第百七十二話 ブルーノ侯爵領に到着
「ミケ、シロ。馬に街道に人や馬車がいるのだから気をつけろと言っておいて」
「「ヒヒーン!」」
「あのね、大丈夫だから心配するなだって」
「そのくらいは気をつけるって言っているよ」
俺が馬に言っても良いのだけど、二人の方が正しく伝わると思っていた。
まあ、馬も以前やりすぎてから反省しているみたいだし、大丈夫だと信じたい。
ちなみに、御者はオリガさんがしてくれていた。
「ぐー、ぐー」
「寝ているね」
「よく寝ているよ」
ミケとシロが寝袋に入って寝ているエステル殿下をちょんちょんと突っついているけど、この分だと昼食時にならないと起きないだろう。
リンさんとオリガさんも、もはやエステル殿下を気にすることはしなくなった。
その間に、作戦を立てることにします。
「オース商会に顔を出すにしても、我々でも情報を集めなければならぬ。数日間逗留する場所を見つけないとならない」
「それでしたら、オース商会の近くにコマドリ亭という宿があります。経営している夫妻と会ったことがありますが、とても感じのいい人です」
ビアンカ殿下の方針に、オリガさんが追加しました。
地元民でもあるオリガさんが太鼓判なら、きっといい宿なのは間違いないでしょう。
馬車を置くスペースもあるらしく、その点でもとてもありがたい。
「なら、そこを拠点とするかのう。そうそう、いくらサトーが女装中とはいえ、妾たちと部屋は分けるぞ」
「それは当たり前だと思いますが……」
やっちまいかねないとビアンカ殿下は言っているけど、僕の部屋にはミケとシロに加えて従魔たちが寝ている予定だ。
エステル殿下は、多分ビアンカ殿下と一緒な気がする。
うちの屋敷に泊まりに来るときも、キチンと部屋で寝ているから問題ないと思いたい。
そうこうしているうちに、あっという間にブルーノ侯爵領に到着した。
昼食前に着くなんて、流石はうちの馬の脚の速さだ。
ルキアさんが、何だか感慨深そうに町を眺めていますね。
「今のところ、特に問題があるようには見えません。でも、これなら何とかなりそうです」
ルキアさんも、町が落ち着いていてかなりホッとしていた。
それよりも、俺たちは別の意味でブルーノ侯爵家の兵に迷惑をかけていた。
「ぐー」
「あの、お連れの方は体調が悪いのですか?」
防壁の警備をしている兵に、未だに寝袋で寝ているエステル殿下のことを気にされてしまったのだ。
はたから見れば、体調が悪くて寝ているようにも見えますね。
「その、レポートを頑張った反動で寝ていますのでご心配なく……」
「「徹夜だったよー!」」
「そういうことですか。ご無理なさらなぬように」
リンさんが恐縮しながら答えて、この場は何とかなりました。
ミケとシロの発言もあったので、普通に本当だと思われたのだろう。
そして、従魔たちは既に起きていたけど寝ているエステル殿下から離れたところにいた。
総じて言えるのは、ブルーノ侯爵家の兵はいい人が多いってことだった。




