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天涯記  作者: 浅黄 東子
第1章 術士と自由の革命
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少女と決意

シトリンはただ手を丸め握り締めている、籠手をはめた手を強く握るので「カチャカチャ」と金属特有の音が聞こえる。

しかしシトリンはコロシアムを見守っていた、シトリンにも分かっているのだ、目の先に居る男の覚悟と誇りを…。


正直に言うとシトリンには無理だと思う、逃げた方が賢明だ。

俺はもう一度シトリンを横目で見た。

だがシトリンの瞳を見て止めるのを諦める、俺はもう一度コロシアムに目を向ける、男にゆっくりと近づき胴体を噛む、噛まれた場所からじわじわと血が滲む、頭を振り回し男の上半身と下半身を引き千切るブチッと嫌な音を立てた後引きちぎれた上半身から内臓が直で見え滴る血がこれでもかとバケツをひっくり返した並に流れる、血飛沫があたりを舞い歓声がこれでもかと上がる、上半身のみの男は勢いにまかされ空を舞う、溢れかえり止まらない血や支えを無くした散らばった内臓の欠片が飛び散る。

男の苦痛を耐えるような祈るような‥いや全て違うな、虚ろな瞳は俺の後方に居るシトリンに向けられ手が伸ばされた。

そしてシトリンもその手をとるように手を伸ばす。







                  

「                    」







俺達には聞こえない声で何かを言ったのかその口はハクハクと開かれる、そして落下_。

シトリンは泣くことをせず服の裾を握り唇を噛み締めうつむく、周りの声は大きいはずなのに俺達の周りは嫌に静けさが広がる、黒と金を主張する鎧を着るシトリンは俺の近くによりVLN-735に目を向ける。


「シトリンあれは魔物の中でも中級に値する竜だ、もちろん科学的魔法だって使う…」


シトリンはVLN-735をつかみ俺を覚悟を持つ瞳で見る「お前なら大丈夫だ」と言わなければ信じてあげなければいけないのに言葉が出ない、開けた口から声も…否、音すら出てこない。


「シルバー、飾った言葉は要らない」


凛としたシトリンの言葉が響く、シトリンの透明度の高い瞳が俺を映し出す。


「…正直、お前の力では到底敵わない、人をも喰らう一度でも攻撃を食らえば最後だ」


「おい」と止める言葉が入るがユキノが静止させる、シトリンはシューティングゴーグルをつけVLN-735を握り締めついさっき人が死んだことが無かったような会場に独りで向かっている。


コロシアム内では竜が観客を襲うため突進するが防御型科学的魔法六角(シールド)を使ってるのか一切危害は加わらない、近くで見るために俺達は前に行く、騎士団団長の参加の奴隷を探す声が無情に響く、奴隷達は死への恐怖でコロシアムに入ろうとしない。


まだかとざわめく観衆の声があたりに響くがその声も次の参加者によって歓声と困惑の声にわかれた。


「次の参加者は誰かに力を借りたのか凄い装備を身につけている!死刑執行型奴隷1049」


シトリンは騎士団団長の声にも歓声にも耳を傾けず肘を少し曲げVLN-735のグリップを右手で握り、左手を右手の上から添え固定する、フロントサイトとリアサイトを合わせすぐさま竜の右目に向け、開始の合図も無しに5発打ち込みすぐにトリガーから指を離す、体制を変え右側に回り込む、すぐに斬り込むのかと思ったが尻尾の攻撃を考え近戦は不利と判断したのか、竜の死角である右側から何発か打ち込み同じ場所に留まらないように右側に転がり距離をとる。



竜は攻撃型科学的魔法紅炎(プロネル)を吹く、竜の体内で構成された炎がシトリンがいる方向へと放たれる。

シトリンは攻撃型科学的魔法雷型風雷(ライファー)を発動ガンソードの剣先に太陽の光が集められ太陽光にあたためられた空気が激しい上昇気流をおこし、空気の摩擦によって雷が作られ球体へと変化し放たれる、爆風。 



シトリンの体は爆風により傾く、シトリンはなるべく風の抵抗を抑えるため前傾姿勢を保つ、砂が舞い上がり視界が悪くなる、六角(シールド)があるので砂はこちらまで来ない、六角(シールド)の中は子供が振り回した後のスノードームのようになっている。ウィンは小さく「耐えろ」と呟く、対してユキノの方からは何も聞こえない。俺は強く拳を握り目の前を見る、砂は晴れない。

ユキノの方を見ると胸の前で手を握り締めただ祈っている。



コロシアムを見つめていると中は見えないが確かに音が聞こえた、銃声だ。


俺から見て左手前から銃声が聞こえ、その数秒後に地面に重い何かを叩きつけた音そして…右手前から斬る音、数秒後に断末魔と大きな何かが倒れた音が聞こえたと思えば衝突音も聞こえた。


静寂。


だんだん砂が晴れていく、俺の瞳に映ったのは片眼を負傷し大動脈に深く傷を負った竜の死体、そして肺の部分を抑え血を吐くシトリンだった。

これでもかと歓声が巻き起こる。


「ウィン!!」


ユキノは思わずウィンを抱き締める、ウィンは安堵の表情でユキノとシトリンを見て微笑む、まさか勝つとは思いもしなかった俺はシトリンを唖然と見ることしか出来なかった。


俺達を見つけたシトリンは弱々しく挙げる右手をピースサインに変え微笑んだ、俺に向けて口をパクパクと動かす、俺はそれを読み取る。





し・ん・じ・て・く・れ・て・あ・り・が・と・う





俺は頭を左手で抑える、口角が上がる気がした…否確かに上がった

本当にシトリンは馬鹿だ、俺は強く思った。

これでシトリンの努力は無駄にならなかった、そう思うと胃にのしかかっていた重さが晴れていく、だが、騎士団団長の声が無情にも響いた。


「まさか竜を破るとは…まぁそれも一興。それでは奴隷1049第2回戦が始まります」


頭の中が真っ白になる。


「まっ…2回戦て連続なんて!」


ユキノの抗議する悲痛な声に騎士団団長は素っ気なく頷き、半分呆れた表情をする、いらだちを含んだ溜息をつき大きな声で言う。


「お心を痛めなくとも大丈夫です!奴隷は物である限り皆様を喜ばせなければならない、皆様の喜びこそ奴隷が自由より欲しいとする物です」


そんな無茶苦茶な、ウィンが叫ぼうとするのを俺は止める、俺の視線に気付いたのかユキノも同じ方向を見る。

俺の視線の先にはシトリンが立ち上がり諦めない姿が見えた。


叩きつけられた後であろうとシトリンは体に鞭を打ちVLN-735を支えに目の前を見据える、声が漏れそうになる、やめとけと言う声が出そうになる。だがシトリンの瞳の奥にある俺には理解が出来ない感情が俺を止める。わからない、シトリンのその瞳の感情は一体なんだ?




「次も勝つ」






はっきりとした物言いだ、シトリンの凜とした声が会場に響き歓声が上がった。

*竜はその後スタッフが美味しくいただきました。

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