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姫と従士の思い出旅行 《メモリーズ・トラベラー》  作者: 月城 裕也
1章 時計塔の街 ルルシャルナ
13/15

12-⦅追憶編⦆


 美しかった時計塔の街が見る影もなくなる廃墟と化す少し前。

 隔絶世界ではズーンという文字が目に見えるのではないかというほど沈んだソヤンダルと、パァアアと幸せそうな笑顔を浮かべたナキが焚火を囲んで木の器に入ったメートロを飲んでいた。


 なぜこうなっているかだと? 結果から言ってしまえば二人の相打ちで事態は収束した。でもな、正直俺自身信じられないんだよ……。実力で言えばクソ爺がずっと上なんだぜ?それが見事に二人揃って気絶するという幕切れ。


 あの時ソヤンダルと勇者が戦っている間に手持ちの薬草を確認すると、回復薬のいくつかが切れているのが分かった。回復魔法を使えるとはいえ、魔法が使えない場面も多々存在する。

 それならついでにメートロに合う野菜を見つけてくれば、色んな味を楽しめるのではないか。

手元にある食料の在庫が少なくなっていたこともあり、森で野草や茸を採取することにした。それが終わって二人が争っていた場所に戻ると電気を発しながら痙攣している勇者と、白目を剥いて倒れているソヤンダル。

 それだけを見れば、電気魔法で感電して動けなくなった勇者。魔力切れを起こしてぶっ倒れたソヤンダルで終わるわけだが。

 だがそれはソヤンダルの魔力量を知っているナキからすれば有り得ないこと。ソヤンダルの魔力量は勇者の三倍近くはあるはず。先ほど凍結状態にして無理矢理復帰した分魔力は減っているだろうがそれでも勇者より少ないということはない。

 それなのにソヤンダルが魔力切れを起こすということは、また勇者が何かをした(・・・・・)ということだ。先日の青い身気、それ以外にも何かが勇者の中には眠っているというのか?

 

 ナキの知っている中で恐ろしいものは三つ。先日勇者が見せた青い身気もそれに含まれる。それ以外の二つも同じくらい恐ろしいのだが、勇者は残りの二つの内の一つを使ったというのか。

 ……駄目だ、考えればキリがなくなる。取り敢えず適当に何かつまみながら二人が起き上がるのを待つとするか。回復してやらないのかだって? 俺の事情で傷をつけてしまったなら回復することも考えないでもないが、関係ないならやる必要性もないだろう。どちらも化物だし。……ん? 俺関係あるな……でも知らん、回復薬も切らしているし。

 それから一時間ほどすると、お互い起き上がって足を引きずりながら森の入り口付近で木の実を食べていたナキの元にやってきた。


「なんだお前ら? ゾンビみたいな歩き方しやがって。パクの実はやらんぞ、辺境まで行かないと手に入らない貴重な木の実なんだからな」


 さっとパクの実を懐に仕舞うと、それと入れ替えにメートロが入った木の器を二つ取り出して二人の前に出す。


「取り敢えず一杯はくれてやるからおとなしくしてろ。それとほれ、勇者にはクウリの一本漬けをやるからもう何もするな」

「酒は!?」

「ねぇよ」


 そこから冒頭の光景に戻る。

 その二人の様子を見ながら、ナキもクウリの一本漬けにかじりつきながら今後どうするかを考えていた。明後日には勇者と魔力対決をすることにはなっているが正直気は進まない。

