利害関係
白鳥のように白色の壁を見ながら私はただボーっとしていた。ラルはこの大きな家の中を探検したい好奇心もあり数分前にリヴィアさんに訪ねに行っている、私は数分間どう行動すればいいか悩んでいると満足げな表情をしているラルを迎え私の隣に座るように優しく手招きした。
「あげる」
ラルは隣に座ると私の左側の頭部、もっと詳しく言えば私の金色の髪に自身の持っていた小花達の花束の中から小さな白色の可愛らしい花を私に挿してくれる、それに満足げな表情を浮かべ、ラルは私に見えるように一度翻り自身の左側の髪を見せてくれた。
「お揃い」
ラルの髪に挿さっているのは淡い青色の花だった。その行動一つ一つがとても愛らしく思えてくすっと笑う。照れているのか少し頬を赤く染めながら私に一度抱きつく、その際少しボロボロなワンピースを見て私は王宮近くにあった小さな仕立屋を思い出した、この国にもあるのだからヴァルレオーネ帝国にもあるだろうと私は思い小さな声でラルの耳に告げる。
「ヴァルレオーネ帝国に行ったら貴方の洋服を買いましょうね」
「本当?本当に本当?」
ラルの顔に笑顔が可愛らしく咲き誇る、その一つ一つの行動などがとても可愛く私はラルの何度も聞き返してくる言葉に何度も答えてあげれば満足したのかそれとも探検したい好奇心が出て来たのか、舞い上がりながら「少し待ってて」と言ってこの部屋を出て行く。
すると思ってもない来客が来た、入れ違えにあの男が部屋に入ってきたのだ一体全体何が起きたのかと思うくらい肩で息している男をみて私は首を傾げる。
「本当か?」
「え?」
「お前、ヴァルレオーネ帝国に行くのか?」
男は真剣な眼差しで私を見てくる、その瞳に一瞬ひるむが私は深く頷いた。
「うん」
「いや、薄々気付いてたが…やっぱり」
男は朝のような冷たく見下したような瞳ではなく変わってて希望に満ちた瞳で私を映す。
「君、シトリンと言ったか?」
「え?あっはい」
男は自分の思っていたような冷淡で冷血な心の無い人ではないらしい、表情をころころと変えてまるで絶望の中に見つけた一つの希望を見たような瞳で私を見つめている。
「君に手伝って欲しい事があるんだ」
「手伝い?」
「そう、もしこれを受けてくれるなら君に何でもしてあげよう」
そんなにお手伝いの内容は難しいのか男は真剣な眼差しで私に頭を下げる、あまりにも初対面の印象と違っているので少し怖くなるがきっとこの男が真剣に悩んでいるのは本当なのだろう。余談だが私は人に物を頼まれると断りづらい性分なのだ…まるで主人を無くした子犬を見ているような気分になるが…いやこの際蛇か?罪悪感と良心にダイレクトにダメージを負う。
「内容しだいでは」
「…悪いが手伝ってくれると言ってくれなければ内容は言えない」
「…え?」
「誰にも言ってはいけない…極秘内容だ」
それはユキノにも言ってはならないのだろうか、しかし極秘という単語はあまりにも誘惑される言葉だ、まるで大人になったような感覚さえ感じる。
「わかった、私に出来るなら」
「何、無理しなくて良いただ、探ってくれれば良いから」
私はその言葉に頷く。
「お前がヴァルレオーネ帝国に行ったら探って欲しい物があるんだ…簡単に言うと【迷彩の鴉】探しだ」
「【迷彩の鴉】?」
なんか強そうな名前だな、なんて赤子のような考えさえ抱くが私は忘れないように必死に脳に記憶を焼き付ける。
「あぁそれでもしも″彼″にあったらこのボタンを押してくれ」
私は小さなネックレスを男から受け取った、きらきらとしているその後ろには小さな凸凹した部分がある。
「……これが貴方の仕事なの?」
「…そうとも言うしそうとも言わない」
「そんなの分からないわ」
