをしていたら、ぐるぐる巻きにして兵に突き出せば良いんだね」
「そういうことです。そして、たぶん私たちのことを襲ってくる可能性が高いので、撃退すればよいかと」
エステル殿下にリンさんが色々と話をしていたけど、ワース商会の手先は門番たる馬を超えることはできないだろう。
そして、タラちゃんたちにぐるぐる巻きにされて巨大ミノムシの完成まで読めてしまった。
タラちゃんたちも、その辺は十分に理解していた。
「いやあ、悪が相手だから大暴れしても褒められるから気分が良いなあ!」
「「「……」」」
エステル殿下、幾ら相手が悪とはいえやり過ぎは良くない。
特に、ルキアさんが後始末に奔走することだけは避けないと。
呑気な王女様を、殆どのメンバーが大丈夫かなと心配していた。




