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#1

三作目。「ヤンデレ」タグなのにデレがない?知らないです。

読んでもらえると嬉しいです。

「私、レイプされようと思う」


 目の前の相手のとんでもない発言に、私は霜降りドラゴンステーキの肉切れを空中で止めた。


「……もう一度、言ってくれるか?」

「私、レイプされようと思う」


 どうやら幻聴ではないらしい。

 私はナイフとフォークを置くと、相手、女騎士のことをまじまじと見つめる。明るいブロンドの髪とシミ一つない白い肌、宝石のごとき青い瞳。本当にうっとりとする美貌だ。しかし、目元には隈が出来ており、顔つきもやつれている。

 原因は分かりきっている。勇者だ。

 二年前、魔族の攻勢が激しさを増し危機感をつのらせた王国は勇者召喚を行った。召喚されたのは異界のニホンという国から来た若者。彼と女騎士、そして、女騎士と幼馴染で、魔術師である私は魔王討伐に出発し、苦節二年、見事に魔王討伐を果たして帰還したのであった。

 旅の間で、女騎士は勇者を恋い慕うようになっていた。その勇者はというと、天性の女難の相の持ち主らしく、行った先々で女に口説かれていた。ニホンという国は差別意識があまりないそうで、エルフや獣人などの亜人の女にまでも優しくするから尚の事。そのたびに、女騎士が影でヤキモチを妬くのが定番だった。今では懐かしい思い出だ。

 しかし、勇者が誰かとそういう仲になったことは一度もない。旅の間ずっと側にいた私には断言できる。

 ……まあ、今回のあの噂……さすがに身を固めるかもしれないが。


「早くしないと、私の勇者様が王女に取られてしまうわ!」

「さすがに国に仕える身としては敬称をつけぬのはマズいのではないか?」

「そんなことを言ってる場合!?」

「そ、そうだな」

「勇者様に振り向いてもらうには、もう、レイプされるしかないの!『くっころ』するしかないのよ!」


 ここが王宮レストランの個室で助かった。一応、私を含めた三人は王国では英雄扱いだ。ヒステリーに叫ぶ女騎士などスキャンダル好きの市井の格好の餌食でしかない。

 それにしても、やはり、「くっころ」か……。

 旅の道中、盗賊やゴブリンやオークが現れるたびに、勇者が「くっころ展開、きたーーーーっ」と歓喜して叫んでは、女騎士を期待のこもった目で見つめたものだ。「くっころ」とは魔物に捕まった女騎士が陵辱されるくらいない「くっ、殺せ」と言うことを言うのだとか。何が面白いのか、そんなもの。

 ただ、そんな期待が実現したことは一度もない。女騎士は王国随一の剣と盾の使い手であり、そして、戦いでは後衛の私と遊撃の勇者を守らなければならない立場にあった。根が真面目な性分の彼女は毎回きっちりと役割を果たして敵を退けた。あの魔王ですら女騎士の鉄壁の防御を抜くことは出来なかった。


「『くっころ』しないと、『くっころ』しないと、『くっころ』しないと、『くっころ』しないと、『くっころ』しないと、『くっころ』しないと……」


 しかし、私が見た限りでは、勇者のあれはネタに近いのではないか。確かに女騎士が無事に戦闘を終えると露骨にがっかりした態度を取るのだが、本気で女騎士の「くっころ」を望んでいるとは思えない。

 旅の間で、盗賊や魔物に捕らわれた女子供を救うことが多々あった。勇者は彼女たちの有様を見て心底憤っていた。ああいうところがないと、ただ強いだけでは、これほど女に慕われたりしないだろう。


「……またやったのか」


 私は先程からぶつぶつと呟く女騎士の手首に注目する。

 何本もの赤い傷跡が出来ていた。

 私は立ち上がるとテーブルをまわって女騎士の横に座り直す。彼女の手首をとって「ヒール」をかけて傷を癒やす。

 昔から思いつめる傾向があったが、最近は特にひどくなってきている。

 無理もない。

 王都に帰還して以来、勇者と過ごす時間はめっきり減っている。最初は毎日のこの夕食会に勇者も顔を出していたのだが、一ヶ月も経つと、時間が合わないと言って欠席することが多くなった。

 それにあの噂話だ。どうやら勇者には私達がもらった褒美の他に、特別な褒美が用意されているらしい。もう十分な褒美をもらったから私は特に異論はないのだが、その褒美というのが、第一王女様との婚約話。聞くこところによると、王女様は勇者にベタ惚れだとか。婚約については国王様も乗り気という。

 王女様は気さくないい方だ。私も何度かお会いしたことがある。それに容姿についても「王国の薔薇」と評されるくらい見目麗しい。王国一の美貌と市井ではもっぱらの評判である。

 私としては断然、両手で、幼馴染である女騎士を推すが。

 さておき、勇者を恋い慕う女騎士は、こういう現状で気弱になり思いつめ、思い悩んだ挙げ句、「レイプ」――「くっころ」という極端な考えに行き着いたのだろう。

 私はもう一度、女騎士のやつれた顔を見る。

 旅の間も、そして、王都に帰還してからも、これまで武芸一筋だった女騎士の初恋の相談を聞くだけでなく、軽い暗示といった催眠療法で大切な幼馴染の精神状態を支えてきたが、今回ばかりは根本的な不安を取り除いた方がいいかもしれない。


