第百五十九話 ぽっちゃり君がとんでもない事をやってしまった
しかし、これで事は終わらなかった。
何と屋敷の外で騒ぎが起きていた。
それは、応接室に入って報告に来た兵によってもたらされた。
「サトー様、屋敷の外でランドルフ伯爵家の者だと名乗る者が大騒ぎしております。屋敷の中に入れないと分かるやいなや路上にある石などを見境なく投げており、その、王家の方の馬車の窓ガラスを破壊しました……」
「「「はっ?」」」
兵によってもたらされた情報に、応接室にいる全員が一瞬固まってしまった。
しかも、よりによってフローラ様が乗ってきた馬車を壊すとは。
フローラ様、アルス殿下、ビアンカ殿下が、不敵な笑みを浮かべたまま応接室を出ていった。
「えーっと、エステル殿下は勉強を続けて下さい」
「サトーの鬼ー!」
未だにレポートが終わらないエステル殿下は、リンさんとルキアさんの監視下でレポートを続けてもらいましょう。
きちんとレポートを仕上げない限り、フローラ様の折檻が待っているぞ。
僕も、慌てて三人の後を追っていった。
「こらー! サトーを出しやがれ!」
うん、屋敷の門の前で絶叫しているのは間違いなくぽっちゃり君だ。
未だに何かを投げつけているけど、火事場のバカ力なのか門から有に三十メートルは離れたところに置いてあった王家の馬車に石を投げつけるなんて。
その力を、学園の授業で発揮して欲しいよ。
うん、見事に馬車の窓ガラスが粉々に割れていて、風通しが良くなっていた。
ぽっちゃり君、俺はこの馬車の持ち主を止めるつもりはないぞ。
「フランソワ、あの馬鹿を縛り上げるのじゃ!」
「がっ、くそ! 何だこれは!」
怒り心頭のビアンカ殿下が、従魔のフランソワに命令してぽっちゃり君を拘束させた。
ぽっちゃり君は糸から逃れようともがいているけど、ぽっちゃり君の実力でスパイダーシルクはどうにかできないと思うぞ。
せっかくだから、俺が誰の馬車を壊したか教えてあげよう。
「あーあー、ダインよ、こちらにいるのは陛下側室のフローラ様、アルス王子殿下、ビアンカ王女殿下です」
「はっ?」
「そして、ダインが破壊したのは王家の馬車です。うちの馬車ではありません」
「はっ? はっ?」
うーん、駄目だ。
芋虫みたいに地面に転がっているダインは、自分が何をしたのか理解していないみたいだ。
しょうがないので、偉い人に怒られて貰いましょう。
「ダイン、王家の馬車を破壊して謝罪なしですか。良い身分ですね」
「エステルに言い寄るだけでは飽き足らず、まさか破壊行為にまででるとはな」
「そもそも、そなたは謹慎処分のはず。堂々と破るとは、妾も予想外じゃ」
「あわ、あわわわ……」
ぽっちゃり君は、今更ながら怒らせた人がどんな人かを理解してガタガタと震えていた。
でも、起こした事実は覆らないし、怒れる三人はぽっちゃり君を許すつもりはない。
哀れ、ぽっちゃり君は駆けつけた軍によってドナドナされた。
ぽっちゃり君は、今夜は石と鉄で覆われた別荘で過ごすんだろうな。
「はあ、まさかこんな馬鹿な事をするとは。馬車は修理にまわして、他の馬車を呼び寄せないと」
「ダインは、引き起こした事件と併せて王都追放だろう。厳重な警備もつくな」
「はあ、頭が痛いのう。奴はここまで馬鹿だったとは……」
ドナドナされたぽっちゃり君を見て、王族三人が思わず溜息をついていた。
馬車は窓ガラスが割れるだけでなく、複数の傷もついていた。
というか、俺もぽっちゃり君の顔を金輪際見たくない。
俺達は、とぼとぼとしながら応接室に戻りました。
「ぷしゅー……」
そこには、頭から煙を出しているエステル殿下の姿があった。
何とかレポートは書き終えたらしいが、脳の処理を使い切ってしまったらしい。
リンさんとルキアさんも、オーバーヒート状態のエステル殿下を苦笑しながら見ていた。
「せっかくだから、ゆっくりしていきましょう。どうせエステルとビアンカは、サトーの屋敷に泊まるだろうし」
「ふむ、そうだな。では、私も風呂に入るとするか」
そして、ゴーイングマイウェイなフローラ様とアルス殿下によって、夕食まで屋敷に滞在する事が決まった。
まあ、軍による現場検証もあるし、少しゆっくりしたいみたいですね。
因みに、うちのちびっ子達は大勢の夕食になってかなり喜んでいた。




