ボランティア
寝れない夜を静に過ごし当然のごとく朝が来た。
夜がとても長く感じあの小汚い土の匂いと温かな体温優しい眼差しがとても酷く懐かしく思える気がしてきた、優しく起こしてくれる声も背中を押してくれる言葉も笑いながら失敗を許してくれる人も今はもう近くに居ない。
まだ見ぬヴァルレオーネ帝国に多くの希望と不安が垣間見る。
結局の所夜何をしていたかだが、ユキノに向け手紙を書いていた、しかし夜に出歩くのもあれだし外に出たら危険だし、ポストの場所分からないし…と言うことでよく外に出歩いてる男に明日、聞こうと思う。
そう言えば散々聞こうと思ってて男の名前を聞くのを忘れていた事も付け足そう。
下に降りれば温かなスープを作るリヴィアさんにラルと挨拶をする、皿同士の擦れ合うカチャカチャと言う音と机に置かれる時のコツンと言う音が嫌に静かな空間に響いた、スプーンとフォークを持ってくる手伝いをしていたラルの頭を優しく撫で綻ぶような笑顔を見せるラルの頬にキスを落とす。
各自席に付くと遅れて今まで何処かに行っていた男が席に座った。
「アギーは?」
「要らないと言ってました」
リヴィアさんが男に聞けば男は何とも思っていないようにすらっと言ってのけた、心配ではないのかと思うが個人差という物は何処に行っても存在する。私の価値観を押しつける訳にもいかないので押し黙った。
「貴方はどう思ってるの?」
「何がですが?」
「そんなの一つしかないじゃない、アギーの事よ」
静にリヴィアさんは男に聞く、男はスープを飲みながらこちらに視線を向けるわけでもなく淡々と機械的に喋る。
「アギーですか?」
「そう、あの子がぴりぴりしてるのはきっとあの子の背中に乗りきれない重荷を背負ってるから…貴方はそれを理解してあの子に革命の話しをしたの?」
沈黙。男はどうしようも無いような困り果てた顔をするがその口角は上がっている、隠しきれないいや、隠してもいないが冷たい瞳でリヴィアを見た。
「残念ながら彼女が先にやりたいと言いだしたんだよ」
「何ですって?」
「『私はこの国を変えたい』って言ったのは彼女だ、そしてたまたまそれが俺の目的に大切な段階だっただけ…1時の利害関係だ」
「それで彼女が潰れても良いっていうの?」
男は困ったような顔をして肩をすくめる。
「じゃあどうしろと?」
「私は政治は分からないけど…政治を理解している貴方なら寄り添うくらい出来るでしょ!?」
「…」
沈黙。
「助け合い、彼女を導き…教え論ずる事くらい出来るでしょ?」
リヴィアさんの縋るような望むような声に男は小首を傾げあろう事か鼻で嗤った、男は首裏を掻きその瞳から光を消す。
「それに何の価値がある?」
「え?」
「俺に利益はあるか?」
「利益って…」
「無いだろ?それをしたって価値や利益がないのにどうしてやれという、そんな無駄な労力を何故使おうとする?」
「それは…あの子のために」
「そこから違う、今彼女を助けたって俺に利益も価値も何も得ないだろう?」
男はスープを飲み終え、静にあくまでも正すような口調で嘲笑う。
「ボランティア活動を自身からしてるのに潰れるのは彼女の問題だ」
「…ボランティア活動ですって?」
「そう、ボランティア活動…何が違う?唯々善意を振りまいてる行いを見てボランティア活動以外なんと言う?」
「一つの国の未来がかかってるのよっ」
「興味ないね」
リヴィアさんはドンっと机を叩き男を睨みつける、それでもひるむことなく男はコーヒーを飲み干し軽く「ごちそうさま」と言い席を立ち上がった。
「人の人生を国をなんだと思ってるの!!」
「自分の人生を生きるのに手一杯だからな…悪いな」
そう言って男は悪びれもなく去って行く、私は2人の会話について行けずどうすれば良いかとずっと考えていた。
男の言ってることは正直言って的を得ていると思うこんなこと口が裂けても言えないが男の言う通り自分の人生で生きる事で手一杯だ。
「シトリンごめんね、大人げなくって…そうだ!これをアギーの部屋に持って行ってあげて」
「でも、私…」
「大丈夫、きっとアギーも正気に戻ってるわ」
リヴィアさんはお盆にのせられた朝ご飯を私に渡す、私はあの後の後味の悪さにどう言う顔をして会いに行けば良いのかわからなかった。
渋々とお盆を受け取り今まで黙っていたラルになるべく怖がらせないように優しく微笑む。
「ラル、リヴィアさんのお手伝いお願いして良いかしら?」
「うん」
ラルは椅子から飛び降り、すぐにリヴィアさんの所に向かう。聞き分けの良いラルに何とも言えない複雑な気持ちが喉まで上がってきたが飲み込んだ。
階段を上がり右から三番目の扉を軽くノックした、中からは何も聞こえない…しかも居ないんではないかと思ってしまうほど生活音はたたれていた。
「…アギー…私よシトリンよ…昨日は貴方の気持ちを考えずに自分勝手に意見を述べてしまってごめんなさい………」
返事はない。
「……アギーここに今日の朝ご飯を置いとくから食べてね……本当に…ごめんなさい…」
私は沈黙の重さに耐えきれず扉の横にお盆を置きリヴィアさんとラルの所に逃げるように階段を降りようとした、しかし階段にさしかかったときギィッと言う音に反射でアギーの部屋を見た。
目の下に一杯の隈を持ち、少し疲れているような姿のアギーに言葉を失うことになり、私は呆然と立ち尽くした。
アギーは少し虚ろな瞳をこちらに向け溜息を吐き出した。
「貴方なら分かってくれると思ってた」
そう言ってアギーはお盆を持っていない手で強くドアノブを握り締め強く扉を閉めた。
バンッ!!
扉の大きな音が静かな空間に響き、私の心には大きく鋭利なナイフが突き刺さって居るのか酷く痛く、重かった。




