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天涯記  作者: 浅黄 東子
第1章 術士と自由の革命
31/57

ギルド

シトリンが帰ってきて二ヶ月が過ぎ去る頃、俺はと言うと自宅に帰り依頼の無い暇な時間を欠伸を殺しながらまったりと過ごしていた。朝の日課になっている為に体は勝手に台所に向かい冷やしたコーヒーを取り出してコップに注ぎ飲み込む。


「はぁ」


おかげでサッパリと目が開き、その足で洗面所に向かい軽く髪の毛を洗った。もう何年も着ている軍服を身に纏い、水が滴る髪をタオルで乱暴に拭くとノックする音が聞こえた。

コンコン

そのままでいいや、と思いタオルをワイシャツの上、もっと言うと肩にかけて玄関を開けると自分より幾分か低い少女と目が合った。

高いところで髪を一つに纏めてある少女は首の動きと共にその髪を揺らした。


「朝から髪洗ってるの?女子ですか?」

「煩い、目が開かないんだよ」


少女_もと言いシトリンは不思議そうな顔をしながらディスると言う高等テクニックで俺を攻撃してくる。皮肉用語も喋れるようになった事を除けばシトリンはヴァルレオーネ語を殆どマスターしていた、教え方が良いのかシトリンが頭が良いのかそれともどちらともなのか…いや、あれだけ寝る間も惜しんで努力していたから当然の結果なのかもしれない。

しかし、ウィンが碌でもない皮肉用語を教えるから毎朝こうしてくるシトリンはいつの間にか暴言しか吐いてないことに頭を抱えた。


「可愛げないな」

「ブスに可愛さ求めないで」


正直、誰が自虐ネタ教えたのか問いただしたい。

はぁと肩を落としもう一度、シトリンをよく見るが後ろに何か封筒を隠している。それに気づき俺は偶然を装い聞くことにした。


「今日は何のようだ?」

「実は…もしかしたら受かりそうなの!!」


目を輝かせてシトリンは俺の前に封筒を見せつけ、胸を張る。年相応な反応に少し苦笑いをすると不満げな顔をして「なに?」と聞いてくる、俺は少し考え首裏を掻く。


「…よかったな」

すると、シトリンはもっと不満げな顔をする。

「なんか…もっと…こう無いの?」

「はっ?」

「もっと心の奥からこう…無いの?」

「…精一杯なんですけど…」


シルバーの分からず屋と吐き捨ててシトリンはそっぽを向く、俺、凄く不憫…。なんて思いながらその金色の髪の上に手を置き撫でる、本当に俺よりユキノとかに褒めて貰えよと思いながら溜息を吐いた。


「お疲れさん」

「うん!」


シトリンはさっきの表情や行動が嘘のように、満面の笑みを見せる。そう言えば学校に通うラルとは最近会っていないと思いながらも家から出たくない意思が垣間見ている時間に取り敢えずシトリンが受かった時に会いに行くかと結論づける。

シトリンも5回も他のギルド落ちたのにこいつ凄いなぁと思いながら何処か他人事のように脳は整理していく。


それからも勝手に人の家に上がり、茶を飲んだシトリンは合格発表の為にすぐに出て行きつかの間の休息が再び戻ってきたことで再び眠気が俺を襲う。体の怠さに負け、ふらふらとベットに向かいそのまま倒れるようにして布団に入ると高い所から落ちた衝撃で少し腹が痛くなる。

俺はそのまま睡魔に身を任せ起きることを諦めた。



ドンドンドン!!!


一気に眠気が覚め、目を揉みながら俺を起こした激しいドアをノック…するよりも叩いているように聞こえるそれに目を向ける。窓から差す光はオレンジ色になっており随分と寝たことを自覚させられる。のっそりと起き上がりドアを開くと軍で支給されるズボンとワイシャツを身に纏い焦ったような、心配したような顔つきでで指輪をいじるウィンがいた。

俺に気付くとすぐさま身を乗り出すように少し開けたドアをガバッと勢いよくこじ開ける。


「おい!シトリン見なかったか!?」

「はっ?俺が二度寝する前は見たぞ?」

「いつ、二度寝した」

「朝」

「論外」


妙に焦るウィンに疑念が湧き、小首を傾げて尋ねた。


「どうした?」

「シトリンが居ないんだ!!」


俺はその事実にもう一度溜息を吐き、軍靴を履いて家から出ることを決意した。





夕暮れ時の公園の近く子供達の笑い声や叫び声が聞こえなくなる時刻、通りすぎる車の音以外殆ど聞こえない公園でベンチに座る金色が見えた。近づく足音が聞こえたのか少しこちらを向いた青色の目がすぐにそらされ肩をすくめている、髪で顔を覆っているようにも見えるシトリンの隣に座ると、自分を卑下するような笑い声が聞こえた。


「…」

「…」


服の皺を撫でつけるシトリンの行動を横目で見ながら、ただ隣に座った。見た目にも分かるほど筋肉が強ばり服のほつれで遊び始め下を向くシトリンになんと言っていいのか分からないが、これは確実に言える落ちてしまった事実は聞かなくとも明白だ。


「帰るか…」

「……むり」

「むり…か」

「…会わせる顔が無い」


膝や足をぎゅっと抱え慣れないスーツを着たシトリンはもっと下を向いた。


「風邪引くぞ」

「別に良い」

「…」

「…」

沈黙。


ここに居続けられても、心配でどうしようもないので取り敢えずシトリンの前に手を差し出してベンチから立たせようとする。


「帰るぞ」 

「やだ」

「…ユキノ達に会いたくないんだろ?」

「……今はむり」

「俺の家狭いが来るか?」

「良いの?」


俺は少し顔を上げたシトリンを見て、強引にその手を取り少し早めに歩いた。少し驚いたように目を見開いたがシトリンはすぐに慣れたように歩くスピードについてくる。俺はただ斜め上の方向を見て溜息を吐いた。

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