第百五話 エステル殿下の部屋へ
物品を軍に引き渡したので、僕達はフローラ様とライラック様と共に王城の中に入ります。
軍務卿は押収した物の鑑定に付き合う為に、このまま軍の施設に残るそうだ。
「あうあうー」
「ふふふ、可愛い子ね」
「ニコニコしているわね」
コタローは、フローラ様に抱っこされています。
そして、ライラック様はコタローのほっぺを指でプニプニとしています。
昨日フローラ様がバスク子爵邸にやってきた時、コタローは寝ていたはずだ。
だけどフローラ様の見た目はエステル殿下にそっくりなので、コタローも人見知りを発動していないようだ。
因みに馬車の中で一緒だったライラック様にも、コタローは既に慣れていた。
俺の前を歩く三人を見ながら、俺達は王城の中に入ります。
「すげー、想像以上に広いな」
「お兄ちゃん、大きなお家だね」
「とても広い」
まだ王城の一階に着いたばっかりなのに、大きな空間が広がっていて多くの人が忙しそうに働いていた。
俺と手を繫いているフェアとレイアも、王城の広さにびっくりしている。
リンさんは王城に来たことがあるので、特に表情の変化はなかった。
「サトー、リン。悪いけど、このままエステルの部屋に向かうわ」
「レポートの進捗が悪そうなのよ。ちょっと見てくれないかな?」
「あ、はい。分かりました」
「お手伝いです」
王城の階段を上りながら、フローラ様とライラック様が申し訳無さそうに俺とリンさんにお願いしてきた。
エステル殿下、そこまでレポートが書けていないのか。
フローラ様とライラック様の話を聞いた俺は、思わずリンさんと顔を見合わせた。
そして俺達は、厳重な警戒がされている王城の中にある王族が生活するスペースにやってきた。
流石に王族が生活するエリアなだけあって、侍従が着ているメイド服も良い素材の物を使っていた。
そんな中、俺達はとある部屋の前に案内された。
何となく誰の部屋か分かったけど、更にリンさんがこのヘヤの主を教えてくれた。
「この部屋が、エステル様の部屋になります」
「リンさん、エステル殿下の部屋に来た事があるんですね」
「その、宿題を教えに……」
「「……」」
リンさんの返答を聞いたフローラ様とライラック様が、リンさんに対してとても申し訳無さそうな顔をしていた。
エステル殿下は、リンさんに勉強を教えてもらう常習犯だったのか。




