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天涯記  作者: 浅黄 東子
第1章 術士と自由の革命
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思想家の思考

まだ太陽が昇る前、肌に冷たい風が吹きつける。顔を隠すために被った布のせいで違和感とくすぐったさが私の心の中にある不安と恐怖心を煽る。

ゆっくりだがたしかに待ち合わせの場所へと私の足は進んでいく、セシリーと別れた時の彼女の不安と心配の色を漂わせた瞳がやけに頭の中に残っている、そのことに私はやはり彼女を巻き込んでしまった事を後悔しそして彼女の優しさに心の奥底で感謝した。


薄暗い路地裏を曲がり人通りの多い車道に向かうことに一握りの不安と歓喜が混ぜ合わさる、被った布を目元まで引き下げ少し早めに歩きながら深呼吸をする。

大通りが見え、アギーが止めた車の前で立ち止まっているのが見え私は走るために心の準備を始める。

彼女もこちらに気付いたのか車の後部座席の扉を開き運転席の隣に滑り込む。あの後部座席に滑り込めば後は町外れにあるアギーの信頼出来る友人の家に行くことが出来る強く胸元を握り締め、息切れのように耐え耐えな呼吸を無理矢理整える。


走り込もうとしたその時、私の心臓は一瞬止まった。


「すみません、ここの近くに住む人ですか?」

ばっと振り向けば警官の服を着た男が声をかけていた、私は唾を飲み込み目を見開いた。

「いっいえ、友人との待ち合わせ場所へ行こうと…」

「こんな裏路地へ?」

「はっはい、近道をしようと」


声が裏返っていないか分からない、自分が呼吸出来てるかわからない、それでも必死に話を終わらそうと言葉を紡ぐ。


「ここ最近、逃亡奴隷が多いから顔を見せて貰っても?」

その言葉に私は肩を跳ねさせ居もしない神に祈りを捧げた、神よ、もし貴女が居るのならば私をこの人から逃がしてくれ…っと。

私は車と警官を交互に見てお腹の底から目一杯叫んだ。


「きゃー!!誰か助けて!!!!」


私はそう叫び男の手を払って車に向かって走った、「待て!!」と言う声は聞こえない妙に煩い心臓にイラ立ちさえ感じる。

懸命に手を振り足を動かした、しかし


布のとれた私は長い髪を掴まれてしまった。


届かない、あと一歩届かないのだアギーの驚きに見開かれた瞳に涙を浮かべる私が写った。

嫌だ、誰か。


「うぇ!?ちょっ!!」


力の抜けた声と共に私の髪を警官が離す、突然のことにバランスを崩してしまい、そのまま地面に倒れ込んだ。

そこには何かに足を引っかけ倒れたであろう男性とその調子で男性に押され後頭部を強打し倒れた警官がいた…いや、訂正しよう、男性は決して間違えた訳ではない、意図して警官を気絶させたのだ。だってほら…


「あれ?久し振りだねパン屋以来かな?」

「どうして?」

「まぁそんなことより、ドライブでもしようか、これも何らかの縁だし」


今までの状況が嘘だったように私を車の後部座席に押し込み、自身は運転席へと乗る。追ってくる車達をバックミラーで見て男はアギーと私を確認するとアクセルを踏み込んだ。


「最初っから貴女の思惑通りだったの?」

「ん?まぁそうとも言うしそうとも言わないな」

ハンドルを器用に動かしながら窓を開け後ろに向かって拳銃でタイヤを撃ち抜く、見れば分かるこの人は一般人ではないどちらかというと軍人だ。

「なに?もしかしてシトリンさんに何も教えてなかったの?」

「いや、まぁね、男は秘密を持っていた方が良いだろ?」

「貴方の考えはよくわからない」

「あぁよく言われた」


どうやら彼女と彼は知り合いのよう最初から彼の手の平の上だったことに驚きと少しの不満が心に湧き出る。


「アギー結局彼は誰なの?」

「あぁ言ってなかったわね、彼は私にリベラリズムを教えてくれた東洋の思想家…そうね成功した政治家よ」


私はもう一度彼を見た、吸っていた煙草を灰皿に押しつけ警官を惑わす彼は本当に政治家と言って良いのか…とその視線に気付いたのか彼はバックミラー越しにこちらに笑顔を送る。


「あぁ朔か、大義名分も同情も不満も全てあつまったで?」

『は………ら……し……』

「あぁ、全てこちらが優勢、アレが始まりしだい切り捨てるからええねん」

『ひ……だ…』

「今更やろ」


唐頂国の言葉なのだろうか私とアギーには一切わからない言葉で独り言を喋っている。

私達の視線に気付いてか気付いてないのか男は口角を上げた。


「さっ帰ろうか」


何時間か走った車は外の景色を変え小さな町につき動くことを止めた、小さな緑の屋根の家に入るアギーに続くが足が自然に止まる、男を見れば何食わぬ顔でこちらに笑顔を見せる私にはその顔はとても怖く見えた。


そして時はある大事件へと進んでいった。

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