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天涯記  作者: 浅黄 東子
第2章 ブレリナ国
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助け

ぽちゃん


干し始めた薬草から水の雫が落ち、この下で待ち構えていたバケツに重力に従って落ちていく。

比較的静かで瓶の中で燃える薬草が唯一の明かりだった、瓶の中の薬草は乾いてある物もあるが乾いてない物がある、乾いている薬草からジリジリと燃えていきまだ水分を含んでいる薬草はあまり燃えていない、燃えたり燃えなかったりなど明るさの強弱が不安定な空間を作り出す。

肌寒い空気が少し開いた壁から入ってきては私の髪を揺らす、寒さに身を震わせ薄い布を被りながら体を縮め丸くなる、枕にしては薄い自分の軍服の上着を引き寄せるがまだ寒い、隣にあったもう一つの薄い布をとり被ると少しはましになった。

隣にあったもう一つの薄い布は何故か中央部分に温もりがありその暖かさに顔が緩む、しかし枕が物足りない、奴隷の頃はこれで普通だったが慣れはやはり怖い、数ヶ月の間ユキノの家で生活していた時のあの暖かい布団を堪能してしまえばもうあの頃に戻れる自信はない。

腕を布団の外に出して探る、そうすれば良い塩梅の柔らかさと堅さを備えた今求めている物が見つかる、引き寄せることが出来ないので自分から向かいそれに自分の軍服の上着を重ねて頭を置いた。

すると、その枕はまるで生き物のように動く、あぁ動かないで…なんて考えているとある違和感を感じた。


動く…?


バッと起き上がり自身が枕だと思った物を見るとやはり自分の隣で寝ていたシルバーの腕だった、剥ぎ取った布団もシルバーの物だったので慌てて返す。


やった、やってしまった。


自身の乱れた髪をつかみ顔を隠す、あぁまじでやってしまった、あぁ人生乙…。

しかし気にする様子もなく寝こけるシルバーに目が点になる気がした、些細な音が気になると言ったわりには大分熟睡してるではないか、鼻の近くに手をかざして生きてるか確認する、あれ?生きてる…じゃあ、あの時言ってた事はなんだ?大分物音もましてや腕に私の頭の体重のせてたぞ?と疑問符が浮かんでいく、いやもしかしたら瞳孔開いてるかもしれない…そうと決まれば恐る恐ると言った様子でシルバーの頭の上、覗き込むような形で座り込みシルバーの下瞼をシルバーから見たら下に私から見たら上に引っ張った。

するとアンバー色の瞳が見えた、ん?これは瞳孔が開いてると言うのか?専門的知識が皆無なため全く分からない、どうしようと考えていると角膜部分が動き目が合った。


「!?!?怖ッ!?」


シルバーの声が聞こえた瞬間、ハッと目が覚めた。


「あ、やってしまった」 

「え?何したかったの?」

「起きてるか、生きてるか確認…?」

「選択肢酷くない?」


少し静かめに呟きながら回らない頭を必死に回す、あぁまじでやった、これはアウト、寝起きの私は一体何を考えているのか…自分ながら行動を疑った。


「…大丈夫か?」

「そうに見える?」

「…」


押し黙り神妙な顔するシルバーに自分が恥ずかしくなり掛け布団に顔を押しつける、そう言えばこんだけ騒いでアウラとルチルは平気なのだろうか。

視線を映して反対側を向けば幸せそうに熟睡するアウラと掛け布団と自身の上着ををアウラにかけてあげ自分は壁にもたれ寝るルチルが見えた。


これで付き合ってないとか嘘だろ。


そんな事は置いといて、私はシルバーに視線を戻し項垂れる。


「本当にごめんなさい」

「いや、寒かったら使ってて良いぞ俺は平気だから」


薄い布団を指さして何事も無かったように寝始めるシルバーにまた顔に熱が集まる。シルバーイケメンかよ…。

私もシルバーの優しさに甘え寝ようともう一度布団にダイブしようとしたらアウラ達の方向から何か音が聞こえた。


「う……ぃ………た……ぇ」

「…アウラ?」

「た………ぇ」


何がどうなっているかわからない、うなされているようにアウラが辛そうな声を上げる、しかし宗教上外せないニカブと言われるスカーフで表情が見えないので熱があるのかわからない。


「ど、どうしよう…」


自身とシルバーの布団をかけてあげるが全くダメだ、枕のずれを直すために頭部の方向に手を伸ばす一瞬こめかみに人差し指がふれた、その時接、物質の持っていた電気のバランスが崩れた。


バチッ!!!


鉄の匂いと味、そして電撃が走るような蝕むような痛みに脳が悲鳴を上げるような感覚が押し寄せる、痛みに耐えられない苦しみに声が出そうになるが意識とは反対に声は出なかった。


一度、冷静になるために回らない頭をフル回転させる、視覚は微妙真っ暗すぎてわからない、聴覚は何かに覆われるような感覚があり何も聞こえない、味覚はある、触覚は痛みと冷たさ、嗅覚はやはり鉄の匂いと乾いた匂い…。そして体全体が怠さと激痛が襲っている血の流れるぬめりのある感覚に不愉快さがありずきずきと痛みと重くのしかかるような痛み。


頭も体も思うように行かない、それどころか勝手に体は動く。なんだこれ、何なんだ?体が勝手に動けば壁のような場所に向かってぶつぶつと何かを呟く、そしてカリカリと長い爪で(視界に入ったときに見えた)壁を引っ掻いた。


「たすけて、お願い、赦して」


自分では無い声が出て来る、ここは本当に何処だ?意味が分からない一体これは何だ!?

力が加わらず全くもって動かない、しかも科学的魔法も使えずただこの光景を見ている…いや、体験しているようなものだ。


「ごめんなさい、もう刃向かわないから、赦して」


壁に腕を打ち付けた瞬間銀色の輪が指についているのに気付いた、この人は結婚しているのだ、じゃあなんだ?なんでこの人はここに居るのだ?


「ひっ!こないで、やめて、誰か…たすけて」


がんがん!と必死に壁を殴り縋る、あぁ段々腕がめっちゃ痛くなってるんだがと場違いな事を考える、しかし今、この空間には誰も居ないはずだ、じゃあこの人は何に怯えているのか。


「怖い、怖い、やだ、やだ、助けて、助けて…!」


…幻覚?いやこの場合は幻聴か?この人は幻聴に蝕まれているのか?きっと女性なのだろう段々と悲鳴が上がるのを聞いて頭が脳がぐるぐると不安に蝕まれる。寒気が襲ってくる自分が自分じゃ無い感覚に恐怖と不安が拍車をかける。

その時。


「少し伏せろ」


少し低めの男の声が聞こえ涙が頬に溢れる感覚があり、女性はその場で膝から崩れ落ちる。

その瞬間、まだなんの科学的魔法かわからないが壁を脆くしたのかガラガラっと壁が崩れ、一気に光が差し込んだ。


「すまん、遅れた」


差し伸べられる手が見えた、瞬間顔が見えたとき緑色の美しい瞳が見えた。

その瞳に映った女性が見える、嘘だ、そんな、まさか…。


「…ル‥チル?」


この女性はアウラ…?

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