重荷
少女と共に夫人の友人の家につき、泣いて腫れた目を優しく冷やしてあげる。そうすると少女は私の首に手を回し抱きついてきた、その一つ一つの行動が愛らしく私の疲れ擦り切れた心に一時の安寧をもたらす。
「名前ある?」
優しく聞いてみると涙を溜めた瞳から溢れんばかりの雫を零し私にもう一度抱きつく、その様子を見ていたアギーも静に私達を見守り写真と記録をつける、悲しそうに横に頭を振り私の肩に頭を埋め込むと嗚咽音が漏れる。
私もそうだったように名前さえ無い奴隷も少なくない、だからこそ名前をつけてあげようと私は必死になって考える。
「私が名前をつけて良い?」
縦に頭を振りその様子を見てからもう一度悩む、何処か頭の中で「フローラかクローラにしろっ」と言うウィンの残像が出て来る…だめだ、ウィンに浸透されすぎだそのネーミングセンスは絶対ない、助けてユキノ…。
頭の中でユキノに助けを求めるがやはり自分で決めなければならない事なのでうんうんとうねりながら案を出していく。
クォーツだめだ男の子だこれ、なんか良い可愛い名前…そうだ、私が宝石の名前をつけて貰ったから宝石の名前をつけよう。
えっと、ダイヤモンド、ラピスラズリー、エメラルド…エメラルド?そうだ。
「…ラル」
「?」
「ラルって名前はどう?」
少女は少し悩んでから頷く、何度も何度も繰り返し「ラル」と呟く少女を見て共感の気持ちが芽生える。あの日あの時ユキノに名前を貰ったとき言葉にならないほどの喜びが胸に広がったのを昨日のように思い出す。
「シトリン、革命の話しをしたいからちょっと来て貰って良い?」
私はラルの頭を優しく撫でて立ち上がり夫人の友人…リヴィア=ドジソンにラルを預けるために頭を下げる。
しかし心優しき夫人は下げた私の頭を見て慌てて「貴方はモリージェリー人なんだから頭を上げなさい」と言ってくれた。
しかしラルは私の予想とは裏腹に私のワンピースの袖を一向に離してはくれなかった。
私はしゃがみ込みラルと目線を合わせた、きっと4.5歳くらいなのか、涙をこらえるようにして瞳に留める姿に罪悪感がわく、しかし我が儘ばかり言ってられない。
「ラル、貴方が良い子にしていれば私も早く帰って来れるからね?貴方は良い子でしょ?」
「良い子にしてるから、ひぐっ帰ってきてね」
今度は私の腕に頭を埋めぐりぐりとする、奴隷の子供として産まれてくる子達は、周りの厳しい環境ゆえか歳に合わないほど聡明で優しいことに少しの寂しさが私に残る。
私は席を立ちアギーの元に向かいアギーの正面の椅子に座った、アギーは紅茶を飲み私を見ながらいくつもの新聞を広げている。
「これが何かわかる?」
「…大なり小なり最近のニュースかな?」
「そう、これは反奴隷制と増税反対を呼びかける一部の人が起こした立派な革命運動よ」
奴隷解放事件や奴隷主無差別殺人事件、農民の逃亡事件や行方不明者、貴族の家への強盗など…。
私はありとあらゆるこの極悪非道な事件に目を瞑りたい気持ちが出て来た。
「本当の革命は近いわ」
「…アギー…本当にこれは良いことなの?何人もの人が死んでいるのに…これじゃまるで」
「まるでなに?私達が犯罪者とでも言いたいの?」
見通された回答に肩が数ミリ跳ね上がり冷や汗が背中を伝った、気まずくアギーの顔を見るが一切の表情が抜け落ち初めて会ったときのアギーとは別人ではないかと思ってしまうほど冷酷で残虐的だった。
「何を怯えているのシトリン?これは貴方達が今までされてきたことの復讐よ?」
「これは違うわ、こんなの彼奴らと何ら変わりもしない」
「何を言ってるの?怖じ気付いたわけ?」
「そうじゃない!!もしかしたら無関係の人も居たかもしれないのに…どうしてこんな非人道的な事が許されるの!?」
バンッ!!
アギーが机を思いっきり叩く音が響く、冷え切った瞳に何故か底知れない恐怖が煽られる、一体全体アギーはどうしてしまったのだろうか…、何が彼女を変えてしまったのか。
そんなの一つしかなかった、権力だ。
彼女はここ最近合法的な権力を多いに手にし、人望と信頼を置かれている、耐えきれなくなったのだろう壊れてしまったのだろう。
「アギー、私は貴方にただ選挙で勝って欲しいだけなのそれが人道的な解決法だと私は思って…」
「人道的な?何を言ってるの?例え人道的な方法でこの国を変えられても国民達の恨みや憎しみは解決しない、それこそ刺し違えても貴族達を殺さない限り国民達は収まらないのよ!!」
彼女の悩みが怒鳴り声として吐き出され、一つ扉の向こうではラルの泣き声が聞こえる。
新聞を握り締めたままアギーは憎悪を滲み出すかのように見えない何かに怯え睨みつける。
「あ…アギー」
「シトリン、今日はもう良いわよ」
「でも、アギ…」
「出て行って!!!」
怒鳴り声にビクッと驚きアギーが扉の方向を指差すので反射で出て行く、扉を閉めると中から嗚咽音が聞こえる。
私は唇を噛み締めて必死にこらえた。出て来た音が聞こえたのか廊下の先から涙を流したのか少し赤い目が見え耐えきれなくなった。
「ごめんねラル、ちょっとこうさせて」
「?うん」
私はラルを抱き締め静に涙を流した、ラルはそれに気付いてか気付いてないのか優しく頭を撫でてくれる。あぁだめだ私が励まされてしまってる、そう思うのに涙は止まらない。
どうしてこうなってしまったのだろう、深くそう思った、どうしてこんな重荷を背負わせてしまったのだろう。
借りた部屋に行き、ベットにラルと一緒に飛び込むその後、リヴィアさんに呼ばれご飯の時間になったがアギーは姿を見せなかった。