私は男をじっと見つめるが肩をすくめて男は答えられないと言った。私はそれ程物覚えが悪いわけではない、こう言う場合の男性は特に言わないと言ったらテコでも言わない、何処で学んだかと言えば殆どシルバーの癖だが…。
「対価は何が欲しい?」
「……」
男のその言葉に私は息を詰めた、悩むが今これと言って欲しい物がないし今持ってたら手荷物になる私はネックレスを弄り回しながら頭を抱えるがこう言う場合大抵思いつかない物だ。
「………」
「どうする?」
「……ほ、保留で」
「溜めた意味っ」
男は額に自分の右手を当ててガクッと肩を落とす、しかたないそんなの急に言われてもと言いたいがまぁ面倒くさくなりそうだから口は閉めとこう。
「…わかった、もし願う物が決まったらこのネックレスを長押ししてネックレスに向かって喋ってくれ」
「えっそんな事出来るの?」
「唐頂国は文明がやばいほど発展してるからな…まっ見つけたら簡単にポチッと押せ良いな?」
私はそれに頷いてネックレスを自分の首にかける、だが私の心に突っかかる物が残っており少し迷惑だがこれだけは聞こうと男に申し訳なさそうに聞いた。
「【迷彩の鴉】って貴方にとって何?」
男は一瞬考えたような仕草をとり困ったような顔をして言った。
「相棒であり友人だ」
友達いたんだ。
その後男が出てった後、小さな背中に何かを隠しているラルが帰ってきた。本当にどうしてこの2人はいつも入れ違いが多いなと思いながら笑顔でラルを迎える。
ラルはすれ違えに男を見たのか少し顔をしかめながらこちらに来て訪ねる。
「何を話してたの?」
「内緒よ」
小さく自分の唇の前で人差し指を立てるが不服そうなラルは懸命に「教えて」とねだる、正直言って教えたいし言いたい、人から内緒など言われると話したくなるのは人間としてしょうが無い気がした。
「そうだ、何か見つけたの?」
「内緒」
今度はラルが意地を張って背中にある物を見せようとしなかった、私はその事にたいして何度か瞬きをし少し可笑しくなって笑った。その行為があまりにもラルにとってふさわしく無かったのか、小さな頬を膨らませて私を一度叩く。
「ちょっごめんって」
「もう知らない」
「何々?何を見つけてきたの?」
「ふん、もう教えないもん」
その足のまま帰ろうとするラルを引き留めて背中を見ようとするがいくせんコテでも見せようとしない。
「ラル?」
「べーだ」
小さなピンク色の舌をちろっと出して拒絶するラルにまた可笑しくなって笑ってしまう、私を見たラルは瞬きを何回かしてまた頬を大きく膨らませた。
「私達は存外似ているわね」
「??」
コロコロと変わる表情に初めてユキノ達とあった頃を思い出し懐かしさのあまり瞳に涙が溜まる感覚が押し寄せてくる。
「ヴァルレオーネ帝国には優しい人が居るの」
「優しい人?」
「そう、美味しいご飯だってきっとあるわ」
「……好きなの?そこ」
「うーん、なんて言えば良いのかなぁ…そこが好きって言うよりもそこに居る人達が好きなのよ?」
「…やっぱりわからないわ」
ラルは頭を横に振って分からないと言いながら私の隣に三角座りをする、その隣に私は落ち着きさらさらとした金色の髪を撫でてあげた。しばらくして窓の外から子供の声と何故か分からないが視線を感じた。心臓がドクドクと煩い感覚に酔いそうになりながらも私は窓の外…否カーテンの隙間を見た、するとそこには青色の瞳を持つ少し古ぼけた浅葱色の服を着た少女がいた。
視線が合うすると女の子は口を大きく開けて叫ぶように言った。
「女の子がいる、あの女の子がいる!!きっと違わないわ!あの子は奴隷の子よ!!皆!この町に賞金を課せられた女の子がいるわ!!!」
私は短く何度か呼吸を繰り返し、平静を保とうとした、しかし平静どころか私の体はまるで生まれたての子鹿のようにぶるぶると震えていた。




