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天涯記  作者: 浅黄 東子
第1章 術士と自由の革命
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善悪

科学的魔法とは世界人口の1%しか得られない、それはまるで世界のルールと言う程にきっちりと昔から決まっていた。しかし約1520年頃、大河洋の東南方向に一つの島があった、地球温暖化の被害で水面上昇したのかそれとも地盤の動きや俺らには想像出来ない程の力が加わったのか、その島は1620年頃沈んでしまった。


そんな島で生きていた民族…戦闘民族ジェム族はその人口の殆どのもの達が科学的魔法を所有していることが解明された。しかも宝石を作ると言う高度な技術を持っていたとまで解明されている。


ジェム族は島と共に滅亡されたとされていたがさっきブレリナ国に白人の男が何かをしている所が発見された。 

発見者は確かに新月の夜で森の中に入っていくジェム族特有の緑色の瞳が見えたと言っているのだ。


「なんでホラー系なの?」

「ノリ」

「はぁ、だから問題児組って言われるのよ」

「今の結構面白いと思ったけど」


賛同するウィンに俺が頷けば軽く頭を叩かれる、それはウィンも同じく叩かれた頭を念入りにさすっていた。

そんな俺達を軽く無視するようにシトリンは首を傾げて手元にあった書類を弄っていた動作を止めた。


「緑色の瞳だからと言って、本当にジェム族なの?滅んだんじゃないの?」

「うーん…緑色の瞳って世界人口の2%しか持ってないのよ、しかもバースガリア国って言う北にある国…ここは国内騒動で他国の反乱分子に支援する時間も物資も金も無いから、ジェム族の方が確率が高いのよ」

「もしくは、発見者の見間違い」


それは無いだろうとウィンに言われるが正直そっちの確率の方が高い気がする。

進展が無さそうな会話が始まりそうだったがこれ以上、その白人がジェム族でもジェム族じゃなくても支障無さそうと思い、話を切り辞めしようとしたが遮られる。


「実は国からもしもその白人がジェム族だったら、そのまま捕縛命令が出てるのよ」

「はい、来ましたムリゲー」

「話を聞きなさい」


うなだれるように机に上体を倒すと、眉を顰めてこちらを見てくるユキノに渋々上体を起こした。シトリンは黒板と書類を見比べており、真面目だなコイツと何処か他人事のように考えていた。


「本当にジェム族だったら私達はきっと敵わないわ」

「あぁ宝石を作れるってかなり高度な技術だ、もし勝とうなんて考えるなら無駄死にだな」

「そんなに宝石って作るの難しいの?」

「あぁと言うか作った物は殆ど合成鉱物と言う分類に入る、俺達の言っている宝石は合成鉱物の事を指している訳じゃ無い、天然石の事を指している」


そう言えばシトリンは完全に理解したわけでは無い厳しい表情で頷いた。絶体理解してない、俺は一度溜息を吐き出し思考を巡らせて整理する。


「分からないなら頷くな…」

「えっと、分からない…どうして人が作ったのに天然なの?」

「あぁ…ウィンパス」

「まじか…えっとな、宝石をそのまま作るって訳じゃ無いんだ、その時に応じて科学的魔法を切り替えたり同時に別の科学的魔法を何個も発動させたりして自然の力を人工的に巻き起こすから、結局は人間が1から成分を持ってきて作るって言う訳じゃないんだ…わかるか?」

「ん?じゃあ宝石を人工的に作ってる訳じゃ無くって、人工的に自然を操ってその結果、宝石が出来てるの?」

「まぁ、そんな感じだ」


こう言う説明苦手なんだよなぁと思いながら一生懸命に手振り身振りでシトリンに教えるウィンに少し笑いそうになるが必死に抑える、シトリンははっとしたように目を見開かせてユキノを見た。


「紛れで宝石が出来た?」

「そうじゃ無いんだよなぁ」

「…ゲシュタルト崩壊しそうだからいいや」


頭を抱えるシトリンは次の説明を欲するようにウィンを見る、ウィンは苦笑いするように首の後ろを書きながら黒板に向かう。


「それで国から出た命令はその白人がジェム族だったら交渉か捕縛して絶体に連れて帰れ、て言う物といつも通り科学的魔法を所有する人物がいたら保護が追加された」

「?科学的魔法所有者保護っていつもあるの?」

「あぁ、連把戦争から始まった制度だ、それほど戦争で科学的魔法所有者達が俺達の国に与えた打撃がでかかったって事だ」

「懐かしいわね、最初は戦車の破壊と科学的魔法所有者同士のぶつかり合い以外任務無かったのにいきなり『敵国の科学的魔法所有者を捕まえろ』とか…ね?」

「あれは諦めたよな、俺ら」


懐かしむように目を合わせるとシトリンは目を見開き瞬きを忘れたようにこちらを見てくる。


「え、それって絶体に無理よね?」

「あぁ実質、捕まえようとした結果5師団破滅に科学的魔法所有者15人死んだそれでも捕獲できた科学的魔法所有者は2人だけ」

「どうしてそんな無理な指令を…」

「正直、上が焦ってたからかなぁ…俺らは勿論死にたくないからその命令無視してたけど」

「ユキノの冷静な『戦車を引き留める役を私達でするので』は笑った」

「あれしか思いつかなかったのよ」


たった3人しか残らなかったのにこれ以上の打撃はきついと戦車を相手取る方を選び俺達は生存ルートを選んだ。懐かしく脳にこびりついた記憶がちらつく、シトリンは恐る恐ると言ったように眉をひそめて心配そうにこちらを見る。


「その2人は?」

「……知らないわ、片方は有名な暗殺者だったらしいけどもしかしたら服毒自殺で死んだかもしれないわ」


シトリンはそれ以上聞こうとせず、唇を噛む、最近医療薬、自白剤や精神安定剤などの性能が良くなった事が頭にちらついたがすぐに振り払った、聞きたくも無いし知りたくも無い事実は忘れることをおすすめする。


「取り敢えず、友好的な手段をとりましょう」

「あぁ、まだ半分も生きてないんだ」

「俺はまだ20代だから死にそうなら30代のウィン、盾はよろしく」

「あ、じゃあ私は10代だからシルバーよろしく」

「お前らな…」

「あははは!」


結局は俺死ぬじゃんと呟くウィンの声はユキノの笑い声に遮られる、シトリンも楽しそうに笑ってさっきのお葬式ムードは一体何だったのかとさえ思った。

しかし全員の表情は笑顔でも瞳の奥にある不安は一つも取り払われていない、でも誰も悪くないこの空間は罪悪感や怒りなど様々な感情が渦巻いていた。

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