第百六話 エステル殿下のレポートのお手伝い
コンコン。
「エステル、入るわよ」
フローラ様がドアをノックして、エステル殿下の部屋の中に入って行った。
俺達もフローラ様の後に続いて、エステル殿下の部屋に入っていった。
「へぁ……」
部屋の机の所は、椅子にもたれかかって口から魂が抜け出そうなエステル殿下の姿があった。
とても人前では見せる事の出来ない、王族とは思えない残念な姿だ。
リンさんもエステル殿下の姿を見て、思わずあちゃーと苦笑していた。
そんなエステル殿下の所に、コタローをライラック様に預けたフローラ様が近づいていった。
そしてフローラ様は、エステル殿下の頭に思いっきり拳骨を叩き込んだ。
ゴチン!
「エステル、いい加減にしなさい!」
「あた! えっ? なになに?」
「「おー」」
「あうー」
エステル殿下の頭から、良い拳骨の音がしたな。
フェアとレイアだけでなく、コタローもちょっとびっくりしていた。
そして、現実に戻されたエステル殿下が、頭を擦りながら辺りを見回していた。
エステル殿下の目が俺とリンさんを捉えると、エステル殿下が涙目になって俺達の所にやってきた。
「うわーん。サトー、リンちゃん、レポート手伝って!」
「「……」」
涙目どころか号泣してリンさんにすがりつくエステル殿下の姿を見て、俺はこりゃ駄目だと思ってしまった。
「皆の勉強の邪魔になるから、フェアちゃんとレイアちゃんは別の部屋で絵本を読みましょうね」
「「はーい」」
「コタローちゃんも、一緒に遊びましょうね」
「あうー」
パタン。
フローラ様とライラック様は、フェアとレイアとコタローに加えて侍従までひき連れてあっという間に部屋から出ていってしまった。
部屋に残ったのはエステル殿下とリンさんと俺のみで、エステル殿下の従魔であるショコラはベッドでスヤスヤと眠っています。
とりあえず、レポートの進捗を確認しましょう。
「リンさん、今回のレポートはどんな物ですか?」
「春休み期間の活動報告です。活動に対する改善報告なども併記します」
「うわーん、改善報告が書けないよー!」
どうやらエステル殿下は、活動報告は書けたのだが改善点が書けないらしい。
という事で、俺とリンさんとでエステル殿下のレポートを直し始める事に。
「エステル殿下、そもそもの活動報告の内容が間違っていますよ」
「確かに所々違っていますね」
「えっ!」
バルガス公爵領からエステル殿下と共に行動していたし、活動報告に書いている内容も分かる。
という事で、先ずは活動報告を書き直してから改善点を書くことになった。
「エステル殿下は戦いの時は問題ないのですが、会議とか打ち合わせには積極的に出て欲しいです」
「えー、サトーやリンちゃんがいるから大丈夫だよ」
「だから、その考え方が駄目なんです!」
「あはは……」
途中からは、俺はエステル殿下に対して容赦なくツッコむ様になっていた。
正直な所、シロやミケの方がエステル殿下よりも精神年齢が高い様に感じたぞ。
こうして俺達は、昼食の前までエステル殿下のレポート作成に付き合う事になったのだった。




