見捨てる者拾う者
あの町から逃げて三日がたち安息日は一切来なかった、ユキノ達と居たあの優しく穏やかな日々が時が過ぎるほど恋しくなった。強きで町へ出たものの減る一方の食料と気力に段々私達はやつれていった。
「港までまだなの?」
「ごめんね、ラル後もう少しよ」
声をひそめながらひたすらに歩いた、森の中を歩きうとうととしているラルを背負い一歩ずつ確実に進んだ。体は気持ちと反して弱っていたが私の思いは強まっていた。
私はラルをしっかり背負い直し、歩いた方向へ顔を向けた。私の大切で大事な…これから永遠と置き去りにしてしまう友を思い出す、きっと彼女なら奴隷制を廃止してくれるだろう、これは願望ではない根拠だってある。
私はそこから振りかえることもせず歩き続けるだろう、一種の決意であり決心である。後悔することももう辞めてしまおうただ生きるために明日を迎えるために。
港まで息を潜め向かったあとどうすれば良いか、私には到底理解できない昔の無知な私なら泳げば何とかなると思っているかも知れないが今はもう、それが愚策と理解している。今の状況は本当になるようにしかならないと言うあまりにも危険な橋だった。
それ以外道はないのだ。
布を目深に被り直し港に近い町を出来るだけ疑われないように歩く、もしかしてバレているのかもしれない、もしかして泳がされているのかも、今見られているかも知れない…色々なもしもが頭をよぎり私の体を震わす確証もない疑心暗鬼が私の敏感になった危険信号をけたたましく鳴らした。
それなりに人通りの多い道を歩き続ける、密閉された空気が鼻をくすぐる匂いに私は懐かしさと決意を胸に溢れ変えさせた。このままバレずにヴァルレオーネ帝国行きの船に乗れれば私の勝ちだ、そう思った瞬間、誰かと肩がぶつかり反射で「すみません」と声を出してしまった。
「いっ…いやこちらこそすみません」
少し高めの声、同じくらいの背丈がある少女が少しどもりながら私の方向を見て目を見開いた、その行動にバレたことを察して心も体も冷え切ってしまう、あぁどうすれば良いか…お願いだからラルだけでも見逃して…と弱音さえ垣間見る。
少女は私の手を握り締め薄暗い路地裏へと私を引っ張る、逃げ場所すらないここで科学的魔法を使えば警官にバレてしまう。終わった、そう思った。
「貴方、1049よね?私を覚えてる」
少女は見栄えの良いワンピースを翻しながら私を見据える、その行動と言動に驚き私は少し目を見張った。同じブロンドの髪に茶目の大きい瞳、何処か子供ぽさが残るその顔は忘れることも無い、ユキノ達と合う前、まだあの主人の元にいたとき同じ奴隷として苦しみ支え合った旧友の1163だった。
「もしかして1163?」
「あぁ覚えてくれたのね!!そうよ、あの時売られた1163よ」
そうだ、主人に秘密で飼っていた鼠にあろう事か主人の食事の席で出してしまい売り出されたあの1163だ、まるで貴族の子供のように見違える姿をした1163に安堵と安心が冷え切った心に生まれた。
「どうしたの?このワンピース」
「今の主人に貰ったの」
奴隷じゃなくなったのかと思ったが違うらしい、しかし奴隷にこんなにも良い物を着せてくれる主人などこの世に居たのかといたく感激した。
「今の主人はどうなの?」
「貴族だけどいい人よ、*プロスセン教徒の人で隣人にも愛を奴隷にも人権を…と私達に良くしてくれるの」
最後にあったあの日よりも血行も体調も良くなり、様変わりした旧友に私はとても嬉しく思った。これまで記しては無かったが貴族でも人情に溢れる優しい人も少なくない、その人情溢れる人に買って貰えたことに私は涙が溢れかえりそうになった。
「本当に1049は涙腺が弱いのね」
「何とでも言いなさい、本当に心配したんだから」
「……ありがとう」
1163は私の瞳から溢れる多くの雫を拭ってくれ私を抱き締めてくれた。
「そうよ、1049貴方どうしてこんな所にいるの?」
「自由の革命で手助けしてくれた人達がヴァルレオーネ帝国に来いと言ってくれたからそこに逃げようかと」
「まぁ!貴方知らないの!?」
「え?」
「貴方の自由への姿勢を見て逃亡する奴隷が増えたの」
私はあまりにも考えたこともない展開に呆けるしか出来なかった、1163は私の耳の近くでささやくように事実を語る。
「今、船は危険よ…入るのに身分証明書が必要だし、この町に来て不思議に思わなかった?異常なほどの警官の数に」
思い当たる節は沢山あった、異常なほどの視線や探るような目など今ここで旧友に合えたことがどれ程救われたか、精神的にも今後の未来のためにも彼女の助言なしではきっと本当の終わりが来ていただろう。
「私の主人に言えばきっと手を貸してくれるわ」
「でも…」
「お願い、私を信じて1049その後ろにいるその子の為にも…」
私はどれだけ周りに恵まれているのだろう、こんなにも私のためにしてくれる友がただの奴隷である私には勿体ないほど居る、感激のあまり涙がボロボロと溢れみっともない程に涙で顔はぐしゃぐしゃだった。それから私は1163の主人に会うべく2人で裏道を駆使して向かった、1163が扉を叩くと少し大きな足音が聞こえ扉は力強く開けられた。
「主人、どうか私の友人を匿って貰えませんですか!」
私と友は出て来た人に頭を下げた、困惑した声と「取りあえず上がりなさい」と言う声が聞こえた、頭を上げて顔を見れば40~50くらいの中肉中背の女性がそこに立っていた、落ち着いた深緑のドレスのようなワンピースのような服を着た優しそうな顔立ちの夫人が手を差し伸べてくれる。
顔も身長も違うのにまるでユキノの様に見えこらえていた涙がまた溢れかえった。
*プロスセン[キリスト教のような物]




