第百七十三話 オース商会に到着
馬車は、ゆっくりとブルーノ侯爵領の領都の町並みを進んでいきます。
石造りの建物が建ち並び、多くの人が道を歩いていてとても活気に溢れていた。
そして、王都よりも獣人の数が多い気がした。
「ブルーノ侯爵領は、獣人蔑視とかはありませんので。父も、融和政策を進めております」
ルキアさんが色々と説明してくれるけど、とにかくいい町なんですね。
流石は大領地の領都ってことです。
ミケやシロ、それにリーフたちも馬車から身を乗り出して興味深そうに町を眺めていました。
そして、程なくしてブルーノ侯爵領にあるオース商会支部に到着しました。
馬車を店先に出しておくと邪魔なので、エステル殿下を叩き起こして馬から馬具を外してアイテムボックスにしまいます。
馬は普通に店頭にどーんっているけど、賢い馬だし気にしなくて良いでしょう。
「うう、サトー酷いよ……」
「ブルーノ侯爵領についたのだから、仕方ないですよ」
「うう……」
叩き起こされたエステル殿下が何故か俺に文句を言ってきたけど、起こしたのは俺じゃなくてリーフたちですからね。
それに、もう現地に着いたのだからお仕事をしないといけません。
その間に、リンさんが店内にいた女性に色々と説明をしてくれて、店長と会うことになりました。
とりあえず、全員で二階にある店長の部屋に向かいます。
コンコン。
「失礼します。リンお嬢様がおみえになりました」
「そうか、通してくれ」
部屋の中から声が聞こえ、僕たちは店長の部屋に入りました。
なんというか、バスク子爵領の会長とうり二つな顔だった。
「店長、急に押しかけて申し訳ありません」
「いやいや、ことは急を要します。どうぞおかけになって下さい」
ということで、リンさんとエステル殿下、それにビアンカ殿下がソファーに座った。
後の面々は、ソファーの後ろに立って侍従ポジションです。
「サトーさん、何をしているんですか?」
「サトーは、話を聞かないとならぬ立場じゃ」
うん、スルーしようとしたのにリンさんとビアンカ殿下に手招きされて締まった。
俺は、仕方なくビアンカ殿下の隣に座りました。
「いやはや、事前に話を聞いておりましたが、皆さま変装なされておるのですな。リン様も、初見では分かりませんでしたぞ」
「そう言って頂けて、ある意味助かりましたわ。私だと分からないのが変装の目的ですし」
うまく変装の意図を理解してくれて、リンさんもホッと一安心だった。
リンさんと店長は知り合いなので、ある意味正解なのだろう。
そして、店長が何故か俺の方を向いてきた。
「端に座られている方は、変装されているとはいえとてもお綺麗な方ですね」
うん、店長は全く悪気ないのだろう。
僕のことを揉み手で褒めていた。
もちろん、こちら側の反応は酷いものだった。
リンさんとルキアさんは戸惑った表情をしていて、エステル殿下とビアンカ殿下は肩を震わせて何とか笑いを堪えていた。
そして、リンさんが一言。
「あの、そちらの方は男性です。女装しております……」
「えっ? はっ? ええ!」
店長が急に真顔になり、リンさんと俺のことを何回も見返していた。
もう、何回目のやり取りなのだろうか。
俺は、思わずとほほとなってしまった。
「ぶはは、も、もうだめ。お腹痛い……」
「くくく、傑作なのじゃ。いやはや、サトーの女装が完璧なのじゃな。くくく……」
そして、二人の王女様は腹を抱えながら大爆笑していた。
ミケやシロたちも、思わず笑っていたよ。
そして、この場が落ち着くまで暫く時間がかかった。
嗚呼、早く女装しなくても良いようになりたい……




