彼は無知か聡明か
「おーい、寝坊助起きろ」
うんうん唸りながらアホずらで寝るシトリンの額にパチンッとデコピンで攻撃する。外から入ってくる米を煮込んだような匂いと腹が減る旨そうな匂い、これで起きないとはよほど夢の中で何か旨いもの食ってるなコイツ。
「おーい、起きろー寝坊助ー大食いー」
「ん、んん」
顔を軽く叩けばやっと夢の終わりを迎えたらしく薄らと目を開ける、すると御飯を作り終えたのかアウラが窓から頭を出す。
「シトリン起きた?」
「あー目が開いただけで起きたとは言わないなぁ…取り敢えず引きずるわ」
「もー優しくしてあげなよ、あっ!!ルチル!勝手に先に食べちゃダメ!!め!!め!!」
「…俺は犬か?」
外から半分笑いながら「めっ!」と言い続けるアウラと何だかそれが可笑しくなったのか「ちょっ、ちょっ辞めろ辞めろ」と笑いながらなんだか楽しそうに雑談をしている。やっとお目覚めかシトリンは目をこすりながら背伸びをする。
「ほら、飯食いに行くぞ」
「ん」
手を引きながら外に出れば大きな葉に膨れた米と大きな魚がのる美味しそうな食べ物が美味しそうな湯気を出して鎮座してるではないか。
「これはねブレリナ国でよく食べる主流のジプシーて言う食べ物なの、米を良く水に浸して茹でる、その上に焼いた魚と薬草と一緒に蒸すの」
「ほー、蒸し料理か…初だな」
「良い匂い!魚ふわふわだ」
子供並みの食レポありがとうシトリン、お前はまず顔に水かけたほうがいいよ、昨日もなんか変なことしてたんだから。
木材で作った物なのか配られた歪なスプーンを使い柔らかな魚の身をふっくらとした米と一緒に掬い上げ口の中に入れた。
口の中に広がる米の甘さと少しの塩気、そして薬草のすっとした後味が胃に優しい、ユキノの東洋料理と似たり寄ったりな物だと思ったがやはり何かが違ったその味は身にしみる温かさもあり頬が落ちそうなほど美味しかった。
「美味いな」
「でしょ?」
「ほふひぃ」
「誰も盗らないからゆっくり食べな」
いや盗るだろ、特にそこのルチルは。
黙々と食べ続けるルチルを横目で見ながらもう一口食べていると今まで用意や皆への紹介で忙しそうに動いていたアウラが落ち着き耳の裏をかくような仕草をとる。
「あのさ、貴方達の国の…えっと」
「ヴァルレオーネ帝国」
「そうそう、それ、その国行きの船っていつ頃来るの?」
ソワソワとした仕草で俺達を見るアウラに二回ほど瞬きをする、どのくらい…どのくらい…かぁ…まぁ見積もって一ヶ月くらいなのか、まぁこの島を出て一ヶ月は向こうの大陸で過ごすことになるだろう。その結論をそのままアウラに伝えれば顔を曇らせ比例するようにルチルの眉間の皺が深く刻まれた。
「私的には向こうの大陸に一ヶ月滞在はしたくないなぁ…なんて…」
そう小さく呟く声が不安げに揺れ消える、沈黙が続きそれを破るのはルチルだと思ったが違った。
「…そうだよ!ほら、女子は荷物が多いしね?後で合流でいいでしょ?」
妙に推してくるシトリンに1度目が丸くなる。こいつ急にどうした、と思うがここまで言うなら相当何か理由があるのか、まぁアウラの件はシトリンに任せているので取り合えず頷く。
そうすればほっとしたように戻り朝ご飯が再開される、しかし一つだけ微妙に違った事があった。
ルチルの視線が痛い。




