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6:メインディッシュを待ちながら

「とりあえず放っておいて話をつづけようか、勇者君」

「いやいいのか、放っといて」

「鎧があそこまで逝っちゃったのは勇者君が、まあ聖剣の言うこと真面目に、本当に真面目に聞いたからだと思うけど、人間の屑を演じきったせいなんでしょ」

「記憶があるだけに何も言えないのだが」


 勇者君は少し嫌な顔をして女戦士を見やる。


「アア、勇者君、やっぱりそっちのがすてきいいいいいいいいうふふふふふふ」


 うつ伏せで倒れている筈の鎧ゴリラ、いや女戦士から、低いんだか高いんだかわからない奇妙な声が聞こえてくる。


「言えないが、怖いものは怖い」

「あ、勇者君でも怖いんだ」

「もう聖剣に言われた演技も必要ない、素直に怖がれる」

「いっちおう戦士ちゃんだって女の子なんだから怖い怖い言うな!」

「少年の耳塞いでるミイちゃんが言ってもあまり効果が」


 うつ伏せでグフフフフと笑う女戦士を見ないように、男と勇者と王女様が言い合うという状況に爺が音を上げた。


「すまん王女様、勇者君。それにバカ弟子。どういう状況か教えて貰えねえか?」


 爺のキャパをオーバーフローする勢いで刻一刻と変わる状況に、もう当初の救出どころじゃない。爺は薄らぐ記憶を頼りに自分が今第四魔王城に居る理由を思い出そうとして諦めた。わからなくなっていたからだ。勇者君が起きる辺りまでは覚えていた気がするが、状態異常「混乱」はますます悪化している。


 ちなみに少年は耳を塞がれミイちゃん王女様の胸に抱きかかえられているので顔が赤くなるやら彼が無意識に少年を睨むものだから顔が青くなるやらで、しかも会話が聞こえないので何が何だか分からず混乱するばかりだった。


「ええと、鎧はですね、勇者のお付きで」

「みりゃわかるな」

「厳密に言うとパーティメンバでもなくて」

「はあん?」

「剣王様、勇者パーティは通常、勇者、僧侶、魔法使い、戦士の四名で構成されるんですよ」

「ああ、今はそうなんだ?」


 ミイちゃんの説明を聞いた爺は不思議に思った。勇者と少年、王女様に鎧こと女戦士で四名。バカ弟子が呼ばれる理由がわからない。ああ、女戦士はそもそもこのパーティの戦士役では無かったのか。


「本当は、俺は最後の戦士役だったそうなんですが」

「剣士も戦士も似たようなもんだし」

「ああ、それで俺も騙された」

「なに、何をはなしてるの〜」


 男と勇者がしみじみとするなか、少年は聞こえてないのでわからない。ミイちゃんはもう一気に話を通すことにした。


「えと、戦士ちゃんはパーティ集合の朝、勝手に集合場所に立ってただけの普通の女の子なんです。勇者君が好きすぎて」 

「え?」

「そりゃ集合場所に鎧がズデンと立ってれば、あ、この人戦士役だと思うでしょ師匠?」

「更に、最後に来た彼が剣を持たない剣士だったので、俺は彼女が正式な戦士役にどうにか選ばれたのだと勘違いしてしまった、ゾンヤンドリに感謝すらしたな」

「はあ」


 爺が気のない返事をする。普通の女の子の意味がわからない。


「つまり、この戦士ちゃんは、勇者君に恋い焦がれ過ぎ、生まれ故郷からずっと勇者君を追いかけ、肉体改造して戦士のようなガタイを造り上げ、常に側に侍り、しかも最近愛する勇者君の最低極まりないゲス行為に暗い歓びまで覚えるようになってしまった、可愛くて可哀想な女性なんです。本来ただの村娘なんです。だから勇者君の言うことしか聞かないし、正常に会話も難しいし、いっつもこんなんだから少年君の情操教育にも悪いし。ちょっと目を離すと勇者君に色目をつかった女性を勝手に街外れに吊りに行くし。本当にどうしよっかなって」

