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天涯記  作者: 浅黄 東子
第1章 術士と自由の革命
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術士と自由の決断

「だぁぁ!!いちいちかんに触る言い方だな!」

「少し黙れ」


もう、あたりが暗くを通り越して真っ暗になっている深夜に、科学的魔法第三基礎〈(フラッシュ)〉を使い、行きに足跡をつけた地面を頼りに無人の村を目指した。本当に頭にきているのか、月明かりの光を集め発動している〈(フラッシュ)〉は、若干炎がメラメラと空気を燃す音が聞こえる、基本暖かな黄色のはずなのにウィンの得意とする科学的魔法応用、空気中の有機物同士をぶつけると出る、透明感のある炎が何故か〈(フラッシュ)〉に纏われている。


「ウィン、そろそろ森林が発火する」

「おっと失礼」


空中に浮く〈(フラッシュ)〉はメラメラとした物が消え、元の輝きに戻る。あの王女の無理難題に答えてしまったからなのか、ウィンの顔は不愉快そうに歪んでいる。


長い距離を歩いてる中、終始無言だった。


何時間か歩き続けると、やっと村に近づいたのか、ごく小さな明かりが見えた。しかしそれは月明かりの反射だったのか一瞬、点滅し消える。


まだ歩き続けるのか、と肩を大袈裟に落とすと、今度は目の前が青白い光に包まれたと同時に文字のような光、いや、どう考えても魔印だ。近づく青白い光だったと思った球体はどう見ても、攻撃型科学的魔法雷撃第十五式〈雷臼(ライロ)〉だ、仕組みとしては物体を構成している元素の一番外側の軌道を通っている電子に影響を与えて起こす静電気の大型版だ、当たればひとたまりも無い、心肺停止じゃすまないかも知れない。


俺とウィンは、瞬時に相殺するための攻撃型科学的魔法を展開しようとした。もしこの技が木などにぶつかったら、それこそ森林が発火する最悪の事態を考えたからだ。


しかし〈雷臼(ライロ)〉は不発だったのか纏っていた雷は消え失せ、空気砲のようになる。流石に害を持たないと判断し横に避けると風に吹かれ自身の銀色の髪が舞う。


打たれた方向から見えたのは、科学的魔法を撃つための補助武器の銃を両手で持ち、口をぽかんと開ける少女とその隣で同様に、口をぽかんと開けるユキノの姿だった。


「……補助武器、使えるのか?」 


目玉がこぼれそうなぐらい目を見開くウィンは、急に正常に動き始め少女達に近づく。


「おい怪我はないか?と言うかこの子は科学的魔法の才能があるのか?もしそうならばヴァルレオーネで保護した方が良いだろう」

「補助武器があれば使える事がわかったのよ、貴方凄いね」


少女の頭を撫でるユキノに対して、はやとちりのしすぎか、少女の肩を持ち若干早口で喋るウィン、科学的魔法が使えるのは人口の1%だけだ、それを悪用する者も少なからず居る、他国で見つけた場合本人の同意の下ならば、ヴァルレオーネで保護することが出来る制度がある。 


俺は良いことを思いつき取り敢えずウィンの頭を叩き、ユキノと少女に視線を一瞬向け戻した。


「ウィン取り敢えず落ち着け、彼女は他国の者だ、しかも奴隷という身分、つまりどう言う事かわかるだろう?」


叩かれた頭部を抑えるウィンを見ながら、言う俺の顔は自分でも分かるほど、にやけている。話を理解できない少女とユキノは、ただ頭をかしげていた。


一旦家の中に戻りランタンをつけ、床に座る。少女の顔を見るとスッキリとした表情に見えるため、ユキノと話をして割り切れたのだろう。前回とは打って変わり、落ち着いた雰囲気と顎を高く上げ、首元をあらわにする、きちんとした動作で俺達の瞳を見る姿は、決意に満ちあふれていた。


