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天涯記  作者: 浅黄 東子
第3章 偽りの聖女と騎士
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民間軍事会社

「ようこそ、民間軍事会社へ」


机を挟んだ向かい側の高そうなソファーに腰をかける50代ぐらいの男は、そう言って食えない笑みを浮かべていた。

その両脇には40後半ぐらいの男が2人、1人は刀を腰に下げ、その黒曜石のような瞳をこちらに向ける、民間軍事会社副社長。そしてもう1人は色素の薄い茶色の瞳を歪ませ、楽しそうに微笑む外務担当が立っている。


用意されているソファーに向かい合うような形で座る、部下は俺が座っているソファーの後ろに立っていた。


「まさか亡国の軍人がここに来るとは思いもしませんよ……それで一体なんの用で」

「ぬかせ、全て知ってるから通したんだろ」


そう言って相手の何を考えているかよく分からない黒色の瞳を見た、一瞬ぽかんとした顔がすぐに消え唇は弧を描いた。



「あはははは!!!」



今度はこっちが面食らった、楽しそうに、本当に楽しそうに笑う民間軍事会社の社長は、ふぅーと呼吸を整えて首を横に振った。


「いやはや、申し訳ない……亡国の軍人と聞いてどんな者かと思っていたが…滅んだのが勿体ない程の肝が座った男が居たなんて」

「戯言を」

「まぁ前置きはどうだっていい……今回の件全て我々に任せれば、すぐに終わりますよ?」

杯に酒を入れるコポコポと言う音が響く。

「それじゃあ、ダメだ」

「何故?」

カツンと目の前に酒の入った杯が置かれる。


「ケリは俺がつける」

そう言って杯の中にある酒を飲んだ。


「それで我々が納得するとでも?」

「するさ……否、させるさ」


沈黙。


「ほう?」

どうやってと続く言葉を遮るように、窓の外を見た。つられるように3人とも窓の外を見る。

「しかし……ここは活気があっていい、食うことにも困らず、病も不自由もないように見える。民も栄えそして兵が多い……ここに来るまで都市を少し見せてもらったが、技術も力もこちらが上と見える」

「……」

「兵の士気もほかと比べ物にならないほど高い……そう、まるでを戦前のような」


カチャ……と鞘に収まっている刀が動いた。


「脅しと?」

「いや、そんな愚策考えるだけ無駄な時間さ…何、俺には少しだけ考えがあるだけさ」

「ほう」

「もし、この依頼を受けてくれた場合、こちらでもそちらの政策などアドバイスを貰いたいと思っている」

「……それはそれは、我々としても長年列強諸国を相手取ったそちらの戦略など…もっと言えばこちらとそちらで、軍事練習なども合同でやりたいぐらいですね」


出された西洋の洋菓子であるクッキーを手で勧められたので躊躇うことはせず口に含んだ。


「こちらには多くの恩もある」

「それはこの国に?」

「いや?浅く言えばそうかも知れないが深く言えば民間軍事会社の社長である安濃 慧殿に試してもらいたい物がある」

「ほう?私に?」

「何、ちょっとした空飛ぶ船だ」


そう言って懐から出した紙を机に置けば50代とは思えないほど天真爛漫な笑顔を浮かべた。



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