親知らず子知らず
大航海時代、ヴァルレオーネ帝国はトウモロコシやバナナを求めて大河洋の方向に進んでいった。何故そのまま南へ行かなかったかと言うと犬猿の仲と言う言葉が一番当てはまるファームバース帝国があるからだ。
昔、ヴァルレオーネ帝国が領地問題で攻めに行きそれ以降から仲が悪いのだ。その為、南進は出来ず遠回りの西に進んでいった。現代のようにエンジンとか無かった為に本当に気分でゆらりゆらりと海を渡り、最終的に到着したのが先住民の黒人らが住むブレリナ国だった。
そしてそのままブレリナ国に攻め込み、ブレリナ国を植民地とした。
そんなブレリナ国だが最近不穏な動きがあると報告が入った、一部の黒人達の暴動や白人に対する攻撃など…あげられている、しかし、俺は白人主義でも何でも無い、奴隷狩りされ、加えて白人だからと何してもいいと言う考えを持つ奴らも少なくない中、それなりの納得感さえ得てしまう。
これもシトリンの存在の影響か、少なくとも奴隷制は廃止した方が良いという思いが増加し心の中に残っている。
それは俺だけではなく隣で話を聞いているユキノ達も同様、奴隷の話になる前から険しかった顔は更に険しくなる。
そんな俺らに気付いたマスターは呆れたように困ったようにしかし何処か嬉しそうに溜息を吐く。
「貴方達がまともな精神でよかったわ、だけど奴隷制に文句を言うのは辞めといた方が良いわね…ただでさえ国民から科学的魔法所有者の風当たりは強いのに奴隷制廃止を掲げた瞬間、国家まで貴方達を排除しようと動くわ……残念だけど今の国に何言っても無駄よ、それにマイナスが多い」
「そんなこと知っているのに、私達にこの話を持ちかけたのですか?」
「そうよ、貴方達だからこそよ…科学的魔法第三部隊に命じます、二ヶ月後ブレリナ国に向かい不穏な動きをしている組織について報告、そして帝国の指示を仰ぎなさい」
「了解」
「了解」
「了解」
三人の声が混ざり合う、また家から等分離れなければいけないことに少しうなだれる、お願いだから野営はやだと思う。ふかふかの布団で存分に寝たいとすら思った。マスターが帰った後、ユキノは青ざめたようにわなわなと手を震わせて口元を隠す。
「シトリンどうしよう…」
「…こっそり連れてくか?」
気付いたようにウィンも焦り、二人してあたふたしているのを見て思い出した。それもそうだろう、2人にとったら自分の娘当然、そこで俺は気まずい中だが恐る恐る手をあげて引き攣る口角を必死に抑えながら言葉を紡ぐ。
「シトリン、ここの面接受けるって…」
「はっ?」
「え?」
一瞬にして冷めた目を見せるユキノに背筋が凍る、今度はこちらがあたふたする事になり何でも良いからユキノの怒りの矛先を違う人に向けるため巧妙な嘘を考える。
「いや、あの…なんかたまたま居合わせてイザベルに面接受ける奴と間違えられたと思うんだわ」
「……」
「ユキノ、流石にシトリンも努力してるし諦めされるのも後味悪いだろ?」
軽く騙されてくれたユキノはウィンのその言葉に肩をすくめ俺達を指す、ウィンと俺は少し呆け小首を傾げた、少し考えるような素振りをして沈黙が続く。
「シトリンがこのギルドに入るのを私はもう止めないわ…」
「ユキノ…!」
「おぉ」
二人して感動してるとユキノが少し大きい声俺達を制する。
「いい?だけど入ったからには私達のチーム…科学的魔法第三部隊に入れさせるから」
「おう」
「分かった」
そう言って会議室から出て来て、長く何処か重々しい雰囲気の廊下を歩く、先頭を歩くユキノに置いてかれないように赤色のカーペットの上を歩く。そして俺はもう一つ言ってなかった事を思い出した。
「シトリン、待合室に居るぞ?」
「シルバーまず貴方は報連相しっかりしようか」
「まじかよ、コイツ…」
呆れたような声で言われるが忘れているものは仕方が無い、心なしかユキノ達の歩くスピードが早くなる。待合室の扉が見えてきてそこをユキノが思いっきり開けた。