「一応自己紹介しておくか、俺はヴァルレオーネ帝国出身シルバー・オーラだウィンとは不愉快だが、幼なじみのような物だ不愉快だが」

「おいこら、俺はウィン・ルアームちなみにユキノと結婚してる」


よろしくと言葉を添えて俺達は微笑む、ユキノは先に自己紹介し終えたのか、ソワソワした目つきで心配そうに少女を見つめている。少女は素早く瞬きをしたと思えば、目を閉じてゆっくりと呼吸する。


「私は奴隷No.1049です。モリージェリー王国で主に死体処理と死刑執行人をしています。」


少女は猫背になり頭を垂れる。ウィンと俺は放心した表情になると同時にめまいがした。


「すまない、歳を聞いて良いか?」

「多分14です」


俺は肩を落としてうなだれる。重い重すぎる、何がって歳と仕事内容の見合ってなさが、心に大打撃をくらわせる。まるで攻撃型科学的魔法爆撃〈爆震核(カルド)〉をくらい体の部位が引き裂かれたかのように感じた。それはそうだ、初対面には言いにくいわけだわ、自己分析をし、勝手に理解する。だが聞かなければならない物は、必ずあるもので重々しい口を開き言葉にする。


「どうしてあそこにいたか教えてくれるか?」


なるべく優しく問いかける、それでも少女の瞳からは決意は消えない、きっと自分なりに良い答えが見つかったのだろう。少女は息を整えて、しっかりと俺達を見据えた。


「私の国では奴隷が騎士団に勝てば人として自由に生きることを許される、年に一度の【自由の革命】と言うイベントがあります。そのイベントのために、一ヶ月間奴隷に仮初めの自由が与えられ、その間、騎士団に勝つためにチームを組む者やギルドに頼む人達がいます、ですが私は自由に駆られ狂う奴隷達が怖くなりました。」 

「逃げたのか?」

俺の口から少女を試す言葉を吐き捨てた。

「はい」


苦い顔をする少女が気弱げに呟く、だめか…自分の意志がこの少女にはまだ無いのか…と残念に思いそうになったとき、少女の金色の瞳の奥に静かな憤怒が見えた、まるで逃げた自分を責めるように。


「だけど私はもう逃げないって決めた」


敬語のとれた言葉はどこか彼女らしさが見えた、少女が真剣な声で続ける。


「だから、自分勝手なことは分かってる、貴方達が他国の人てこともユキノから聞いた、貴方達も忙しいって知ってる…知ってる上でお願いします。私に戦うすべを教えてください」


少女が頭を勢いよいよく前方に傾け深いお辞儀をする、ウィンと俺は、あまりにも予想外の方向に頼まれたので一瞬目を丸くした。一緒に戦ってくれ、と言う感じの話の流れで、まさかの戦うすべを教えてくれ、と頼まれるなんて思ってもみなかった。

「あはははは!!」

「え?」  

どうしてか、腹がよじれるほど笑える、そう来るとは思いもしなかった、期待を裏切られてとても面白い、愉快だ。


「まさか、そう来るとは思わなかった」

ウィンは褒めるように言った。

「流石ユキノが()()()()()()()を使わせてあげるほどの人物だ」

ユキノにばしっと叩かれ、真剣モードを入れ直す、もはや混乱を通り越して少女は固まっていた、ハッと正常に戻り首を傾ける。

「…えっと、教えてくれるの?」

少女は訝しげに聞く。

「あぁよろこんで」

そう明るく紡げば、少女の顔は花のようにほころびユキノに喜びを伝えるように飛びついた。


ウィンが何かを思い出したように、指を二つたてユキノに見せる、ユキノはただ疑うような目線をウィンと俺に向けた。


「それで?任務はどうなったの?」

「悪い話と、いい話、どっちからにする?」

ウィンの言葉に、ユキノは訝しげに応える。

「…いい話」

「その場合、上げて落とす感じになるんだが」

「良いから話なさい」


回りくどい言葉を言い過ぎたと、ウィンは諦めたように首を振る。


「じゃあいい話な?多分、任務は成功すると思う、と言うか希望が見えた」

ユキノの後ろに立つ少女は、多分と聞くとユキノとそろって頭をかしげる。俺は重々しい口を開く。


「悪い方…まぁそれはつまりだ…即座に任務解決にはならなそうだ…王宮側が提示した条件なんだが…つまり少女の参加する大会に俺達が勝てば同盟してやっても良いだろう的なやつだ」