「なるほど」


 成程、て便利な言葉だよね。


 ストーカーという概念はこの世界にはないが、ストーカーともちょっと違うのだ、この女は。むしろ恋に一所懸命な努力家、少女マンガの主人公っぽい気もする。最近はまあアレ、闇落ちってやつ?それも却ってヒロインっぽいよね。勇者君もそんな戦士ちゃんに頼ってる部分があったり、色々複雑な関係て面倒。


 ミイちゃんの説明がほとんど頭に入らない爺に男がもう一回説明する。


「つまりすごい面倒な人なんですよ。よくこんな勇者に惚れるなあ、なんて思ってました。幼なじみなんだっけ?」

「愛だわ〜」

「おい王女止めてくれ、本当に俺は困惑しているのだ。そして怖い」

「本当は嬉しいくせに」

「いや確かにな大事なというかなんというか、そんな感じではあるのだが」


 勇者君は顔を若干赤らめて王女様の言葉を否定したように見せかけつつ否定していない。こういうところだよな、ってミイちゃんは思う。


「彼女の親からも世話頼まれてる上、実際世話にもなっている。大事な存在なのは確かだ。考えても見ろ、幼い頃からずっと一緒に居て、王都に出ると言えば黙って着いてくる。学院に入れば教室の隅にいつのまにかいる。冒険者登録しようと思ったら資料など用意してくれ、前日に自分で登録して困りそうなところまで教えてくれる。依頼を受ければ事前調査まで完璧。討伐依頼では前衛。採取依頼は籠持ち。女性の要人警護など囮役までこなしてくれる。お礼を言おうにも何か渡そうにも、俺の笑顔と安全のためなら何も要らんと言い切る。そんなのが、最近美人にますます磨きがかかった、俺の事を愛していると公言する女だぞ。嬉しく無いわけがないだろう」

「のろけきったな今」

「え、戦士ちゃんて美人なの」

「なんで知らねえんだよ」

「だってこの鎧姿以外見たことないし」


 ミイちゃんが戦士ちゃん美人説に驚き、爺の質問に説明する。そう、この女、半年間鎧や兜を脱いでないのだ。


「言っておくが、王女とはジャンルが違うものの、俺が学生の時は学園に出没する謎の美女幽霊として怪談にまでなった女だぞ」

「幽霊」

「そこはな。こいつ学生じゃなくてな。学生でも無いのに毎日俺の教室の隅に居て、誰も口出し手出しできない、下手すれば存在にすら気づかなかったから」

「それは怖い」

「だろう?」


 勇者は若干口調が早い。男の率直な感想に少し嬉しそうだった。


「だから俺のためなのは本当に嬉しい。嬉しいんだぞ。だがな、俺のためって叫びながら笑顔でデスナイト殴殺するのはどうなんだ?特に戦闘訓練受けたわけでもない、普通の村娘だぞ?俺でも苦労するのをだぞ。討伐依頼でも、いつの間にかこいつがアタッカーで俺がサポートが定着してるんだぞ。流石におかしくないか?」

「おかしいな」


 爺も同意した。デスナイト、死の騎士。最弱のデスナイトでも普通の戦士が五人がかりで何とか四人被害を出して倒すか、全滅するか程度の強敵だ。デスナイト出身の魔王もいる。ワイバーンのちょっと下。村娘一人で殴り殺せる魔獣ではなく、この女、絶対に村娘ではない。


