滝本市長
清水寿司で昼食を済ませ、二人は市長室に向かって歩いていた。九条が楽しそうな顔をしている一方、犬塚は
「はぁーー。」
長い溜め息をついていた。犬塚は九条の昼食代を出す事になったからだ。
「おい、財布忘れたって今は俺が出したけど、帰りはどうすんだよ。九条」
「俺、チャリ通勤なんすよ。もぅ、落ち込まないで下さいよ、先輩。明日キッチリ返しますから」
そんなことを話している内に二人はエレベーターに乗った。市長室は最上階にある。市長室の窓側の壁は強化ガラスで出来ていて、日の出が一望できる。その景色は水波市で一番ともいわれている。
「うわぁ、早ぇぇぇ!」
「なんせ、三橋電機のエレベーターだからな。早い上に、静かだろ。」
「三橋電機…、って日本一高いビルのエレベーターを作った?揺れもないし、スゲェなぁー」
そんなことを話していると、チンッ、と小気味良い音がして、エレベーターが止まり、扉がゆっくりと開く。エレベーターの外には木の扉があり、その上にあるプレートには〈市長室〉とあった。
「よし、入るぞ。市長に無礼のないようにな。」
「わかぁってますよ。大丈夫っす。」
犬塚が三回ノックして、
「みずなみ係の犬塚です。失礼します。」
と言った。
「どうぞ、入ってください。」
と、市長室の中から声がした。犬塚は扉を開け入室し、九条はそれに続いた。二人の目には整頓された室内が映ったが、そこには市長の姿はなかった。
「市長?滝本市長?」
犬塚が呼ぶが、変わりはなく二人は机の方へあるきだした。そのとき
「わっ!」
大きな声をだし、二人の背中を押した男がいた。滝本淳一。水波市長だ。年齢は35。上野の一つ上だ。滝本は三代前の内閣総理大臣、滝本宗一の孫で、俳優だったが水波市長選挙に見事当選し、初代水波市長となったのだ。
「たっ、滝本市長、びっくりしたじゃないですか」
「ふふ。申し訳ない。少し驚かせたくてね。」
「もー、子供じゃあないんすから。」
「こら、新也、失礼だろ。」
「大丈夫だ。驚かせたのは私だからな。」
滝本は笑顔でそう言い、座ってくれと二人をソファに案内した。
「で、今日来てもらったのには理由があってだね。みずなみ係は秘書課の手伝いをしていると聞いてね。」
「手伝い?雑用っすよ。」
「新也、そんなこと言わなくてもいいだろ、」
「それでだね、いつまでも手伝い係じゃ仕方がないので、別の仕事をやってもらおうとおもってだね。」
「別の仕事ですか…。なんですか?」
「みずなみ市は今、様々な問題を抱えている。そこで二人にはその問題を解決していって欲しい、どんな方法を使ってもだ。」
「具体的にはどのような?」
「最初は、私の言った事をやって欲しい。実は公園を作って欲しいという意見がある。」
「公園…。どこにでしょう?」
「波里区なんだが。」
「波里区はたしか、少子化対策特別地域では」
「なんすか、その少子化ナントカ地域って。」
「中学生までの子供が一人以上いる家族が住むことが出来、子供一人につき特別手当が月三万円支給される制度があるエリアだよ。」
「へぇー。そんなとこあるんすね。」
九条は感心したが、滝本は軽く咳払いをして、話を戻した。
「『子供が多いのに公園が無いのはなぜか?』って質問や作ってくれっていう意見が沢山ある。どうだ、やってくれるか?」
「勿論」「りょうかいっす。」
二人が同時にそう言い、滝本は微笑んだ。
「じゃあ、期待してるよ。犬塚君、九条君。」