第八話 綺譚でなく奇譚を忌憚なく
最初に断っておくが【綺譚】という表現は、かの永井荷風氏が自らの著書である『墨東綺譚』で使われていた造語で〈美しい物語〉という意味だそうである。
また【奇譚】という表現を使うことについて多少無理があった感は否めないが、そこのところは皆さんの寛大な心にすがりたいと思うのである。
では本題に入ろう。
これまで私自身のことを書いてきており、これからも私自身のことを書いていく予定であるが、最近ご主人がそれに関して少し拗ねているようなので、仕方ないからたまにはご主人のことを書いてみようと思う。
私のご主人は、とにかく良く食べる大食漢である。1回の食事に米1合は当たり前で、それ以外に副菜、お味噌汁、お漬物等とどこにそれだけの量が入るのかと毎回驚くほどである。しかし、それでいて人並みの生活しか出来てないのだから、車に例えるなら相当燃費が悪いということである。
それと、無類のカレー好きで週に1度は必ずカレーを作る。カレーを作っている時は上機嫌である。他には麺類全般も好きである。たまには煮物も作ることもある。多分料理をするのが好きなのであろう。
他に食べ物関係でお話しするなら、無類の甘いもの好きであり、特に餡子が好きなのである。ぼた餅やお饅頭が好きらしく、まるで古典落語の【饅頭こわい】に出てくる主人公のようだ。ただし、お茶の好みは〝渋茶〟ではなく〝ほうじ茶〟である。
しかし、甘いもの好きにも関わらず、お酒もたしなんでいる。とは言っても毎日たしなむわけではなく、年に数回たしなむ程度で、シングルモルトウイスキーやワインをたしなんでいるところをたまぁに見かける。
そうそう、コーヒーは相当好きである。プロローグにも書いたが、朝はエスプレッソコーヒーで1日を始める習慣になっている。
それから、ご主人は夏仕様であるからして冬には滅法弱い。とてつもなく寒がりである。なのに、不思議なことにスキーが好きである。
(スキーが好きなどというダジャレを言ったつもりではない)
他には根っからのミニマリストである。この世にミニマリストという言葉が出現する前からミニマリストである。しかしミニマリストなどとカッコ良く言ってるが要は物がないだけである。そのミニマリストと関係があるのかないのか定かではないが、意外と綺麗好きであり、そのお陰で私は快適なドッグライフを送れている。それだけは褒めてやろうと思う。
ミニマリストと言えば、服の数も少ない。しかも、全部黒色で毎日同じ服を着ている。これは、気に入った服は2枚ずつ購入し、とは言ってもいずれも安価なモノであるが、それを取っ替え引っ替えして着ているのである。ただし、ちゃんと洗濯はしていて汚くはないのでご安心を。
それと、お笑い好きなために、常にボケるように心がけ、ウケを狙おうとする迷惑千万な面がある。言ってるご主人はご満悦なのだろうが、それに付き合わされる周りの人間はたまったものではない。だから、ご主人がボケをかましウケを狙ってるような場面に運悪く出くわしたなら、完全無視をお勧めする。ただし、一回でウケなかった場合、お笑い用語でいうところの【てんどん】を仕掛けてくるかもしれないが、どうか完全無視をお願いしたい。そうすることが皆さんの心の安寧を保つはずである。
最後の最後に、ご主人は毎日何十回となく「ばんびぃの」と私を呼ぶ。ご主人は私のことが相当好きなのだろうと思うので、呼ばれた私は無視するのは可哀相だと考え、パブロフの犬の如く振り返るように心がけている。
しかし、しかしである。
私が気を遣って振り返ってやっているのにも関わらず、「ばんびぃの」と呼んだ後に私が振り返ると「呼んでみただけ」と言う時がある。この時ばかりは、利発で上品で温厚で紳士的な私でさえ、「ふざけるなコノヤロウ!」言いたくなるのである。
とまあ、以上が私から見たご主人の話である。
さて、最初に申し上げた【奇譚】であるが、【奇】は、第一話で申し上げたボサボサ頭の怪しい男の【怪しい】であり、【譚】は、その怪しい男の【物語】であったということである。この【奇譚】という言葉を使ったことについて、相当の力技だったかもしれないが、お許し頂きたい。
P.S.
別にご主人をおとしめようと思って書いたのではないと、言い訳だけはしておこう。