リッチ売りの少女
「あ、あの……すみません、リッチはいりませんか?」
雪の降る冬の町で、わたしは寒さに震えながらそう呟くように言った。
しかし、町中の人々はわたしが姿を現した途端、逃げるようにして姿を消してしまったのだ。
「リッチ、リッチはいりませんか――どうしよう……リッチが売れないと、今年の冬越せないかもしれない……」
「困りましたねぇ。私が売れないのは」
その隣に立つのは――ローブに身を包んだ骸骨であった。
闇の魔力に身を包んだ彼は、わたしが作り出した最高峰のアンデッドモンスター、リッチだ。
アンデッドと言うと弱いイメージを持つかもしれないが、リッチクラスになれば、当然そこらの魔物には負けることはない。
試しに近場のダンジョンに潜ってみたが、余裕で奥までいけたし、クリアもできた。
「すみません、リッチは、リッチはいりませんか」
「ひぃ! こ、こないで! なんでも、なんでもあげますからっ!」
家をノックすると、そんな怯えた声と共に、食料とお金を渡された。
……リッチを渡していないのに、こんなにもらってもいいのだろうか。
「ダメだよね。お金と食料は大事だし」
「そうですね。私が売れたらもらわないと」
リッチもわたしの意見に同意してくれた。
わたしはもらったお金と食料を家の前に置いて、そそくさとその場を後にする。
かなしい――この寒い雪の中、わたしは身を震わせながらリッチを売り歩く。
けれど、未だに一体も売れない。まあ、一体しかいないんだけど。
「リッチはいりませんか……? ダンジョンの最奥とか、隠れボスとかにオススメなんですけど……」
「ふと思ったのですが」
「……? なに?」
「町の人はリッチを必要とするのでしょうか?」
「…………え? いらないの?」
わたしはリッチの言葉に驚愕した。
「え? え? だって、あなたなんの魔法でも使えるんだよ? そこらの雑魚魔導師の千倍くらい強いのに、どうしていらない?」
「急に口が悪くなりますね。まあ、私が言うのもなんですが……やはり一般的に死体は好ましくないのかもしれません」
「アンデッドモンスターは嫌われるってこと……?」
「はい。現に我々が来てから、この町の人々は逃げてしまったわけですし」
「そっか……確かにそうだよね。それもうちょっと早く言ってくれる?」
「急にキレますね」
「うぅ……だって、せっかく寒い中売りに来たのに……。それにあなたを作るために今年の冬の食費、全部使っちゃった」
「とりあえず火をどうぞ」
ボボボと、指先からリッチが炎を出してくれる。
ああ、とても暖かい――
「なんでもっと早く出さなかったの?」
「めちゃくちゃキレますね。私、あなたの使い魔的な存在なので、命令がないと自主的に行動できないんですよ。それに、アンデッドモンスターって作成者の知能に近しくなりますから」
「なるほど……え? それってわたしのこと馬鹿にしてる?」
「キレすぎじゃないですか?」
「別にキレないけど……わたしキレさせたらなかなかすごいけど……とりあえず、お腹空いたからもう帰ろう。ついでに途中でドラゴンあたり殺して、今日はステーキにしたい」
「かしこまりました」
「はあ……また明日売りに行こう」
「え、まだ私を売る気なんですか?」
「だって、アンデッドモンスター連れて歩いている女の子って気持ち悪くない?」
「身も蓋もなくて草原が生えますね」
わたしはこうして、売れないリッチを売れ歩く。
翌日、危険人物として指名手配されていた。
「そう言えば、私を使えばそもそも売らなくてもお金持ちになれますよ、リッチだけに」
「先に言え、死ね」
「ははは、もう死んでおります」