 二日前に魔法が使えるようになった時の勇者の魔力はせいぜいCランク程度、昨日約束したときがBランク程度、そして今の勇者の魔力は――。


「ソヤンダル様、ソヤンダル様はいらっしゃいますか!?」


 思考に耽っていた頭を覚醒させ、声の聞こえてきた方を見ると魔法ギルドで俺に魔法を放とうとしていた魔法使いの一人がこちらに向かって来ていた。


「なんじゃ、カントか? こちらに来るとは何かあったのか?」


 暗い表情を変えもせずにメートロを啜るソヤンダルはカントと呼ばれた青年に視線を向ける。


「ルルシャルナの街が魔物の手に落ちました!!」


 たった一言、その言葉が三人の動きを止めるには充分だった。

 最初に復帰したのはナキとソヤンダルの二人、そしてお互いの顔を見る。そして勇者も少しして呆けていた表情が戻ると、カントに掴みかかる。


「姫様は!? シンシアさんの二人は無事なのか!?」

「お、落ち着いてください勇者殿! 二人はご無事です、今は魔法ギルドで保護していますので問題ありません!!」


 魔法使いの青年の言葉で勇者の腕から力が抜けると、ほっとしたような表情でその場に座り込む。

 次いで声をかけたのはソヤンダル、しかし表情は先ほどと打って変わって真剣そのもの。ソヤンダルの前でカントも片膝をついてその言葉を受ける。


「随分と早い、少なくともあと二日は何も起きないと踏んでいたが……。二人は保護しているとのことだが詳細は?」

「はい。魔物襲撃から少しして魔法ギルドの周囲に結界を張りました。建物を透過させていることにより我々の被害は極めて軽微です。それと、二人は『ロングラシの根』を飲ませて会議室でお休みになっておられます」

「ロングラシの根とは随分強力なものを使ったの……、お主らだったら中級魔法の『スレイプニル』を使えるだろうに」


 相手の状態に作用する魔法の中で唯一昏睡状態にする魔法がスレイプニルだ。それが効かないとなればロングラシの根を使用するのも分かるのだが、一つの疑問が生まれる。


「それが……魔法耐性が高いせいか睡眠魔法がまったく効かず、ロングラシの根を五倍に強めてようやく効いた次第で」

「それはおかしな話だな、魔法耐性が高いのと状態作用が高いのは別物。彼女たちの強さはせいぜいがDレート、地上の人間の中では強者に当てはまるが。……ナキ何か知っているか?」


 後ろいたナキに話を振ってみたが、反応が返ってこないのを不思議に思ったソヤンダルはナキに目を向けた途端金縛りにあった。

 殺気や魔力、身気は一切感じない。

 普通の人間が放つ気配はないが、ナキは確かに目の前にいる、それは勇者も感じているのだろう。だが勇者は何かを感じているのか体中から身気を全力で放っている。


「睡眠魔法が効かない? それならまだ耐性で説明がつく。じゃあロングラシの根は何だ? あれはAレートでも眠らせる劇薬だぞ。それを五倍に強めないと効かない? そんなもの天災級に近い強さだ。あの二人はDレートが関の山、…………何かの魔法道具? いや……そんな反応はなかったし、それらしいものは持っていなかった」


 何かをブツブツと呟いているが、ソヤンダルや勇者の耳では何を言っているのかまでは聞こえなかった。

 そして勇者が身気を纏った拳でナキに殴り掛かった。


 ドォォォォォン。


 殴ったとは思えない音が響き渡ると、ナキが物凄い勢いで木々をなぎ倒しながら吹っ飛んでいった。


「ゆ、勇者殿!?」


 カントが勇者の突然の行動に驚き声をかけるが、勇者は相変わらずナキが飛んで行った方向を無言で見続ける。

 少しして枝の割れる音と共にナキが体を起こして勇者たちの元に歩き出す。


「ソヤンダル様、もしもの時は止めないでくださいね」


 その言葉が何を意味しているのかはすぐに分かったが、勇者が何故そう言いだしたのかまでは理解できなかった。

 するとこちらに向かって歩いてきたナキの手元に魔力が集まって火の玉が形成される。


 下級魔法『ファイヤーボール』。


 誰もが一番最初に習うであろう基礎中の基礎魔法。ゆえに実力者がその魔法を見ればある程度の力量が読めてしまう。


 ―――美しい。

 形成された火球は直径30センチほど。そして火球を中心として熱風が起こり近くにいた小さな虫は一瞬で燃え尽きる。顔を伏せているため表情を見ることは出来ないが、今ナキが放出している魔力量はCレート程度。

