命
海から太陽の光が差し込み、ゆったりと波は中心を切り離すように左右にちょっとずつそれを引いていく、露わになった地面から見えるのはキラキラと太陽の光を反射する物体だ。
「本当に1ヶ月で引いたね」
「当たり前でしょ、自然は嘘つかないからね?」
「なんだそれ」
俺達が通ってきた道がたった1ヶ月でそこに存在を示していた。波のゆったりとした音と風が少し強めに吹く音が聞こえる、自信満々に自然を愛すような感情を瞳に映すアウラはシトリンの驚きの声に独特な返しをする。
「帰れ帰れ」
その隣には煽るようにしっしっと手を振る高圧的な態度のルチルが当然のようにアウラの隣に居る、少し頭に熱が上がる感覚がするが落ち着こう、俺は大人だ。
「じゃあまた、1ヶ月後ねシトリン、シルバー」
「おう」
「またね」
「ほら、ルチルも何か言いなさいって」
「お前は俺の親か」
「こらルチル!ちゃんと部屋の片付けしなさい!」
「ぷっ!!」
「あはは!!!」
面白いことにルチルの頭を軽く叩いたアウラは親を演じるように両腕を組みながら頬を膨らませた。どちらかと言うと部屋を片付けないのはアウラな気がするけどまぁこの際どうでもいい。
「1ヶ月後、迎えにくるね」
「うん、待ってる」
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
この1ヶ月で本当にアウラとシトリンは仲が良くなった何処か姉妹のような感じがする、顔が似てるかはわからないがきっと彼女ならヴァルレオーネ帝国でもやって行ける、ルチルはなんかバーサーカーみたいになりそうだが。
すると、何かに気づいたアウラがおもむろに小指を出した。
「今は東洋に行ってるキリシアとシン……友達に教えて貰ったんだえっと名前が」
「指切りげんまん?」
「そう!!それ、知ってるんだね……嘘ついたら」
「うん、針千本飲ます」
「指切った!」
楽しそうに笑い合う二人を見ていつの間にか後ろにいたルチルに一応声をかける。
「お前もう少し塩対応どうにかならない?」
「さっさっと帰れ」
「無理か…… 」
1度背伸びをして欠伸を噛み殺す、そのまま楽しそうに話しているところ悪いが早く帰って手続きを終わらせようと思いシトリンを呼んでそのまま本土に戻る。
潮風がシトリンの長い髪を揺らす。
「早く1ヶ月後にならないかな……」
「俺、ルチルの相手辛いんだけど」
「えールチル結構優しいよ」
「それはアウラとお前だけだろ」
確かにっと言いながらシトリンは心底楽しそうに笑う。
少ない記憶をかき集め、村がある場所に向かうため急斜面を登る。
「……シルバー?ここってこんな静かだったけ」
「……」
俺は1度シトリンを制しあたりを見渡す、目と鼻の先にもうすでに村の一部が見えるがそれは村と言って良いのかわからないほど荒らされていた。その場で木の裏に隠れるように座りもう一度様子を伺うすると遠くの方でまだ無事な家に集まる人間達が見えた。
「人……?」
「…………いや、あれはニア人じゃない」
ニア人は比較的白人に近い黒人だ例を上げるとアウラだ目元しか見えないが彼女は列記としたニア人だろう、しかし比較的無事な家に集まっているのはまさしく奴隷狩りの餌食となった黒人、クリフィオ人だ。
「ニア人と邪魔する白人達を殺せ!!」
狂気じみた声が遠くにいるはずの俺達にも聞こえる、クリフィオ人は持っていた松明をおもむろに家に投げ始め放火し始める、家の中には生きていた確率的にニア人が隠れていたのだろう。
「ギャァァアアア!!!!!」
鼓膜が破れる程の悲鳴が聞こえる、咄嗟にシトリンの耳を塞ぎ奥歯を噛み締める。早く、早くユキノ達と合流して状況を把握しなければ……。しかしこの村を通らなければこの先にある拠点に行くことは出来ない。
俺は軍服のポケットを探りある物を取り出した、ヴァルーネ社科学的魔法拡張型人工石それを自分の首にかけ隣にいるシトリンを呼ぼうとした時異変に気づいた。
「なッ……!!アイツ、どこ行った!!!」
隣にいたシトリンはいつの間にか居なくなっていた、これは想定の範囲外だなんだどうしてこうなってしまった。
思考がグルグルと回る感覚に焦りが積もって行く、ただでさえニア人大量虐殺の現場に居ると言うのに冷静を取り戻せない……待ってくれニア人ていう事はこれが本当に大量虐殺のテロだったら。
アウラの存在が知られていなくても今日1日あそこの道は繋がていて向かわれたら、アウラだけではなくルチルも標的にされる。
きっとシトリンもそれに気づいたのだろう、俺は方向転換して急いでシトリンを追いかける。
「頼むッ間に合ってくれ!!」




