地雷地区
今はきっと干潮時なのだろう。
俺達の目の前には干潮時に現われる幅50mの砂の道が出来ていた、その道をゆっくりと踏みしめ歩き出す、その後を追うようにまたシトリンは辺りを警戒しながら恐る恐るついてくる。
瞬間、何かが動いたような気がした。
それはきっと俺だけではないだろう、シトリンもそう思ったのか何の合図も無いまま走り出す。それに従って俺もさっきより足の回転数を上げながら必死に走った。
「い、今ここに」
「あぁ、確かに居たな」
急な崖の下で息を整えながら辺りを見回した、しかし人影は見えずそもそも辺りが暗すぎてシトリンが近くに居るかさえ微妙だ、取り敢えず科学的魔法第三基礎〈光〉を使い明かりをつけるとちょっと離れた場所に居たシトリンが光に気付きこちらに駆け寄ってきた。
すると光が段々と弱くなりシトリンが辿り着く前に消えてしまった、俺は空を向いて月の位置を確認するとちょうど雲に覆われているのが見え「あー」と声を漏らした。それにしても洞窟の近くだからか異常に暗い、俺はしばらく黙りと空を見ていたらやっと雲が月からどいた。
「うわぁ!!?」
「うわぁ!?近ッ!?」
大分シトリンが近づいて来ていたらしく、光が通常通り発動されたときにはちょうどシトリンの顎の下辺りに光があったので怖い話を語る語り部のような顔に見えた。
しかし、ここまで近づいているのに気づけなかったのはやはり可笑しい何かしらの科学的魔法が仕掛けられていることを考えた方が得策な気がする。
「シトリン、少し危険だあまり離れるなよ」
……。沈黙。
「…シトリン…?まじかアイツ」
そこで近場にシトリンが居ないことにやっと気付き俺は頭を抱えた、溜息を溢し足を急かした。
やばいっと思ったときにはもう遅かった。
自身の目が全くもって役に立たないぐらい暗すぎる夜道をしょぼくれながら無闇やたらに歩き続ける、心臓の鼓動がまだ大きな音を立てて顔に熱が集まる感覚がもっと私の焦燥感を煽る、さっきの私の視界に広がる綺麗なアンバー色のシルバーの瞳を思い出し若干、体温が上がったような錯覚さえおきてきた。
何度も何度も忘れようとするが全くもって意味が無い。
…
…
好きなのかもしれない、そう自覚してしまえばもっと頭の中が混乱していきもっともっと私の心臓の鼓動を早めた、その瞬間はぐれてしまった事への不安と焦りが一気に押し寄せて来て私は一人でパニックに陥っていた。
しかし私がいくら焦ろうが困惑しようがシルバーとはぐれてしまった事実は変わらない、速く合流しなきゃと思う一方、今の状況で会ったら顔を見られないと言う思いもある、まるで終わらない議会を永遠と続けるように攻防戦を始める意見達にただ私は振り回されていると可笑しなスイッチが入ったせいかこれまた可笑しな結論が出て来た。
「貶せばいいか!」
名案というように私は大きな声を出して立ち止まった。そうと決まれば話は速いと歩きながら指を折り第1回シルバーの悪口大会を開催させた、スキップ気味に歩き鼻歌交じりに考える。
「我が儘、頑固、空気読めない、つかみ所無い、何考えてるかわからない…あれ?同じか…えっと…えーと、よくわからないタイミングで優しくなる、いつも気にかけてくれる…って違うぅ」
うなだれる。確かに悪口大会な筈なのに段々とベクトルが変わって褒め褒め大会になってしまっている、あぁこれがモリージェリー人のサガだ。
ゲシュタルト崩壊寸前の思考回路にもう一度うなだれる、どうしてこんなに私は馬鹿なのだろう…。
「おい」
「ひゃあ!!!?」
突然後ろから聞いたことの無い低めの声が聞こえた、突然のことで変な声が出る恐る恐る後ろを振り向けば私より高めの場所に二つ、暗闇の中緑色に光る何かが見えた。
「えっ」
そこに居たのはあまり歳が変わらなそうなぐらいの青年だった、ほのかに見えるその姿は短髪の黒髪を持ち綺麗な緑色の瞳を持つ男は手に持つ小型銃を私の額に向けている。ひゅっと喉が音を鳴らすと一度訝しげに歪んだ男の顔が少し和らいだ。
「あんた……俺を追ってきた奴か?」
「いや…あ、うん」
「何のために」
「えっと…気分…?」
「俺に聞くな」
果たして何のためにと聞かれたが全くもって「わぁ海の上歩いてる人いる~凄い~」くらいだった気がする、そんなことを考えていると男は人の顔を見るやいなや大きな溜息を溢して私の進もうとした方向を指差す。
「一応言っとくがその先、地雷地区だぞ」
「うぇい!?」
動きを止めた私に男は反対方向を指さして歩いて行く、私はただ冷や汗が流れる感覚に酔い寒気に震えることしか出来ない。
「ついてこい、安全なところまで送る」
「ちょっ…ちょっと待って!!一人はぐれた人が居るの!」
「はぁ?」
こちらを見て驚きに目を見開く男に駆け寄り頭を下げる、段々と瞳に熱が集まっていく気がして情けなさと不安で心がぐらぐらとしているような感覚が胸一杯に広がった。
「シルバーって言う人とはぐれて、あっ私はシトリンって言うんだけどあの、あの」
すると男は一度私を黙らすためか手で制すようにしてくる、私はそれに一度呼吸を整えると妙に喋らなくなった男が遠くを見て舌打ちを落とした。
「アイツ…」
「へ?誰か他にいる…」
ドォォォオオン!!!!
遠くの方から爆発音が聞こえた、思わず私は唾を飲み込み嫌に静かになった空間に心が悲鳴を上げた気がした。
いや、違う、そんなわけ
そんなわけない。
そんなわけ無いんだ。