「えっ?ユキノ!?」
「シトリン、そこに座りなさい」
肩を跳ねさせ、シトリンが鞄を抱き直し指定された椅子に座る、待合室は大抵いつも綺麗にされていて唯一の照明である自己主張の激しいシャンデリアが煌びやかに輝く。
「知ってると思うけど、軍事ギルドと言うことは貴方が今まで受けたどの民間ギルドとも違うわよ、それに国規模の依頼や戦争への加担なんてあるある…それでも本当に良いの?」
「うん、私はユキノ達と一緒に頑張りたい」
「ラルの為の時間が少なくなるわよ」
「そこは…」
言葉が詰まったように俯く、シトリンは決して考えて居なかったと言うことは無いのだろう、表情に浮かぶ感情は困惑ではなく罪悪感と申し訳ないと思っているのか眉を顰めている。
「皆にも手伝って欲しい…私一人ではどうにかなんないって気付いた、他人任せみたいに聞こえたらごめん…私もしっかりと面倒を見るから手伝って下さい」
「…」
頭を下げるシトリンにユキノは眉間の皺を深く刻み込み、何とも言えないような表情を浮かべる。自身の手首を握ったり離したりかと言えば袖を弄り始める。
「…ユキノ、シトリンもこう言ってるんだ、コイツの決心を助けてあげるのも俺らの出来る事じゃないのか?」
ウィンがユキノを落ち着かせるように声をかける、腕を組みながら待合室の壁にもたれるウィンはどことなく心配しているような顔色は無い。
「………シトリン、危なくなったら国の事なんて考えないで逃げるのよ」
「ちょっ!?ユキノ!?」
この室内には俺達しか居ないが、聞かれていたら即国家反逆罪にされるような発言をユキノは真剣に言った、流石に止めようかと声を出すがウィンの視線によって止められる。
「これが守れるなら良いわ」
「ユキノ…でも…」
「私は!!………国より貴方達の方が大事なの、誓えるのならギルドに入ることに反対はしない…でも国のために命を捨てるなんて覚悟で言ったなら、私は今ここで貴方の科学的魔法を奪うわ」
冗談な訳無い、これは本気だ。
シトリンの科学的魔法の根源は物凄く小さい、奪うことは簡単だろう、ユキノの真剣な瞳を見れば本気でやろうとしていることは目に見えている。シトリンは軽くそして重く深呼吸をしてユキノの瞳を見つめる。
沈黙。
「…わかった、約束する」
「………いいでしょう、その言葉心に刻んどきなさい」
バレてはいけない誓いが結ばれた。
程なくして、俺達はいつも通り人通りの多い道を通り帰っていた。ウィンに何となく一発肘鉄をしていつも通り雰囲気が戻る、ウィンも痛~と言いながらも肘鉄された腹部をさすることなく手を添えているだけ、もっとましな演劇をしろよと言ってやりたいがそこは敢えてスルーする事にした。
シトリンが町を見つめてソワソワとしているのに気付いたのはそれからしばらく経ってからだった。あたりをきょろきょろ見渡し服のシワを直すような仕草をしていたり…はっきり言って行動が可笑しい。
「シトリン、どうした?」
そうやって聞いてやれば瞳を輝かせてまるでその質問待ってましたと言わんばかりに嬉しそうに微笑む。
「この近くって図書館あるの?」
「あぁ国立図書館が…ほら、あそこ城みたいな奴」
そう言って東の方向を指差す、大理石やレンガなどまさしく国の財力を見せびらかすように立てられる国立図書館にシトリンはさらにきらきらと目を光らせる。
「あそこ、ユキノ、ウィン!!あそこ、あそこ行きたい!!」
「うん?国立図書館のこと?」
「うん!」
「今日は時間無いから明日ゆっくり行くか」
ウィンのその言葉に食いつくようにシトリンは首を縦に取れるんじゃないかと言う程振る。微笑ましいその光景にユキノはさっきまでの顔色は無かったかのように笑顔になる。
はしゃぐシトリンに溜息を一つ吐き出し「怪我するなよ」と声をかけた。




