第四話 初めての◯◯
あれは、確か私がご主人と暮らし始めた最初の夏、生後3ヶ月の頃だったと覚えている。
夏は暑い!とにかく暑い!利発でボキャブラリー豊富な私でさえ暑いと言う言葉しか発したくないほど暑い。『心頭滅却すれば火もまた涼し』なんて死語にして欲しいくらい暑いのである。
が、しかしである。
人間は便利な道具を使ってこの暑さをしのいでいたのである。
そう!エアコンなるものである。
初めてエアコンから流れ出る涼やかな風が私の頬を撫でた瞬間、私は思わず「エエ気持っちヤァ〜」と感動を言葉で発したくなったほどである。
このエアコンの素晴らしさを知ってから、私は常にエアコンの涼やかな風が吹いてくる位置に陣取って、この暑い夏を乗り切ろうと思ったのである。
ところが、ところがである。
この私の素晴らしい発想が仇となったのだ。
なんと不覚にも風邪をひいてしまったのである。
生まれて初めての風邪。食欲はないし、頭もボーッとして体がダルいことこの上ないのである。私はこの窮状をなんとかご主人に伝えようとあらゆる手段を駆使した結果、ようやくご主人は私の絶不調に気付いてくれて、病院なる所に連れて行ってくれたのである。この時ばかりは、ご主人を少しだけ褒めてやろうと思ったほどである。
病院に着くと、柔和な表情のドクターが現れた。ドクターは私の顔をジッと見ると「可愛い顔してるねぇ。男の子だけど、女の子みたいな綺麗な顔だねぇ。」と言ってくれたので、「へぇ〜そうなんですか?」と言いながら私の顔をマジマジと見てきたご主人の顔を出来うる限りのドヤ顔で見返してやったが、私のドヤ顔に気付いてくれたかは定かではない。
そうこうしていると「じゃあ、お熱を測ろうね。」とドクターが言うや否やケツの穴、失礼、お尻の穴に何かを差し込んできたのである。「ヒャッ!」と言葉を発したものの、それが伝わったかどうかは分からない。この差し込まれたモノは体温計というらしい。
検温が終わると「熱があるね。風邪だね。」とドクター。
我々犬族の平熱は38度らしいのだが、それを上回っていたようである。
その後、風邪薬を処方され帰宅とあいなったのであるが、この薬がまた耐えられなかったのである。その頃の私は、まだ子供だったので、錠剤を噛み砕いたりすることが出来ないため、錠剤を潰して粉にしたものを1日2回歯茎に塗られたのである。好奇心旺盛な私のことだから、「なんじゃコリャ?」と舐めると、その薬の苦いこと苦いこと。『良薬口に苦し』とは良く言ったものである。
結局、数日で風邪が完治した私であるが、その後、エアコンとはいい距離感を保って付き合っていったのである。
ご自愛、ご自愛。