 今の勇者が放つ身気に比べれば吹いて消える差であるが、それを抜きにしてもあのファイヤーボールはどこか力強さを感じた。

 それを見た勇者は強張っていた表情を崩し右手を上に向けて笑った。


「勝負の前倒しか! 絶対負けねぇ!!」


 赤い靄から緑の靄、身気の変わりに魔力が体から噴き出すと右手の先から直径2メートルの巨大なファイヤーボールが形成される。

 それを離れたところで見ていたソヤンダルとカントはこう思っていた。

 出鱈目にもほどがある、と。


 一般的な魔法使いが作るファイヤーボールはせいぜいが魔法使いと同じ30~50センチほど。そうでないと炎を球にするのに必要な力が分散してしまい、魔力がバラバラになってしまうからだ。まだ魔法にムラがあるせいか、部分的に形が崩れそうになるときもあるがそれを魔力で強制的に繕いファイヤーボールを保っている状況。

 普通なら形が崩れそうになった瞬間、魔法としては維持できなくなりキャンセルされる。それを無理矢理魔法として成立させているのだ、使用する魔力量も桁違いだろう。そんな勇者の魔力はせいぜいナキと同じCレートほど。

 質や形は違えども同じ魔力で出来たファイヤーボール、二つがぶつかればどうなるかは本人たちの力量次第だろう。


「……ちっ、本気で殴りやがって……。ガードも何もしてなかったから一回死んだぞ、クソ勇者」


 口元から垂れてきた血を腕で拭い勇者を睨みつける。


「死んだのなら何でナキは生きてるんだよ!?」

「そんなの話す訳ないだろう、馬鹿かお前は」


 ナキがもう片方の手にもファイヤーボールを作ると、それをすでに形成されていたファイヤーボールに重ね合わせる。

 二つが合わさったことにより球が少し大きくなり、熱風が熱波へと変わる。

 ソヤンダルとナキの位置は大分離れているが、それでも肌を焼く程度の熱さがソヤンダルとカントの元まで届く。


「これが今の俺が出せる全力だ、これを超えられなければAレートの相手なんて無理だと思え」

「おい! さっきの可愛い火の玉はどこに行った!? つか、さっきから俺の皮膚が焼けてるから!」


 ジューと人の焼ける臭いがし始めているが、火傷した傍から緩やかに治り始めていた。勇者は特に気にしていないようだが、勇者の持つ古代語が刻まれた白銀の剣。それが微かに発光していることからその剣が勇者を守っているのだろう。

 あぁ、本当に虫唾が走る。こうしてあの男が勇者であることを思い知らされる度、この感情が生じてしまうのは止まらないのだろう。

 だがそれを実行してしまえば俺がやろうとしていることが無に帰してしまう。まだ……その時じゃない。


「じゃあいくぞ、これに勝てばお前に俺のしていることを少しは教えてやる」

「俺が負ければ今まで通りってか、絶対負けない!」


 勇者がファイヤーボールを投げる動作に入るとナキも手を前に突き出す。

 そして何の合図もなく両者が同時に火球を打ち出した。


 ゴウッとファイヤーボール同士が衝突し合う、とそこにいた全員が思っていたことだろう。だが、勇者を除いた3人は顔に驚きが出ていた。


「おい……、てめぇが使った魔法は本当にファイヤーボールか?」


 ナキが相手の魔法を確認することは滅多にない。それは随分前から付き合いのあるソヤンダルがよく知っている。

 そんなナキが勇者の魔法を見て戸惑っている理由、それは二人のファイヤーボールがぶつかった瞬間にナキのファイヤーボールが勇者の魔法を貫通(?)したからだ。

 貫通したなら普通だし、なんで疑問形なのかって? それはナキの魔法と勇者の魔法が変な形で引っ張り合っているからに他ならない。勇者の火球が形を変えて三角錐のようになり、頂点でナキの魔法を抑えている。

 普通のファイヤーボールなら球を崩された時点で魔法として成立しなくなり、霧散するはずだ。それがネットのようにナキのファイヤーボールを貫通させまいと形を変えてなお消滅しないと来た。