 そんな抗弁を繰り広げる勇者君にミイちゃんが反論した。


「とか言って結構がっちりと侍らせてるじゃない」

「勇者たるもの、寄る女必ず受けるべし、とにかく女は攻めるべし、というのが聖剣の教えでなあ」

「うそ、嫌な事聞いちゃったゴメンね?」

「構わんよ。出来れば側に居て欲しいとは思っているのだ。怖いだけだ」

「んー、一周回ってそれも愛じゃないかな」


 この勇者、本来の性格もツンデレだったのか、とミイちゃんは気付いた。


 聖剣に洗脳されていた頃はわかりやすいツンデレだった。「彼女が俺のことこんなに愛してくれるなんて、本当に勇者って辛いよね、王女様?」とか流し目で言いながら、ずっと鎧と手をつないでぴったり歩幅まであわせて歩いていたり、「お前は俺を絶対守れ、俺のために死ね」とか命令するわりに、デスナイトの集団に囲まれた際はこの女は俺のもんだあ!とか意味不明な突撃で鎧を救出して怪我したり、俺、あんな荷物持ちの料理食べたくなーい。鎧が作る料理じゃなきゃ食べなーい!とか駄々をこねたりしてたのだ。女戦士は鼻歌まじりでご飯を用意し、勇者君が文句言いながら毎日食べたりしてた。まあそれは幼なじみの呼吸とか甘えってやつだ。それだけ聞くと母親にわがまま言う子供みたいだわ。うーん、洗脳中はわかりやすいツンデレで、今は不器用なツンデレかな、とミイちゃんは解釈する。ちょっとお互いの愛が面倒くさい。


 少年にはまだ早い、とミイちゃんは結論づけた。うんうん頷くミイちゃんの隣にぬうっとゴリラの形をした鎧女こと女戦士が立ち上がる。


「私がそおおおんなことするわけないじゃなあああああああいい悲しいいいいいけどそんな勇者君もすきいいいいうふふふう」

「ちょっと鎧黙ってうるさい」


 男が勇者君との会話を邪魔されたので声をかけるも、


「うるさいて言うな。私はただ勇者君が照れくさいからってまるで私がゴリラみたいに誰でも殴り殺すって変な事言うから訂正してるだけだし、本当はそんなこと思ってないのも知ってるけど流石にかわいい女の子に殴殺って非道いと思うだけよせめて撫で殺すとか殴って昇天とかにしてほしいわけちょっとエロいかな。さすがに大事な人に言う言葉じゃないと思わない?まあそんな恥ずかしがりの勇者君のことも好きなんだけどさ」


 一瞬で男に詰めより反論を理路整然というか息もつかぬ勢いでまくし立てる巨大な鎧ゴリラじゃねえや女戦士の速度たるや、驚くべき事に爺、男、ミイちゃん、そして勇者の誰もが反応出来ない。もう最強でいいかもしれない。


「だから鎧、うるさいの本当に、今、君の勇者君と大事な話をしてるの」

「やだ私のとかつけなくてもいいわよ。それに私うるさくないしこれは必要な訂正よ勇者君が私をどれだけわかってくれてるか私がどれだけ勇者君の事を大事に思っているか何があっても殴殺なんかしないしむしろ別の意味で殺されるっていうか昇天されたりしたりしたいなってキャッ言っちゃったどうしよそれはともかく私は勇者君のためだけに生きてるんだし昔も今もそれは変わらないわよあそういえば今あなた私の事ゴリラだと思ったでしょやっぱり顔に出てるわよ許さないわよそれ、勇者君のことをこんなに大事に思ってる私がゴリラなわけないでしょうがそれこそミンチになるまで撫で回してあげてもいいのよあなたのこと」

「言い出したの勇者君だし、おまえゴリラじゃん」

「戦士ちゃんちょっと待ってちょっと待って、剣王様がドン引きしてる」


 一歩も引かずにまくし立てるゴリラ鎧女に乱暴に返答する男だが、内容とか口調とか確かにこの子ヤバいわ、と爺が猛烈に引いていたのでミイちゃんが慌てて宥めに入り、勇者君も咳払いして鎧に注意した。


「おい、さすがに煩いぞ」

「わかっっっったあああああああ勇者君のために黙るううううう」


 勇者君に声をかけられるや否や、顔を逸らしつつも大声で叫ぶゴリラっとやべ。ゴリラに反応して睨まれた。


「ふうううう」


 勇者君は声が漏れるほど大きな溜息をついた。爺は軽く同情する。突き抜けた奴が身内にいる不幸に親しみすら感じる。抑え役に廻らざるを得ない点とかそっくりかもしれない。


 勇者君の性格は聖剣が折られて一変したが、女戦士の性格は道中ずっとこんなもんだった。他人とは一切喋らず、男とミイちゃんには早口で捲し立てるように、そしてなぜか勇者と喋るときだけ、なんだかとても大きく、声を張り上げるように喋るのだ。


 鎧ゴリラはそれを「何年たってもお、勇者君とお、まっすぐ喋るのがあ、恥ずかしいいいいからああああああ!」と言うのだが、「おおきくなったらああああけっこおおおおんしてくれるっってええええいわれたあああああああ」と村に響く大声で宣言された六歳の頃から、彼女のその口調には本当に勇者君は悩まされているわけで。


