幸せ定理
木漏れ日が地面を彩り草木が風に揺れて心地よい音を奏でる、そんな中かがみ込む黒色に近づいてその手元を見てみれば独特な匂いを漂わせるドクダミがあった。
「アウラ、それ毒じゃないの?」
「え?あぁこのドクダミ草のこと?だったら違うよ、健康茶の原料としても化膿性の腫れものや、利尿、便通、高血圧の予防にも効果があるんだよ?」
「凄い詳しいね」
「これでも一応医学の学校に通ってたからね」
そう言いながら他に薬草がないか探し始めるアウラに少しの疑問が過ぎった。
「女の子でも医学の勉強出来るの?」
「うん、私達のところは特殊だったからね」
男尊女卑はもはや世界中に広まっているのに医学の勉強が出来るなんてとても羨ましいと思ってしまったのはきっと私の悪い癖なのだろう、いつも無い物ねだりしか出来ない自信の思考に嫌気がさしていく。
「でも、男尊女卑は私達の信仰する宗教にもあるわよ」
「え?」
「例えばそうね…男性は結婚した場合女性にどんな暴力をしても良い、それに女性が反対した場合裁判になるとか」
「なにそれ…」
いきなり重い物がきて衝撃で言葉が上手く出ない、しかしそんな文化の中で生きているためかさほど気にした様子が無いアウラは軽く流す。
「女性は結婚に反対しちゃいけないとか…ね」
悲しみを浮かべる瞳が見えた後、すぐに元の瞳へと戻る。その瞳に映るのは希望と夢と諦め、私は一つの仮定と結論を結びつけアウラに小声で聞くことにした。
「アウラってさ、ルチルの事が好き?」
唯一見える目は大きく見開かれ隙間から覗く小麦色の肌は心なしか赤くなっている気がした、ドクダミ草を採る早さが格段と上がりちっとも目を合わせてくれない、しかしどうやら答えてくれるらしく手招きしてくる。
「…す…好きだよ……」
「なんで?」
「色々あって暗いところに閉じ込められた時があって、その時助けてくれた…でもその前からずっと好き…」
あぁどうしてこうも人の恋愛経験の話は好奇心をくすぐるのだろう、しかしこれだけは言える恋するアウラは今まであったどんな女性よりも素敵だった。
目だけでもわかる、幸せいっぱいに微笑むアウラにこちらも顔が赤くなる、ルチルがどうしてアウラの事を好きになったのかなんとなくわかってきた。
「そ、そんなことよりも早く帰ろこの時間帯だとルチルが魚取り飽きて帰ってくるから」
「魚取り!?」
「なんか手でびったんばったんしてる魚捕ってくるの」
びったんばったん…想像できそうで出来ない現象に少し頬が引き攣る、薬草がたんむりと入ったかごを片手にたわいも無い話をしながら帰り道を歩く。
「それで、ルチルが私の薬草をね…」
「なにそれ、ふふふ」
あぁ泣きたくなるくらい幸せだ。




