お前が悪い
…体調が、悪い。
…頭が、痛い。
…気分が、悪い。
…やる気が、出ない。
幸せそうに笑い合う、リア充どもが、鼻につく。
俺の満たされた様子を羨ましがれよと、見せつけるやつらが気に食わない。
どうせ俺は頭が悪いよ。
どうせ俺は顔が悪いよ。
どうせ俺は性格が悪いよ。
どうせ俺はぼっちだよ。
どうせ俺は貧乏だよ。
どうせ俺はどうしようもねえよ。
なんでこんなことになっちまったんだ。
なんでこんなことになっちまったんだ。
俺はいつだって頑張ってきたというのに。
何故だか俺だけうまくいかない。
何故だか俺だけスルーされる。
何故だか俺だけ注目される。
何故だか俺だけ叱られる。
何故だか俺だけもらえない。
何故だか俺だけ不具合が起きる。
何故だか俺だけ問題が発生する。
何故だ、なぜ俺ばかりがこんなに苦しまなければならないんだ。
俺に落ち度があるとは思えない。
毎日、頭を下げ下げ、小銭を稼ぎ。
毎日、争いごとを避け無難に過ごし。
毎日、当たり障りのない会話をして場を凌ぎ。
俺に、落ち度は、ないのだ。
俺に、落ち度がないとするならば。
俺を、陥れようとする、誰かが…いるのだ。
…誰だ。
…誰が、俺を、ハメようとしている?
…誰だ。
誰が、俺を、嘲笑している?
…誰だ。
誰が、俺を、潰そうとしている?
・・・あいつか。
小麦粉の場所を聞かれて、即座に案内できなかったことにクレームをつけた、じじい。
―――能無しが!!
―――申し訳ございません。
小麦粉の恨みを晴らされているに違いない。
あいつが俺を呪っているに違いない。
いや、待てよ。
・・・あいつか。
コンビニで箸をつけてくれなかった、ヤンキー店員。
―――箸お付けしますかあー。
―――お願いします。
付けると言って付けなかっただけでは満足せず、憂さ晴らしをしているに違いない。
あいつが俺を呪っているに違いない。
いや、待てよ。
・・・あいつか。
俺のつぶやきにウザいこと返してきた、ツイ廃。
―――オメーみてーなのが犯罪者になるんだよwww
―――そんなつもりで言ったんじゃ、ない…!!!
アカウント削除くらいじゃ満足できずに、俺という存在すら消し去ろうとしているに違いない。
あいつが俺を呪っているに違いない。
…もう駄目だ、どいつもこいつも、俺を呪いたいと願う奴らばかりだ。
すれ違う奴らの目が、俺を呪う気満々だ。
―――わ、あいつキモ。
―――なんか怖そう…。
―――ダサい服着て恥ずかしくないのかな。
目に入るコメントが、俺を呪う気満々だ。
―――同僚に怖い人がいます、相談していいですか。
―――コンビニで見たキモいおっさんについて。
―――不審者が出没しています、お気を付けください。
聞こえてくる声が、俺を呪う気満々だ。
―――不真面目な店員が目立つという投書があり…。
―――あの人おかしな言動があるから近づかない方がいいよ。
―――おかしな奴らが増えたから外も出歩けやしない!
俺の周りには、俺を呪う事しか考えていないやつで…いっぱいだ!!!
なんで俺ばかりが。
なんで俺ばかりが。
なんで俺ばかりが。
…呪ってやる、呪ってやる!!
俺を呪う、全ての存在を。
俺を呪う、全ての存在は、呪われるがいい!
あいつも、こいつも、そいつも、全員全員呪ってやる!!!
苦しめ、苦しむがいい!!
俺を苦しめたその罪は重い!!!
何の罪もない、ごく普通の弱い人間である俺を呪った罪は…重い!!
罪の重さにつぶれてしまえ!!!
お前のせいだ、お前のせいで俺はこんなにもつらい毎日を送ることになっている!
お前のせいだ、お前のせいで俺はこんなにも苦しい毎日を送る羽目になっている!
お前のせいだ!
お前のせいだ!!
お前のせいだ!!!!
目の前に存在しない、俺の敵。
見えない敵に向かって、全力で呪いをかける。
味方のいない俺は、ただ孤独に呪い続ける事しかできない。
・・・俺は。
誰かを呪わざるを得ない、この状況を受け入れるしか、ない。
誰かを呪う、罪の重さに…潰されそうだ。
誰かを呪う、なんて。
…そんな、幼稚なことをする、お前が、悪いというのに。
・・・お前が、悪い。
俺は、悪く、ない。