「ふうううう」


 勇者がもう一回、声が漏れるほど大きな溜息をついて、それから言うことを聞いて黙った女戦士の頭を撫でた。むふー、ていうゴリラの鼻息が聞こえる。やっぱ勇者君ツンデレだわ、とミイちゃん。撫でちゃうんだあ、と爺。


「お姉さん、元気になった?」

「あら、私は初めから元気よゴメンね心配かけて」

「ううん、お姉さんが元気になってよかった」


 そして少年である。ミイちゃんは、女戦士が黙ったのを確認してから少年を放していたので、少年はやっと話ができるようになった。一度一晩かけて諭されたこともあって、女戦士は子供の前では普通に喋るよう努力はしている。勇者が少年を側に置く理由は安心と安らぎではなかろうか、とミイちゃんは思っていた。


 勇者が孤児院に入り浸る理由だって、実は女戦士が黙るからじゃないかなあ、とミイちゃんは今までの話からそう疑った。爺もそう思った。正解だ。


「正直もうとことん疲れたんだが」

「そうでしょ師匠。だから放っといたのに師匠が」

「元はと言えばお前が!お前の!お前は!いや、お前のせいばかりじゃねえ、か」


 爺は男の胸ぐらをつかんで怒鳴りかけたが、確かに男のせいばかりとも限らないので怒鳴りはせず、痛む頭をこらえてこめかみを良くもみ込みながら天を仰いだ。神よ女神よ我が妻よ。どうしてこうなった。ワシが冒険者の時、いつもオマエには迷惑ばかりかけてたと思うが、それはともかく。こいつら流石にワシも正気を疑う。寧ろワシが正気を失う。どうしよう、と天に語りかける爺。


 爺は久しぶりに天に訴え、そして天上から「え〜仕方ないじゃーん。この子と一緒なんて、全員かなりぶっ壊れてないと無理じゃーん」という、妻の幻聴が聞こえた。なぜかその場に居る全員にその幻聴という神託が聞こえてしまい、爺と男以外の全員が硬直する。


 そうか〜、無理か〜、と爺は諦め顔で肩を落とし、男は、奥さんもああ言ってるんです頑張って!と爺の肩を叩いて、振り向きざまの爺にぶん殴られていた。確かに原因に励まされてもな。


 なんなの今の、と爺と男以外の全員が顔を見合わせ、殴られた頬を擦る男の顔を見る。


「ああ、師匠の奥さんって女神様なんだよ」

「うっそ」


 若い頃勇者やってた師匠と一緒に旅をしてた聖女様で、そんときの大魔王だか邪神だか魔王の軍勢を倒して世界の理が壊れかけた時に死んで女神になることを選んだんだって。今でも、たまに師匠の様子見にきたり、デートしに来たり、俺の教育方針で山二つくらいぶっ壊す夫婦喧嘩したり、こうやって師匠の心が折れそうな時に声をかけてくれるんだよ。師匠が父みたいに厳しいとしたら、女神様は母みたいに優しいんだ、と男が主張した。


 女神様ってあれか、王都の大聖堂のど真ん中に祭られてるのか、と聞く勇者君に知らないよ、と答える男。ミイちゃんは顔が青くなって戻らない。たしかにこの国の主神、女神様って似たような伝承あるけど。三百年くらい前の話だけど。流浪の若き勇者とのロマンスあったけど。あれ剣王様なんだ。ガチで不老じゃん。こいつらガチ化物じゃん。それと同等なのアタシ?と呟くミイちゃん。よく王国滅びてねえな。


 つうか全員壊れてる扱い不当過ぎません?とミイちゃんは訴えたい。言葉はなぜか躊躇われたので心の中と顔色だけで済ませておく。口に出すと返事が帰って来そうで怖いのである。いや本当に怖い。そんなミイちゃんは次の瞬間、にっこり笑って「この子のことよろしくねミイちゃん」と語りかける女神様を幻視してしまい、失敗を悟る。女神に目えつけられちゃったね。