「ソヤンダル様、あんな魔法どうやって形成したのでしょうか?」

「……分からぬ、勇者殿の魔力を解放した段階でいろいろと規格外ではあったがもはや我々の常識外の位置にいる人物なのかもしれん」


 人はそれを英雄、もしくは怪物と評するだろう。

 自信を助けてくれるものであれば人はそれに(すが)る。しかし自身に関係なく、ただただ力の差がある者には恐れを抱き排除しようとする。


 勇者殿は異世界から来た人。

 そして今、この世界は魔王に滅ぼされようとしている。そんな状況で呼ばれた勇者殿は人にとって最後の希望だ。そんな彼が使う技はすべて勇者様だから、で済まされてしまうのだろう。


「頑張れ俺の魔法! そのままナキの魔法を弾き返せ!!」

「ファイヤーボールにそんな性能はねぇよ!!」


 二人はいまだ硬直状態を保つファイヤーボール(?)を眺めていたが、それは唐突に終わりがきた。


 衝突していた炎が一つに混ざり合い収束した瞬間、そこで大爆発を起こしのだ。慌てて全員が防御魔法を展開してその余波を防ぎ、砂煙が晴れたときには衝突し合っていたファイヤーボールを中心に巨大なマグマのクレーターが出来上がっていた。


「くそー、引き分けかぁ。今回は勝てると思ってたんだけどな…」


 勇者が呑気にクレーターの周囲で土が溶けてマグマになった個所を眺めながら悔しがっているが、魔法をよく知る者たちはその前に起きた出来事の方が重要だった。


 魔法の融合。

 ナキがやっていた同じ魔法同士の融合は、難しくはあるが修練次第で誰でも使えるようになる。ただし、それはあくまで自身の魔力で作った場合に限るという前提条件の元で成立すること。異なる者同士が作った魔法を融合させるなど、異物が混ざり合うのだから反発し合い失敗に終わるのが普通だ。

 しかし、先ほどの大爆発を起こす直前一つに混ざり合い収束した出来事。あれは、完全に融合を果たして一つの魔法として完成されていた。


 そして、ナキとソヤンダルには先ほどの現象と似たような魔法を知っていた。


 古代魔法『フラウロス』。

 超高温度の熱を内包した球体が何かに触れた瞬間、そこを中心にすべての物質を溶かす巨大な爆発を起こす魔法。

 大昔では戦争などで攻城魔法として使用されていたが、徐々に使い手がいなくなり今では文献でのみ語られている古代魔法の一種だ。

 

 今の世を生きる人々と大昔で生きた人では、全体的に使える魔力量に差がありすぎて威力や効果が高い古代魔法を使うことが今を生きる人々には出来ないのだ。稀に魔力量が多く生まれてくる者もいるがそれでもせいぜい上級魔法まで。

 それが普通はあり得ない魔法の融合、そして失われた古代魔法。この数日で起きたことは十年に一度……いや百年に一度あるかどうかのことばかり。

 そんな現象を目の当たりにしたソヤンダルは、魔法使いとしての探求心を燻られると同時に警戒心を抱かずにはいられなかった。


「す、凄いですよソヤンダル様!! 今の現象ってもしかして――ふぐっ!?」

「それ以上は言ってはならんカント」


 ソヤンダルがカントの口元に手を当てて口を塞ぐと、カントはソヤンダルから感じる迫力に気圧されてコクコクと頷く。


 カントが今起きたことを大声で言おうとした瞬間にこちらを貫いた強大な殺気。カントは気付かなかったようだが、周囲の気配を感知していたソヤンダルにはすぐに分かった。

 それ以上話せば殺す、そんな視線でナキが二人を見ていたのだ。ソヤンダル自身も今起きたことについて、勇者に伝える危険性を理解していた為口を開かなかった。

 しかし、カントは魔法を使えるようになって日が浅い。そんな彼に御伽話でしか聞かない古代魔法、ましてや実例のない魔法の融合なんてものを目にすれば気持ちが舞い上がるのも無理のないこと。

