第二話 吾輩は◯◯である! ん?
先ず初めに千駄木の黒猫にあやかろうと思った私のセコさをお許し頂きたい。
さて……。
同居が始まった翌日から何やらご主人の独り言が始まった。ヒマさえあれば(売れない役者だからしょっちゅうヒマなのだが)何やらブツブツ、時には私を見つめてブツブツ。怪しい男だとは思っていたが、その怪しさがパワーアップしているらしい。シカトしてやろうと思えば出来るが、そこは好奇心旺盛な私のこと、自慢の大きな耳を最大限に駆使して聴いてみると、どうやら私の名前を考えてるらしい。
「名前?」
どうやら、人間の世界では名前をつける風習があるらしい。我々犬族の世界にはそういった風習はないので、名前なんてなくったって私は私だと思ったのだが、ここは人間の世界。郷に入れば郷にしたがえとばかり、ご主人が考えてくれる名前を享受しようと考えを改めた。
そこで、ご主人のブツブツを聞き逃すまいとばかりに、より耳を最大限に駆使して聴いてみると(この場合、最初に申し上げたお互いの言語は理解出来ないという矛盾には目をつぶって頂きたい)
「黒」
(見た目かい!)
「お茶漬け」
(ん?何茶漬け?)
「ブラック」
(また見た目かい!)
「小僧」
(確かにちっちゃいけど…)
「田吾作」
(居酒屋かい!)
「五月生まれだから、サツキかメイ」
(となりの?)
等々……。
私はれっきとしたメキシコの血を引いている(日本生まれだが、チワワの原産はメキシコ)わけだから、ホセとかカルロスとかミゲルなどというメキシコで人気の名前をつけて欲しかったのである。
結局、ご主人は色々と悩んだ挙げ句、イタリア語で小僧を意味する【ばんびぃの】という名前に決めたようであった。確かに私はチワワの中でもより小さい犬種(つまりSサイズ)らしいので、小僧であることは間違いないのだが、成人ならぬ成犬になっても小僧はいかがなモノかとも思ったが、そこは来る日も来る日も悩み続けたご主人の努力に免じて許してやろうと思った。
以上が私がばんびぃのと名付けられた経緯である。
とぅ〜 びぃ〜 こんてにゅ〜ど
追伸
これからは、このご主人の世話になるのだから、
今後〝怪しいボサボサ頭の男〟という呼び方は
やめ、ご主人(様までつけるほどではない)と
呼ぶことにしよう。