 一方妻に言われて諦めた爺は、この分だとまだ未見のゾ王子とかもロクな生き物じゃねえなあ、どうしよかこのまま帰っちゃおうかな、と全力で脱力している。爺が疲れてると思った男は、起死回生の策を披露することにした。


「まあいいや、これで全員復活したことだし、第四魔王食べに行けるよね!」


 誰も覚えていないかもしれないが、ここは第四魔王城の庭の片隅であり、その目的はパーティメンバーの紹介ではなく、ダベリ場でもなく、魔王の実食である。男は宣言した。


 全員が違う、と叫んだ。お前の立ち位置おかしいぞ、とミイちゃん。お前が逃げたのが原因だろうが、ていうかお前が原因だろうが。


「待て待て。転移で帰るんじゃなかったか」


 勇者が多少疲れた声をあげた。


「剣王様が来てくれたとはいえ、アンタにダメ出しした昨日から状況変わってないでしょ」


 ミイちゃんが現状を述べる。


「勇者の兄ちゃんの聖剣とかどうすることになったの?」

「それはいいんだ」


 少年が尋ね、勇者君が少年の肩に手をおいて答えた。


「亀さん亀さん、勇者君との結婚は何月がいいかな教えて?」


 約一名が例外を投げるが。誰もキャッチしないのでデフォルトの処理は無視。女戦士は亀甲占いをするつもりだった。やっぱ一番怖いなあ、と爺は思った。


「聖剣についてはいいよね。最初から無かったってことで」

「ゾ兄様がねじ込んだ勇者が勇者じゃないってなったら、ゾ兄様どうなるか分かる?」

「まあそこは、魔王討伐の手柄で何とかしてもらうとして」

「逆に俺が困る。俺ごときの実力で、倒してもいない魔王を倒したとなれば世間が黙っていないだろう」

「いや勇者君、普通に魔王倒せるよねその実力なら」

「いいのよおおおお勇者君はいままでもおお勇者だったしいいもっとおおお胸をはってえええ」

「それ、戦士ちゃんしかそう思わないんじゃないかな」


 慌てて少年の耳を塞ぎつつ、ミイちゃんは女戦士の勇者偏愛っぷりを指摘。第四魔王城という特殊な状況で戦士ちゃんの箍が外れたか、少年はもう身内扱いが決定したのだろうか。身内扱いは怖いな、とミイちゃんは思った。おもに情操教育的観点から。


「いや、勇者君普通に化物だし」

「化物は褒め言葉じゃねえよ。魔王を倒すなんて普通は勇者でも無理なの。今ここに変なのが(つど)ってるだけだからね!こんなんバレたらえらい事になるわよ絶対。ゾ兄様だってそこまで期待してなかっただろうし」

「あいつはそもそも俺たちを遠ざけようとしただけかもしれん」

「じゃあ、もう勇者君も魔王食べればいいじゃん!それで実力もつくんでしょ!」


 皆に止められた男はキレた。なぜならそろそろお腹が空いてきたからだな。


「名案かあ?見た目変わるのって嫌でしょ普通」

「つうかなあ。普通、実力もない人間が食ったら死ぬ食材だしなあ」

「うそ!」


 一考に値するか考え出したミイちゃんに対して爺が止めに入るがその言葉がまた問題なのであって。


「食材?」

「剣王様もやっぱりそちら側か」


 驚愕の事実、いや考えたらわかりそうだけど、に停止したミイちゃん。食材扱いにやっぱりこの人たちすげえ、て顔をする少年と、爺の性格が実は男や女戦士とあまり変わらない事に気づく勇者。洗脳の解けた彼がミイちゃんを押しのけて唯一の常識人枠におさまりそうな気配である。あくまで相対的立位置であって、絶対的には全員無理だがそうも言って居られないのだ。少年には荷が重いだろうし。