「聞いてくれ、女騎士。私が思うに、勇者は女騎士に『くっころ』を求めていない」

「そんなことっ!」

「勇者は女騎士に傷ついてほしくないはずだ」

「どうして分かるっていうのよ!」

「なら、私に任せてみてくれないか。ひと芝居打って、勇者の本音を聞き出す」

「……」

「……」

「分かった。あなたがそういうなら……」

「ありがとう」


 私と女騎士はそれ以上会話を続けず食事を終えレストランを後にした。

 行き先は私の屋敷だ。魔王討伐の報酬の一つとしてもらったもので、落ち着いた街並みの上流地区の、さらに閑静な場所に建っている。

 屋敷と共にセットでついてきたメイドと顔を合わせてから、私達は私の研究部屋である一階の奥に行く。

 ここに初めて立ち入った女騎士は物珍しげにきょろきょろとしていたが、ずぐにある物に目をとめる。


「これは……私?」


 雑然とした本と道具の中、ロッキングチェアに腰掛けているのは人型のゴーレム。ゴーレムと言っても、賢者の称号を持つ私が高度な魔法陣と膨大な魔力を費やして作り上げた力作である。肌色のみならず、質感、髪の毛といった細部も忠実に再現してある。これを初見でゴーレムと看破できる者はまずいないだろう。


「何でこんなものがあるの?」

「それは……」

「それに、この服。私、見覚えがあるんだけど?」

「何と言うか……」


 言えない。

 女騎士がいつかよその男のものになってしまう日のために――それは勇者かもしれないし、違うかもしれないが――、心の寂しさを埋める目的で、王都に帰還して三ヶ月間、制作に没頭したことを。

 言えない。

 女騎士は綺麗好きで魔王討伐の道中でも服も下着も頻繁に買い替えていたから、それをこっそり保存してあって、今は、この女騎士ゴーレムで着せ替えをして楽しんでいることを。

 ついこの間、勇者が「突撃、お宅訪問」と変なテンションで屋敷に押し入ってきて、勝手に家探しした挙げ句、これを見つけて「ラブドールじゃねーか」と笑われた。「ラブドール」というのは性的行為を満足するための人形のことだとか。

 断じて違うと否定した。

 これはあくまでも目で見て愛でて楽しむためのものなのだ。

 しかし、女騎士にも勇者のように誤解され、笑われるならまだしも、どん引かれた日には立ち直れない。何かうまい言い訳をせねばならぬ。


「これは、そう、影武者だ。私達、かなり有名になったではないか。今後、自由に動くためには必要になるかもしれない。そのための先行研究だな。服は……女騎士が着ていた物を記憶を頼りにオーダーメイドで作ったから見覚えがあって当然だな」

「ふーん」

「では、動かしてみようか。――女騎士ゴーレム3号、立て」

「ちょっと待って。三体もあるの?」

「さ、三体目ということだ。いくら私でも一体目での完成は難しい」

「ふーん」

「ハハハハ……」


 何とか誤魔化せたか?

 二体を寝室に持っていっていて正解だった。昨夜は一体で着せ替えをして楽しんだ後、ネグリジェを着せたもう一体を抱き枕にして寝たのだった。

 ちなみに、研究部屋と寝室は立入禁止にしてあるからメイドはこのことを知らない。

 女騎士ゴーレムはというと、自然な立ち姿で立っている。腰に片手を当てた精悍な様は相対する女騎士と瓜二つだ。初めて本物と見比べることが出来て、その出来栄えの良さに一人大満足していると、女騎士が話の先を促すよう目を向けてきた。


「で、だ。このゴーレムをゴブリンに襲わせ、レイプ――『くっころ』展開にする」


 本音を言えば、こんなゲスな用途に女騎士ゴーレムを使いたくない。想像するだけで「エクスプロージョン」を唱えてしまいそうだ。しかし、本物に馬鹿な思い込みを思い直してもらうためならば、鬼にでも悪魔にでもなろう。


「そしてその時の勇者の反応を見ようと思う」

「喜ぶと思う」

「私はそうは思わない」

「なるほど、そういう作戦ということね。……でも、その作戦、失敗するわよ」

「ん?」

「あなた、これ、私を忠実に作りすぎ。さすがは女魔術師というったところなんでしょうけど」

「どういうことだ?」

「『気』がとてつもなく強い。これじゃ、ゴブリンは間違いない逃げ出すわね」


 言われてみてその欠点に気づく。

 私はこの「気」が心地良から制作する時にこだわった点の一つだが、確かに、魔物相手、特に強者に対して臆病な性格のゴブリンは近寄ってこないだろう。「くっころ」展開など夢のまた夢。

 対応策としては、魔物を操る術でもって無理やり襲わせる方法が簡単である。しかし、魔物を操る術は王国では禁忌とされていて、研究自体されてないので、賢者である私でも知らない。

 ……蛇の道は蛇。専門家に聞くしかないか……あそこに行くのはあまり気が進まないが。


「そこは何とかする」

「そう。……あの、それで、女魔術師。このゴーレムのことなんだけど」


 女騎士が頬を赤らめて指をもじもじ弄っているのを見て、何を言いたいか想像ついた。


「勇者様バージョンって作れないの?」

「勇者は……無理だな」

「どうして!?」

「勇者のあの強さはゴーレムで再現できるものではない」

「そ、そうよね!私、当たり前なことを聞いたわ!勇者様はこの世界で唯一無二の至高のお方。その強さ、その美しさは、たとえあなたであっても真似ることは出来ないに決まってるもの。ああ、勇者様、勇者様、勇者様……」


 両手を組んで妄想に浸りだした女騎士にため息をつく。

 まあ、作ろうと思えば作れる。ちゃんと「聖剣」も抜くことが出来るだろう。私のゴーレム作成の魔術はそのくらい完成されている。

 なら、なぜ作ってあげないか?簡単な話だ。

 単に私が女騎士以外は作りたくないというだけである。

二話完結の予定。

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