ユキノの表情は、絶望と不満のコラボレーションで、苦渋の表情を浮かべたユキノを見ると、とても申し訳ないと罪悪感で押し潰れそうだ。


「一カ月、ずっと待てって事?任務の期限は四週間の間、今何週間たったか覚えてる?行きに三日、到着して四日…ちょうど一週間終わってるのよ?」


ユキノの淡々とした、いつもとは違う平坦な声が響く、女は怖い、何が怖いって正論で論破してくるから反論できない。


「帰る時間を入れれば…わかるでしょ?私達に残された時間は実質二週間」

頭を抱えるユキノの瞳は、一瞬にしてかげる。

「あぁダメダメ、自分の思い通りにいかないと、子供みたいに貴方達にあたってしまう、本当にごめんなさい」


小さな小さなユキノの声に、ウィンは過剰に反応する、元はと言えば俺達がチームリーダーの責任を押しつけてしまう形になったのだ、俺は返答できなかった。

少女の物不思議そうな視線が、こちらに向くのを感じる。


「まぁ落ち着こう、一カ月っていってもそれは期間の話だ、実質その一カ月が何日消化されてるかは俺達にはわからない。と言うか何日に開催とか教えて貰えなかったし…そうだ!お前知ってるか?」

自分に話しが振られたからなのか、律儀に隣に来て少女は頭を傾け指を折る。

「えっと…五日後(ごにちご)

「それを言うなら五日後(いつかご)な?てっ五日後!?」


俺の口からあり得ないほど大きな声が出る、あれだけ一カ月、一カ月言ってたくせに五日後だと?報連相がなってない国だ、と改めて感心する。ウィンの姿が俺と少女の間にいつの間にか、瞬間移動していて「お前マジ最高!」と期待を裏切られて大喜びしている。正直言って、少女の目がウィンを引くような色をしていたので、ざまぁと思ったのは心に仕舞っておこう。


「間に合うな!!ユキノ!」

ウィンはユキノに笑顔で言う、ユキノは安堵のため息をはき、綺麗な笑顔を見せ「良かった」と明るい声で言った。


「そう言えば少女、少女って言いにくいな」

「発音?」

「それは全部」


ウィンの言葉に、モリージェ語にある特有の舌を巻くような発音が詰まっている【少女】と言う単語は言語的にも感覚的にも難しいので言語の方だと思い聞いてみると少女の名前がない方だった。


名前をあげるにしても、ネーミングセンス皆無のウィンはやめといた方が良い、と思うが面白そうだから黙っておく。


「名前…つけて良いかな?」

ユキノの不安げな声に「いいの?」とこれまた予想の斜め上を行く返答が聞こえた瞬間、ウィンが大きな声で叫ぶように言う。


「フローラ!!」

「却下」

ユキノが一オクターブ低い声で、ぴしゃりとウィンを完全否定する。

めげずに口を開こうとするウィンを褒めてやりたい、お前は最高の馬鹿だよ。ユキノの返答は清々しいほど気持ちいいので、応援しとく、いけユキノ、お前の旦那にネーミングセンス皆無を思い知らせてやれ!

「クローラ!!」

「喋るな」

やはりユキノは一歩上だった。もはや喋るなとまできた。俺は腹がよじれるほど笑う、それを見てた少女も吹き出した。

いい加減怒りの沸点を超えたのだろう。

「私が決めるから、黙ってて!」

ユキノの声にウィンは言葉を失う。残念ながらユキノの剣幕に圧倒され、ウィンは心の底からシクシクと嘆いている。お前それ何回目だよ、とは言えない。


「そうね…幸運が導き、貴女が自分の決意で未来を決められるように…そう!貴女の名前はシトリン、世俗的な生活や喜び、自信を身につけられるように」


「良い名前だな」

少女…シトリンの背後で呟く。

自信を持つように、シトリンは柔やかに笑った。


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