 ミイちゃんはそれどころではない。食べたら死ぬ食材宣言。


「うっそうっそうっそ!さっき大丈夫、マズくないって言ったじゃん!」

「だから不味くはないです、美味しいってだけです。普通の人間は美味さを味わう前に死ぬっつうね」

「ああ!俺のボケ、スルーされてたわけじゃなかったんですね師匠!」

「アンタ、危うくアタシ殺すとこだったのよ、そんなんどうでもいいわ!」

「え、ミイちゃんが魔王食ったくらいで死ぬわけないじゃん」

「アタシのカテゴリは一般人だ!」


 ミイちゃんの5センチの爆弾ことボディブローが彼の腹に吸い込まれ、なんか岩が砕けるような音がして男は悶絶した。いや今生きてるから大丈夫だったんじゃないかな、と少年は思ったが結果論だし、やっぱりミイヤ様は怖い、これを末っ子アイドルで売り出そうとした母ちゃん達メイド局の人たちってすげえ、少年は改めて母は強しを実感した。


「そうだなあ、勇者君と言ったか、君はワイバーンくらい余裕だって?」

「はい、聖剣さえ無ければ、彼の訓練も本当は余裕でした」


 実力を正確に見極めようとする爺に勇者君が答えていたのだが、勇者君を押しのけて兜の奥がキラキラ輝く女戦士がずいっと爺の前に立った。少女のように両手を胸の前で組むゴリラ。


「勇者君は子供の頃にドラゴン倒したことあるしスッゴいんですよ。あれはそう、私が八歳の夏の頃でした。もう彼とは結婚が決まっていて。初キッスを済ませた後あたりかしら。村から三里ほど離れた森に狩りに出た大人たちが血相を変えて慌てて帰ってきたんです。そう、いままで安全だと思われていた森で、突如今までにない数の魔獣が現れたんです。大人が逃げ惑う中、私に大丈夫だよ、って言ってくれる勇者君。抱きつく私に勇者君は微笑みかけて」

「止めろ、長い。初キッスは違う」


 目を輝かせて勇者のドラゴン討伐をその端緒から、ちょいちょいラブをぶっこみながら語り始める女戦士だった。多分三時間に及ぶ壮大な結局ラブストーリーに、勇者が慌てて止めに入るが微妙に顔は赤い。


「勇者君それは本当?」

「うむ。結論を言うと、子供の頃、なんか喋るドラゴンの首をはねた事はある」

「それ古竜だなあ」


 爺が瞠目する。年を経て言葉を理解した竜は大変危険な魔獣だと考えられていた。魔王になってる場合も多い。第一魔王ほどではないが、その強さから六十から八十台の魔王は結構な確率で古竜。あと、「なんか」てなんだ、とミイちゃんが零した。


「うーん。古き竜を倒すほどの勇者と、まあ何だかよく分からないが鎧ゴーレムにしか見えない村娘の二人なら大丈夫かもな」

「剣王様、私の扱いがそこのお弟子様より酷い気がするんですけど確かに皆の話を聞いてそう思われるかもしれませんが私はただひたすら勇者君に追いつきその側に彼を見ている為に努力しただけであって私は別にそんな大層な女ではありませんし勇者君と一緒の食事ていうところは嬉しいんですけど私もそれ食べて死ぬならそれ以上勇者君と一緒にいられないってことでそれは嫌ですし、けど死ぬのが怖いってわけじゃなくて勇者君のためなら私何回だって死ぬつもりですけど流石にご飯食べて死んでも勇者君のためにならないっていうか」

「お嬢ちゃんお嬢ちゃんわかったわかったから」


 煩い。女戦士が本当に煩い五月蝿いウルサイ。爺が面倒そうに女戦士を押し退けようとして、そのままがぶり寄りで追い詰められて焦った。ワシ剣王なんだけど!と叫ぶ爺を見て男が呟く。


「大丈夫そうだよね」

「剣王様に力で勝ててるし」


 溜息のミイちゃん。爺も気を取り直して続ける。


「少年は耐えられる耐えられない以前の問題で、まだ十歳だからな、成長期前に食べるのはよろしくないからダメだな」

「え〜、すっごい美味しいって言うから期待してたのに〜」

「安心しろ少年、スープくらいなら飲ませてやるよ」

「本当バカ兄ちゃん」

「言い方」

「つうか飲ませるんじゃねえよ!成長止まったらどうするんだ!」


 爺は丸太をその懐から突然取り出し、彼の頭に振り下ろした。ばっきゃあああああああん。硬いものが割れる大きな音がしたが、割れたのは頭の骨ではなく当然丸太の方で、彼は蹲り頭を抑えた。爺はやっと懐にしまっておいた大量の木の棒を思い出した。まだ数十本残ってるなよし、爺は呟いた。


