みずなみ係
水波市。水波人口10万人の大平洋に浮かぶ、水上都市。政府が 実験都市設置法を施行し、完全な自給自足を目指す水上都市を作った。しかし政府が目指した〈完全な自給自足〉をはじめとし、水波市には問題が山積みだった。
水上都市、水波市の中心部に位置する水波市役所、五階の廊下を黒髪の男と茶髪の男が歩いていた。
「今思うんですけどね、〈水波〉って安直じゃないっすか?もっとカッコいい名前になんないんすかね。ズカさん。」
汗をハンカチで拭いながら、茶髪の男はそう言った。
ズカさんと呼ばれた、黒髪の男は若干あきれながらも、答えた。
「しょうがないだろ、役所が考えるものなんて、そんなもんだろ。格好良さなんて、求めちゃだめだよ」
二人は水波市役所の職員で、市長部みずなみ係に所属していた。黒髪の男は犬塚圭介、みずなみ係の係長。茶髪の男は九条新也、犬塚の部下だ。みずなみ係は市長部秘書課の係だったが、秘書の仕事ではなく、〈水波市の発展の為に活動する〉という名目で設置されたが具体的な仕事はなく、今は秘書課の雑用をさせられていた。あくまで水波市は〈実験都市〉なのでそういう特殊なことも多々ある。
「まぁ、そうっすよね。それにしても暑いなぁ。」
「仕方がない、夏なんだから……。」
二人はそう話ながら歩き、第二会議室にやってきた。定例の市長部会議に参加するためだ。
「めんどー臭いなぁ。こんな暑いのに」
「月に一回なんだから我慢しろよ。一時間もありゃ終わるだろうから。」
〈みずなみ係〉と書かれたプレートが机に置いてあり、そこの椅子に二人は座った。会議室の後ろのほうだったが、そこまで大きくはないので、前の方までしっかり見えた。
「ズカさん、上野部長が来ましたよ。そういえば、あの人若いっすね。」
「34だったかな、あの歳で部長ってバケモンかもな。」
実験都市である水波市は職員が全体的に若いというのもあるが、それでも〈34歳の部長〉というのはインパクトがある。
「それでは定例の市長部、部内会議をはじめます。」
前にいる男がマイクを通して、そう呼び掛けた。