 口を塞いでいた手を外して、ソヤンダルがナキを見て頷くとナキも殺気を出すのを止めて勇者の元まで歩いていく。


「……………今回は引き分けみたいだからな、どうする?」

「どうするって、どちらかが勝ったらって条件だしお互いの要求はなしってところが妥当なんじゃないの?」

「それも考えたけど、俺の最高出力を止められたんだったらさすがに考えも変わるわ。この隔絶世界とそれに(・・・・・・・・)まつわることをお姫(・・・・・・・・・)さんたちに口外しない(・・・・・・・・・・)、これを守れるんなら俺がこの街で何をやっていたのかは教えてやるが?」


 当初の条件と違うことに少し困惑したが、勇者としてはこの世界のことをラシアたちに話すつもりはなかったので利益しかない。すぐに了承の返事をするとナキはソヤンダルたちの元へ歩き出した。


「だったらクソ爺たちのところで話した方が早いな、その方が手間も減る」

「その前にお姫さんたちの様子を確認したいんだけど、街が魔物の手に落ちたってならさすがに心配だし」

「それなら心配はいらない、俺たちがいた魔法ギルドに結界が張ってあるって言ってただろ? あれがある限りCレート以上の魔物は結界内に入ってくることは出来ない。Dレート以下ならあそこにいる魔法使い共でも倒せるから、現状あそこが街の中で一番安全ってことだからな」

「えっ!? 何そのチートな結界、それがあれば最強の盾になるじゃん」


 Cレート以上の侵入を防ぐ結界、それがあればこの大地でも比較的安全に暮らすことが出来る。


「そう言うと思ったが、実際はCレート以上Bレート以下だ。限定的過ぎてあまり使い物にならんがな」

「しょぼっ!!―――くはないのか。冒険者ギルドでもBレート以上の魔物は知性を宿してるって聞いたし、Bレート以上の魔物自体あまり目撃されないって言ってたから」


 一瞬驚いてすぐに訂正する勇者にナキはつまらなく感じていた。

 ナキが期待していたのは、『え、何その使えない魔法! 結界じゃないじゃん!』とただ(けな)してくると思っていたのだ。

 それが冷静に自分の知識と照らし合わせて考察する勇者。なんて可愛げのない奴……。

 そしてソヤンダルとカントのいるところまで来ると、ナキが話し始める。


「色々とあったが、現状の確認をするぞ? 今俺たちがいるのは隔絶世界、そこにいる糞ジ――ソヤンダルの転移魔法がなければここには行き来出来ないから安全だ。」

「へー、そうなんだ?」


 勇者が意外そうに聞いてくるが、細かな理由を聞いてこないのも珍しい。いつもは気になることがあればしつこく聞いてくるというのに。


「あぁ、だからここにいれば魔物に襲われる心配はないんだが……誰でも彼でもここに連れて来れるわけではない。お姫さんたちがここにいないのもそれが理由だな」

「俺は良かったの?」

「お前の場合は修行場所にも最適だったしな、特例というやつだ。ソヤンダルにも一度は見てもらって問題がなさそうだと判断されたのもあるがな」


 ソヤンダルが小声で『酒がなければ通さんかったわい』などと呟いたがナキは聞かなかったことにして続きを話す。


「そして今街が魔物の手に落ちてるということだが、これについてはすでに誰の手によるものかは見当がついている」


 ナキがカントを見るとソヤンダルはカントに命令を下す。


「カントよ、一度ギルドに戻り我々が戻るまで防衛に努めるのだ」

「ソヤンダル様! ですが――」

「二度は言わぬぞ、ここから先は私がこの者に託した大事な依頼報告じゃ。その意味を知らぬわけではなかろう?」


 焦りを見せるその顔で『畏まりました』と、一度礼をしてカントはその場から離れて海の方まで走っていった。


「さて、部外者もいなくなったところで報告といこうか。今回俺がルルシャルナの街で動いていたのは街で発生していた魔物の成り代わりを主導していた統率者を探すことだったんだよ。そして、それが今回の事件の黒幕だ」

「同一犯じゃったか……。して、そいつは?」


 少しの間が空いて、ナキがため息と共にその名を明かす。


「Bレートの魔物『ヤクサル』。こいつが元凶だったよ」




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