誰がための愛
国境付近にある無機質な拠点へと戻った時にはすでにウィンは忙しそうに奥の部屋へと向かっていた、ここに来るまで細かい詳細はシルバーが全て話し結局のところあの島の生命反応が消えている時点で目的だったジェム族_ルチルの死亡も突きつけられる。
それなりに立場が上なユキノとウィンが報告に行っている間私達は休息室で大人しく2人が帰ってくるのを待っていた、それなりに着慣れたワイシャツの袖をもてあそぶように触ったり離したりする、静かな空間にはただシルバーがソーサーにカップを置くカチャンと言う音だけが響いた。
「どうした?」
「ぅえ!?」
突然投げかけられた言葉に肩が跳ねる、それどころか驚き過ぎて何度か瞬きをし下唇を噛んだ。
「なんかあったか?」
「いや、別に」
「??そうかなんかあったら何でもいいから聞けよ?」
「あ……うん、えっと……やっぱりいいや」
「いや、なんだよ」
喉につっかかる異物を出したい気もするが勇気がなく引っ込めれば、シルバーは眉をひそめて瞬きを数回した。
「なんか質問としてはどうだっていいかなぁて言うか」
「……なんでも良い、どんな質問も笑わないぞ?」
「嘘だ」
「本当、本当」
私は右耳に髪をかけ直し首の後ろを少し掻く、目の前に置いてある紅茶を少しの間黙って見つめて唾を飲み込む。
「あのさ……」
「ん?」
「シルバーにとっての『愛』ってなに?」
「愛?」
「そう、愛」
「愛かぁ」と呟きながらティースプーンを器用に片手で回す、1回2回と回せばシュガーポットにおもむろに手を伸ばして高級品の角砂糖を1つ取り出した。
「じゃあ、これを部隊長だと思え」
「部隊長……?」
私の前に角砂糖を置いて、指をさす。私の質問とは関係ないんではないかと思うが一応説明は聞こうと思いシルバーを見る。
「そう、部隊長。当然信頼出来る仲間がいて人望もあり仲間思いの部隊長が居るとしよう、もしその部隊長が…」
そう言いながらシルバーは目の前の紅茶が入ったカップに角砂糖をぽちゃんと入れた。
「敵に殺されたら、仲間たちはどう思う?」
「それは……恨みとかあるんじゃないのかなぁ」
「そう、それ」
「へ?」
いきなりの肯定の言葉に私は変な声を上げてしまう、その間にシルバーは紅茶を飲んで「なんだこのなんとも言えない味」っと零していた。
「どこが愛なの?」
「いや、俺たち……って言っても俺とユキノとウィンだけどが思うに愛って言うのは祖国の勝利の為の復讐心を一体感を出すための原因だと思ってる」
「…」
「だからこそ、戦場のお友達ごっこも必要なんだよなぁ」
「そうなんだ…」
じゃあどうして私をあの時助けてくれたの?
ユキノ達もそう思ってるならその祖国のための復讐心と一体感に関係ない私をどうして助けてくれたの?とは口が裂けても言えなかった言っちゃいけない気がした言ったら心が壊れるきがした。
「じゃあ、お前にとっての愛ってどういうものなんだ?」
「そうだな、私は……わからないや」
「なんだそれ」
私の思う愛はその人のためならなんでも出来るような気さえしてしまう愛おしい感情な筈なのに、『愛』ってなんだろう人を殺すための動機なのだろうか、そんなの嫌だ、可笑しい。
だってそんなのが愛だったらまるで祖国のために死ぬ事が名誉と言ってる物じゃないか。
ポケットの中に入っている東洋人に貰ったネックレスを強く握り締めたなるべくボタンを押さないように配慮するが手に入る力を自分でも制御できない。
ルチルもアウラもそんな事を思って愛し合っていたのかと言われればそうじゃない気がする、だってルチルはいつもアウラが幸せだと思う行動を見守りやり方は過激だったがアウラが不幸になりそうならそれを速やかに排除しようとしていた。
わからない、わからない『愛』がわからない。
皆歪んでる、歪んで見えてる気がする。
あぁシルバー達の祖国よ
命を落としてまで守る価値があるのだろうか、祖国よ。
第2章 ブレリナ国 ~完~
→第3章 聖女と騎士




