第百六十話 偽者ブルーノ侯爵
翌日、俺達は揃って王城に行くことに。
もちろん、要件はブルーノ侯爵家に向かう為に今後の事を打ち合わせする為です。
「あの、何で宰相執務室で仕事をしているんですか?」
「そりゃ、会議があるまで時間があるからじゃ。サトーは計算が速いし、チェックするだけじゃよ」
「それにしては、書類の山が凄いのですが……」
「気のせいじゃ」
俺はルキアさんと共に宰相執務室につれてこられて、大量の書類のチェックをしていた。
宰相まで書類が上がってくるのだから問題ないだろうと思ったのだけど、うん、計算間違えがちらほらあった。
計算間違えがあったものは、担当部署に差し戻しです。
「サトーさんは、本当に計算が速いですわ。はい、お茶です」
ルキアさんは、何故かメイド服を着て全員にお茶を配っていた。
でも、書類のチェックを手伝ってはくれません。
ルキアさんの笑顔の圧力が強烈です。
因みに、他の面々は元々実習に行く予定のところに行っていて、シロとミケも軍の施設に行っていた。
そんな中書類をチェックし始めて一時間、ようやく書類も少なくなった時の事でした。
職員が、少し困惑しながら連絡を取り次いだ。
「あの、宰相。その、ブルーノ侯爵が書類申請でお見えになるそうです」
「「「はっ?」」」
宰相だけでなく、俺やルキアさんも職員の話を聞いて固まってしまった。
何せ、ブルーノ侯爵家にこれから突入する手筈になっているのに、本人がやってくるのだから。
「ルキアさん、お父さんはどんな特徴がありますか?」
「はい、父は背はあまり高くなく瘦せ型です。わたしより少し背が低いです」
「うむ、それで間違いないだろう。後は、ブルーノ侯爵はルキアと同じ青髪だ」
これでブルーノ侯爵に関する情報が集められた。
更に、宰相からある事を指示された。
「サトー、この部屋に来た人物を鑑定してよい。どう考えても怪しい」
「私からもお願いします。というか、本物の父ならメイド服を着ていても直ぐに私と気が付くはずです」
ルキアさんからもお願いされたけど、俺も来る人物はとても怪しいと感じていた。
そして、ルキアさんに給仕を頼む事にしてブルーノ侯爵を部屋に入れる事に。
ガチャ。
「失礼する。普請に関する書類を持ってきた」
「「「……」」」
うん、誰だこいつは。
部屋に入ってきた人物は、俺よりも長身な上にでっぷりと太っていた。
更に、頭頂部が禿げていて側頭部に残っていた髪の毛も白髪交じりの茶髪だった。
宰相とルキアさんも、入ってきた人物を見て時間が止まったって感じの表情をしていた。
連れて来た二人の部下も、とっても怪しい雰囲気を醸し出していた。
「は、拝見します」
「うむ」
僕はその人物から書類を受け取って、ついでに鑑定を行った。
というか、鑑定をする必要あるかな?
「お茶でございます」
「おお、ありがとう」
そしてルキアさんがソファーに座った偽者ブルーノ侯爵にお茶を出すと、ブルーノ侯爵はルキアさんの豊かな胸を見てだらしない表情をしていた。
娘に欲情する父親が、どこにいるってんだよ。
茶番劇は、さっさと終わらせましょう。
「ブルーノ卿、とりあえず書類は受け取った。結果は領地に送るから、領地で待ってるように」
「良い結果をお待ちします。では、私はこれで」
バタン。
宰相が、強制的に偽者ブルーノ侯爵を部屋から追い出した。
そうして、僅か五分の面会が終わったけど、俺達はかなり疲れてしまった。
全員が分かり切っているけど、俺は念の為に鑑定結果を伝えた。
「えっと、貴族名はなく闇組織の構成員と出てきました。後ろについていた部下も同様です」
「あの、目と表情でセクハラをされました……」
「はあ、何故この様な分かり切った嘘をつくのだろうか。王都ブルーノ侯爵家への監視を強化しよう」
俺達は溜息をつきながら、仕事を再開した。
各所に連絡が行ったから、直ぐに対策は取られるだろう。
こういう時は、普通に仕事していた方が気がまぎれそうだ。




