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天涯記  作者: 浅黄 東子
第1章 術士と自由の革命
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必要

ラルは少しも元気が無い、けれどもしっかりと食べしっかりと寝ている姿から重い病気などではないことは明白だった。私はクレイグ = アヴァロン夫人に案内され2階の小部屋に入った、夫人は美味しいご飯と暖かい掛け布団を持ってきてくれ私は少し大きめのベットにラルを寝かす。


「神は私達人間に平等の愛を求めています、そして私のこの行為は当たり前であり気に病む必要はありません」


私は今までの境遇を思い出すが夫人の情けに心から感激し頭を下げようとした。


「頭を下げるのは良いことです、謝ることは決して悪いことではない、けれど今は留めなさい、前をしっかりと見なさい」


私は親切で聡明な夫人になんと言えば良いのか分からなかった、こんなに頼もしく優しい夫人に頭が上がらない。1163はとても良い主人に恵まれて本当に良かったと思った。


「貴方の言うことを信じてよかった」

「でしょ?信じてくれてありがとう1049」


私は旧友と抱き締めあい再開と出会い、そして幸福に感謝した。それから目まぐるしく時はすぎラルも元気が出て来たのか広々とする大きな家の中で夫人の娘ダルシー = アヴァロンと鬼ごっこをして遊んでいる。安息の1日とはこう言う事を言うのだろうかクレイグさんはこの間にも私をヴァルレオーネ帝国に行かせる為に非合法の船を探してくれている、1163は庭の手入れ私はと言うとクレイグさんの家にあった科学的魔法に関する本とクレイグさんがおすすめしてくれそして私にくれた小説を読み、読み書きの練習をしていた。


最初はその申し出を断ったが私はとことん恵まれているらしく、「若者は年上の言うことを聞いてれば良いのよ、貴方は勉学に勤しんで未来に向かいなさい、貴方の未来に繋がる橋は私達が作ってあげるから」とクレイグさんは言った。その言葉に甘え私は誰かの役に立つ為に必死に読み書きの練習に励むと決めた。


日が暮れ始めると何かしらの紙を持ったクレイグさんが部屋に入ってきて私にその紙を渡す。私は最初は困惑しその紙を何度も見て、開き文字が見えたことによってこれが手紙だとわかった。中には少し厚めの小さな紙が入っておりそこには「1049とその友」と書かれていた。開いた紙を読んでいくと次第に私はとても嬉しくクレイグさんに抱きついた。その手紙の内容とは簡単に言えばこう言う物だった。


親愛なる自由を求めるモリージェリー人へ


 私は貴方の話を少なからず耳にしたことがあります。貴方の勇気とその心に私はいたく感激し私はどうにか手助け出来ないかと考えていました。

 恥ずかしながら私の家は奴隷を所有する事で権力を見せるもの達が多いです、しかしこの私の思いは神に誓って真実とお答えします。


 私の信頼できる友は奴隷達を自由国へ逃がすための誇り高い仕事をしています。同封されているその切符はそれに乗るための物です、私を信じてくれるのであれば明日の夜に港に来て下さい。

 貴方が行きたい国へと無事到着出来るように祈っています。


レネー= プリチャードより


私はこれを何度も見返して驚き、しばらく視界がぼやけ手紙を抱き締めた。クレイグさんはそんな私を見て頭を優しく撫でてくれる、小さくなった希望が確実に大きくなっていく事に夢ではないかと思ってしまうほど私の心はどきどきとしていた。


「1049、この手紙も貴方を助けてきた人々も…勿論私も、貴方が努力したから手を貸したの」

「はい」

「貴方が諦めなかったから、ここまで来れたの」

「…はい」

「この手紙も今までの恩も全て、貴方の今までの努力の結果よ」

「ッ……はい」


こぼれ落ちる温かい雫を何度も必死に拭き取る、最近涙腺が弱くなりすぎている気もするが仕方の無いことだろう、私はこの国の事を一生忘れないだろう。それから私はまるで不眠症のように寝ることは出来なかった、静に寝息を立てるラルを見ながらカーテン越しにモリージェリー王国を見る。

 

この国では良いこともあったし悪いこともあった、どちらかと言えば悪いことの方が多くあったが今は、良いことしか思い出せない。これでいいのだと思う、良い思い出で終われば良いと思う。寝れないがベットの上でゴロゴロと反転したりしながらただ祈りを捧げた。


何かしらのイベントがあると時が速く進むと言う状況に覚えはないだろうか?私はまるっきりそれに当てはまりいつの間にかぼーっと呆ける事で時間が過ぎ去ってしまった。

ラルはダルシーと別れを惜しみ、2人でお互いの髪にヒナギキョウを挿しあう。クレイグさんは私にどの船に乗ればいいのかと言う紙を細かく書いてる、私は荷物を詰め込みながらまたぼーっと外を見た。


ラル達と一緒にご飯を食べ、約束の時間に間に合うように出ようとする。本当に自分の身におこると何もかも実感がなくなり途方にくれる、1163も仕事を終わらせて見送ってくれる、恩人への挨拶は忘れない、また会うと言う誓いも立てた。後はこの家を去り港へ向かうだけ、少しのお金と鞄を持ち、ラルの手を引いて外に出る、ダルシーは必死に手を振ってお互いの別れを悲しむ。


「ありがとうございました」

「頑張りなさい」

「元気でね」


暗闇の中に隠れて町を歩く、警官も多くバレないか心臓が煩い、切符を持つ手は震え頼り無くおもう、しかし足はしっかりと前へ向かった。自信を持ち顔を隠した布をしっかりと顎の下で握る。

すると警官が焦ったように何かに指を指している、私はそれを反射的に振り返り見てしまった。



焚火のような煙たい匂いが鼻につく助けを呼ぶ叫び声がガラスが割れる音がパチパチとブワッとする音がした、顔から表情が抜け落ち夜にしては明るすぎるこの光景をただ目に焼き付ける事しか出来なかった。信じたくない、信じれない…あの燃えているところがあの悲鳴達が1163、クレイグさん、ダルシーの物だと…火の手が上がる大きな家の前で妄信的に叫ぶ声が聞こえる″自由の旗は今この地に!!!!″握っていた手の平に力が入る、ラルは心配そうにこちらを見て何かを言おうとしてる。私はこの世で最低な事を決心した。




私はその家を見なかったことにして歩き出した。後ろが気になっているせいで歩くのが遅くなったラルは私を必死に引き留めようとする。


「まっ待て、お願いダルシーが!」

「ラル…」

「ダルシーが大変なの!!」

「ラル!!」


小さな肩がびくりと飛び跳ねる、悪いと分かっているが私はラルを抱えて全速力で走った。港に向かって足を進める、静になるラルに申し訳ない気持ちで一杯になった。しかしこうするしかないのだ、今まで色々な人に助けられここまでこれた、それを台無しにするのは違うと思った…………いや、もしかしたらこれは言い訳なのかもしれない、捕まりたく無いという身勝手な行動なのかもしれない。


それでも、こうする意外どうすれば良いのかなんて分からなかった。


火事の方に警官が集まった事によって港への侵入はとても楽だった、私は言われたとおりの場所へと向かい立っている男に切符を渡した。


「ヴァルレオーネ帝国に責任持ってお連れします、どうぞ」


私は残酷な人間なのだろう、恩人を見捨ててここまで来てしまった。だからこそ責めての償いでこの記憶は私の中から永劫消えない事を誓おう。



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