第百三十四話 予想外の来客
大体の荷ほどきが完了した所で、早速お客様がやってきました。
といっても、事前に来ると言っていた方ですけどね。
俺達は、応接室にいるフローラ様の所に向かいます。
かちゃ。
「このお菓子は上手いなあ。ああ、紅茶のおかわりをくれ」
「私にも紅茶頂けるかしら」
「か、畏まりました」
応接室には、リンさんから貰った引っ越し祝いのお菓子を頬張る陛下と、普通に紅茶を飲んでいるフローラ様の姿があった。
一国の王が男爵邸に来ているので、侍従もかなり戸惑っているぞ。
「あの、フローラ様はともかくとして、何故陛下がここにいるのですか?」
「そりゃ、サトーの引っ越しが終わったかを見に来たからだ。もぐもぐ」
「全くもう……」
一国の王が、臣下の引っ越しを見に来ないで下さいよ。
フローラ様も思わず呆れていますよ。
「それはそうと、引っ越しは終わった様ね」
「はい、アイテムボックスを使ったのでかなり早く終わりました」
「そう、それは良かったわ」
フローラ様は俺にそう言うと、エステル殿下に向き直った。
というかエステル殿下、いつの間に陛下の隣にきてお菓子を食べているんだ?
「エステル、あなたは何をしていたの?」
「えっ? 自分の部屋を作っていたよ」
「ふーん、よく聞こえなかったわ」
「え、えっと、シロちゃんとミケちゃんの部屋を少してつだった、かな?」
「あなたはまたそうやって、他人の屋敷に自分の部屋を勝手に作って! しかもバレバレの嘘をつかないの!」
「あたた、痛い痛い!」
おお、エステル殿下へフローラ様のアイアンクローが綺麗に決まっているぞ。
「あの、王都のバスク子爵邸でも、空いていた倉庫がいつの間にかエステル殿下の隠れ家になっていました」
「一体あの人は何をやりたいのだろうか」
おい、エステル殿下よ。
倉庫を隠れ家にしていたのかよ。
リンさんの呆れた口調を聞く限り、その隠れ家もフローラ様に見つかって没収されたんだろうな。
「ううう……」
「はあ、全くもう。サトー、どうせエステルはちょくちょく泊まりに来るだろうから、部屋はそのままにして頂戴」
「あの、未婚の貴族令嬢が婚約者でもない未婚の男性の屋敷に泊まるのは問題じゃないですか?」
「サトーの場合は一緒に冒険していたから問題ないわ。それに、どうも周りの貴族からはエステルの婚約者候補にサトーが上がったって思われている様だし」
「「はっ?」」
アイアンクローをくらって伸びているエステル殿下を他所に、俺とリンさんは思わず呆けた言葉を出してしまった。




