表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/6

一話


 私は体が弱い。ちょっとか弱いなんてもんじゃない。ポンコツでガラクタだ。

 

 一度だって満足に体育の授業に出たことはない。鞄より重たいものを持たされた記憶はない。

 腫れ物を触るかのように皆が私を扱った。

 

 無理をすれば出来ないこともない(と私は思っている。)のだろうけど、私にそんな気はなかったし、何より周りが許してくれなかった。


 でも別にそれは嫌じゃなかった。みんなが汗をかいてヒーヒーいいながらマラソンをしているのを眺めているときはラッキーと思ったこともあるし、面倒なことは何もしなくても誰にも叱られないのは楽でいい。


 ラッキーで楽チン。それでも、こんな体に生まれたいわけじゃなかった。


 生まれてすぐにお父さんとお母さんはお医者さんに言われたらしい。

 長くは生きられないでしょうって。


 もって半年。

 でも大丈夫だった。半年経ったら一年に伸びた。次は一年が三年。

 そして今度は第二次性徴に耐え切れない可能性がありますだってさ。


 医者にも分からない私の電池。いつ切れるのかな? 

 そして私の体のことをお父さんもお母さんも私に隠すことはしなかった。それは感謝している。とっても。


 終わりがくることを知らないでのほほんと生きているよりも、終わりを見据えて私なりに覚悟して生きるほうがいい。

 

 だから、15年と決めた。

 未来が決まっていないのは余計に不安になるから、私は自分で寿命を決めた。


 小学校に入るまでが私の人生の前半戦で、中学校卒業が終わりの笛の時間。そう決めた。

 15年くらいで達成できるような目標をちゃんと決めて、努力もした。大体は、達成できた……と思う。

 良い人生だった! と胸を張って言えるわけじゃないけど、でも精一杯やってきた。


 これからは私の人生の余り時間、ロスタイムだ。


 高校生活なんて何も考えてなかった。卒業できる保障もないし、たくさん学んだとしても、それを生かす前に死んでしまうのだから意味がない。


 お金も勿体ないでしょう? 私が高校なんかに行ったって意味がないのだ。

 だから高校には行かないつもりだった。


 でも、他のどんなことも私の自由に選ばせてくれたお父さんが、高校に行きたくないっていうお願いだけは許してくれなかった。

 私が行かないって行ったら、とっても真面目な顔をして反対した。

 私はすぐに「ウソウソ、冗談だよ、お父さん」と言ってそのままその話をうやむやのまま終わりにした。


 ただでさえ親不孝な娘なんだから、お父さんの前ではちゃんといい子でいたい。うん。

 高校を人生の予定に含めていなかったからといって、これまで別に勉強をサボっていたわけじゃない。


 使う機会もなく消えていく知識だったとしてもそれなりの成績はキープしていた。その甲斐もあり、進学先は結構選択しの幅は大きかった。これでも頭は悪くない方だ。分からないことを調べたり、こつこつ勉強して自分が上に上がっていく感覚は結構好きだったから。


 特にどこでもいいかなとは思っていたんだけど、進学先に決まったのは向陽(こうよう)高校という家から歩いていける距離にある学校だった。


 強く推したのは決めたのはお父さん。実は私は反対だったんだ。だってそこは私立。公立よりお金がかかるじゃない? さりげなくバス通勤でいける公立の高校のほうを押してみたんだけど、お父さんは首を縦に振らない。「あそこの制服が一番メイコに似合うんだ」と笑ってた。お母さんが「あなた、どうして高校の制服に詳しいのかしら」といって凄んだもんだから、お父さんは苦笑いしてたけど。


 お父さんの要望通り、私が向陽高校に行くって返事をすると二人ともとても喜んでくれた。

 気を使わせてごめんなさいって思う。本当は私に無理をさせたくないから、一番近い学校にしなさいって言ったんだと思う。本当に頭が上がらない。


 ちゃんと卒業できるかも分からない娘なのに、無駄な負担をかけてしまうのは申し訳ないけど、それを口に出すことはしない。


 それは絶対に言っちゃいけない言葉だと、それくらいは私だって分かっている。そんなに子供じゃない。


 そして、私も普通の人と同じように四月からは高校に通うことになった。特に目的もないけど、目的のない人は私の他にもきっとたくさんいるだろう。

 それはみんなと同じだけど、未来までない人間ってのはあんまりいないけどね。


 ――高校。


 行けるとは思ってなかった場所だから、高校生になる自分を想像することができない。私はどんな高校生活を過ごすのだろう。


 これまでと一緒かな。いやあ、多分もっと悪いだろう。


 いつ終了の笛が吹かれるか分からないのだ。いつまで頑張れるか保障されていないのに、頑張ることはしたくない。


 私の気持ち的にはそうなんだ。

 でもさ、そうもいかない理由もある。


 私は精一杯やってますよ! って顔してなきゃいけない。

 私は毎日、幸せなんだと、誰よりも主張して生きていかなければならない。


 それが崩れれば、お父さんがみるみる心配そうな顔つきになってしまう。そんな顔は見たくない。無理はしてるわけじゃない。本心なのよそれも。


 だから私は、やる気マンマンで、誰よりも幸せそうに、最高の高校生活を送る準備を開始しなければいけないんだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