「少年が大人になったら幾らでも食わせてやっから、今回は我慢な」

「成長とまるって、背がのびなくなるの?」


 少年が聞く。


「そうだ、不老の怪物王と呼ばれた神聖帝国最後の第三代皇帝は、七歳の時に献上された魔王の肉を食べて、以降成長がとまったという話があるからな、五百年ほど前のことだが」

「やっぱ化物だけに証言が半端無く古い」

「ちがう!死ぬ前に本人から話聞いたの!」


 三百年前、爺が勇者とかで活躍してた頃、神聖帝国は大魔王の軍勢を前に滅びた。今は覚えている人間も僅かである。その帝国最後の皇帝、見た目ばかり幼い最後の皇帝は不老にして寿命以外で死ぬことも能わず、つまり死ぬことができない存在として、この世の栄華を極めた末に国が滅びた後も無様に生き残ってしまった。とにかく人の世に倦み疲れ爺の小屋の近くで隠れ住まっていたのだという。「なんか子供のくせに妙に言葉遣いやら行動が老けた奴がいるなあ」と思って話を聞いたらそれだった。魔王を食った者同士で運命力とやらに引かれあったのかもしれないなあ、と爺は続ける。


 ちなみに生に倦み疲れ、死を願う皇帝の魂を奥さんに引き渡したのも爺。もう神様でいいのではなかろうかこの爺、と勇者君はやっぱ常識人カテゴリ的思考をした。


「そういうわけで、少年は残念ながら食べられないが」

「え〜、ちょっとだけ、ちょっとだけ」

「ということなので匂いとかな、連れていくだけだ。安心しろ剣王直々の護衛だ」

「やったあお爺ちゃんありがと!」

「ていうか実食が規定路線なの?」

「諦めろ王女。そういうものだ」

「そうそう私のことどうこう言えないと思うのよ迷惑っぷりなら二人の方が明らかに上だし最初から亀スープ食べに来たついでなんじゃないの私たちのこと。やっぱそう思うでしょ王女様こいつら絶対わかってやってるわよ」


 確かにそうかもしれない。来て早々第四魔王のことを気にしていた剣王様を見やり、ミイちゃんはそう思った。


 昨日は、頼りの綱の男が泣いていなくなり、慌てて隠れたもののどうしていいか分からず、勇者君は座り込み、少年は恐怖に震え、戦士ちゃんは通常進行で壊れていて、それまで男の訓練中に感じた恐怖なんか目じゃない、本当に死ぬ可能性を必死で考えないように、蹲ることしかできなかったミイちゃんである。


 しかし、今はまるで近所の美味しいお店にご飯食べにいく気分で、城からの脱出どころか、第四魔王をどう料理するかで盛り上がっているし、笑顔が自然と零れるのだ。いや乾いた笑いだったり、実は盛り上がっているのはバカ師弟だけなんだけど。


 どうしてこんなに違うんだろう、とミイちゃんは少し不思議に思ったが、昨日までの半年と比べて大きく違っている事は沢山あるのだ。勇者君は聖剣を失い、イケメン風腐れ野郎から幼なじみに苦労する落ち着きつつもだいぶ残念な男になった。少年は男へのコンプレックス剥き出しの危うい少年から、剣王という保護者を得て、男と触れ合い、より強くなろうと確固たる意志を持った。剣王の庇護という後ろ盾を得てからはのびのび動いちゃって、地味に人外っぷりが表にでるまでになってる。


 ミイちゃんは思う。アタシは自分の実力を把握した。そして男との関係がちょっと変わったようだ。やっぱり話し合うことって大事なんだなあ。


「実はアタシもちょっと興味あるんだよね」

「そうだな、王女は三体とも食べているのだろう?」

「だからってわけじゃないけど」

「実は俺もだ」

「やっぱりいいいい、勇者君もおおおお、もっとおおお強くなりたあああいいいのおお?」

「いや、そんなに美味いのか、と。一緒に食べるか」

「うん!」


 まあ、戦士ちゃんは変わらないよね、とミイちゃんは考え直した。そして勇者の天然が、作られた優男の時より著しい。かなり残念である。

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