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#2

 私は屋敷で女騎士と別れると一人王城に向かった。

 夜も更けてきた頃合いだが、私は城門の兵士に呼び止められることなく中に入り、その足で城とは独立した建造物――塔へ行く。

 塔の表の顔は図書館である。王国で出版された書物のほぼ全てが所蔵されており、また、王国内での事件や各領地の納税状況、他国の情勢などの報告書も閲覧することが可能だ。

 まさしく知の泉。そして、知の泉には、当然、裏の顔も存在する。

 私が足を踏み入れたのは立入禁止区域で、一見するとただの行き止まりに見えるが、出っ張りの石版に魔力を流すと、一瞬にしてその先の通路が現れる。歴代の魔術師が心血を注いで完成させた強力な結界だ。私、それから、勇者と女騎士はある理由によりこの結界の中に立ち入ることが許されている。

 これからその理由に会いに行くつもりである。

 通路はゆるい下り坂となりながら、奥へと続いている。左右の壁には、途中途中、扉のない部屋があり、その部屋一つ一つごとに、封印の魔法陣と封じられた対象物が割り当てられている。魔導書、魔剣、魔道具……主に呪われた物たちを横目に見つつ、私は何度目かの曲がり角を曲がる。そして、最奥にたどり着く。

 塔の裏の部分、最奥の部屋に封じられていたのは、一人の女だった。銀髪に褐色の肌、粗末な服から覗く大きな胸元。扇情的な肉感以上に目を引くのが、禍々しい頭の角と背中の翼だろう。

 この女こそ、王国を混乱と恐怖のどん底に叩き落とし、ほんの数カ月前、私達と死闘を演じた女魔王である。


「誰かと思えば、女魔術師か」


 私は意外な反応に少々戸惑った。

 国王様以下、国の上層部がなぜ彼女を封じる決断をしたのかは分からない。私は市井の鬱憤を解消するため早々に公開処刑でも行うと思っていたし、そのつもりではるばる連れてきた。何か上手い利用価値を見出したか、あるいは、単に塔のコレクションとしてなのか……。

 とにかく、私は命じられるまま封印の術を施した。女魔王の足元に浮かび上がっている魔法陣がそれである。

 その時の女魔王はというと、両手両足の枷を引き千切らんばかりに抵抗し、憎悪の視線を向けたものだ。今も吊られた糸人形のような格好は変わらないが、薄気味悪いほどに大人しく、目には理知的な光さえ見える。

 あれ以来の対面で気合を入れてきたのだが、正直、肩透かしを食らった気分だ。いや、相手はあの女魔王。油断すべきではない。


「女魔術師、何用であるか?我をそうやって嘲笑いに来たのか?」

「私もそこまで暇ではない」


 女騎士ゴーレムを作ったり、女騎士ゴーレムで遊んだり、女騎士ゴーレムと寝たりとかあるからな!


「今日はお前に頼みがあって来た」

 女魔王は呵呵と笑い、「女魔術師が我に頼みとはな。よいよい。聞くだけ聞いてやろう」

「女魔王、お前に作って欲しい物がある。『ゴブリンの角笛』だ」


「ゴブリンの角笛」というのは魔道具であり、旅の間では、よく下級魔族が逃走時間を稼ぐために角笛を吹いてゴブリンを召喚させていた。もちろん、私達にとっては足止めにすらならなかったが。


「どんな難題かと思えば、『ゴブリンの角笛』とは」

「ただし、召喚したゴブリンは術の行使者を襲うようにして欲しい。そのような細かな変更は可能か?」

「ふん。愚問であるな。よかろう、気まぐれに我が作ってやろう。が、このままでは出来ぬぞ」


 女魔王はちらっと魔法陣に目をやる。

 確かにその通りだが……私は女魔王を今一度観察する。どうやら封印はうまくいっているらしく、感じられる女魔王の魔力は微々たるもので、これならば不測の事態が起こっても私だけで対処するに難しくないだろうと思われた。


「そう警戒せんでよい。回復する先からこやつめに吸われておる。それに、我は今のところ、ここを出て行く気はないのでな」

「女魔王はこんな城と王座がお気に召したのか?」

「まあの」


 挑発にも乗らぬか。いよいよ不気味だ。しかし、今回の策を成功させ、幼馴染である女騎士の「くっころ」脅迫症状を取り除くには女魔王の協力が必要である。腹をくくるしかない。


「変な真似だけはするなよ。少しでもおかしな動きをすれば、容赦はしない」


 私はまず「アイスアロー」を唱える。空中に無数の氷のつららが現れ、その尖った先端の全てが女魔王に向けられる。それから、女魔王を封じている魔法陣を打ち消す。

 女魔王の表情に特に変化は見られず、女魔王は枷で不自由な右手を床の方へ向けた。淡い光が部屋に満ちすぐに消え失せると、そこには角笛が一つ残されていた。詠唱も魔法陣もなしに魔道具を作り出すとは、さすがは魔術に長けた魔族といったところか。

 私は角笛を拾い上げて試してみることにする。重低音が響き渡る。

 すると、ゴブリンが床からせり上がってくるようにして現れる。その数、三匹。石造りの棍棒を持っており、欲求にまみれた目つきは如実にこう告げている。「貴様をレイプしてやる」、と。

 そこまで確認すればもう用はない。襲いかかってきたゴブリンに対して、その数だけ空中に待機させていた氷のつららを飛ばし、穴を穿ち絶命させる。ゴブリンは召喚されたものなので、血しぶきを上げることなく、死体と共に還っていく。


「数が少ないな。十匹ほどにならぬか?」

「可能であるが。まったく、何に使うのやら……もしや……」


 その瞬間、凄まじい殺気を感じた。

 私は瞬時に距離を取ると女魔王に対峙し身構える。女魔王はあの激闘を思い出させる敵意剥き出しの視線をぶつけてきた。


「勇者絡みか?『くっころ』か?」

「……」

「そちが使うのか?」

「……」

「まあよいわ」


 女魔王は殺気を引っ込めた。それでも私は戦闘態勢を保ったままだ。そんな私の手から先程の角笛が消滅した。再び部屋に光が満ち新たな角笛が現れる。


「久々に魔力を使って我は疲れた」


 それだけ言うと、女魔王は目をつむりそれ以上何も言わなくなった。

 ともあれ、目的は果たせたので、私はまず氷のつららを霧消させ、「ゴブリンの角笛」を懐にしまった後、女魔王の足元に彼女を封じる魔法陣を展開させた。

 最後の殺気だが、よほど勇者のことを恨んでいるように見える。確かに、あの戦いで最終的に女魔王を昏倒せしめたのは勇者の放った「聖剣」の一撃だった。それを考えれば、無理もないか。

 というより、勇者の「くっころ」好きという性癖は魔族にまで知れ渡っているのか。「くっころ展開、きたーーーーっ」などと大声で叫ぶ勇者のことだから恥ずかしさは微塵もないのだろうが。

 もし私なら……。

 あのメイド、まさかとは思うが、立入禁止の部屋に入ってはいないだろうな。私が知らぬ間に私の女騎士ゴーレム遊びが市井に広まっているということは……。

 疑心暗鬼に囚われた私は、急ぎ足で塔を後にして屋敷に戻ったのだった。

あまり書けず。

伏線(?)も張ったので、次でラスト。

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