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天涯記  作者: 浅黄 東子
第1章 術士と自由の革命
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自由と希望

あぁなんと理不尽で罪深い世界なのか。

あまりにも酷すぎる行いに怒りどころか呆れを感じる私の震える肩を抱き締めるセシリーはさながら母のように感じ深い愛情に涙さえ浮かぶ。


こんなことあって良いのだろうか?答えなんて最初から決まっているnoだ、私は悲劇のヒロインでもなければ超人でもない、しかし私を信じ私の努力と行いを正当に評価してくれるユキノ達が居るのだ、そのユキノ達が私に生きるすべと希望を残してくれたのだ。

まだ、この世界に屈する事は無い。


どうするかと考えているとセシリーは大きな木箱を持ってきた、その行動に頭を傾け木箱の中を見る、少しの水、そして敷き詰められたタオルそれが中に入っている事を確認すると大きな物が動く音がした。


「?セシリー?何をしているの?」

本棚を動かして動かした所の壁板を外すセシリーを見て聞く。

「私の家はきっと貴女を探しに来る警官がくるわ、だから貴女を逃がすまで貴女を隠す必要がある、きっとここは見つからないわ」

セシリー壁板を外した場所に木箱を入れて指を指した。

「さぁ1048ここに隠れるのよ、なに警官だってまさか床下に貴女が居るなんて思いもしないわ」


考えている暇なんて無かった、ここまでしてくれる友人なんてセシリーしかいない、私はこんな優しく聡明で頼れる友人を得たことに心の底から運命に感謝した。


 

壁の中での生活は早くも一カ月を過ぎ去ろうとしていた、用心に超したことはないと考え私はご飯の時以外開けられることの無い長方形の箱に三角座りで寝っ転がり軋む体と格闘していた。

しかしその時は来てしまった、ノック音と共に聞き覚えのありすぎる声が聞こえ肩が跳ねる。


「セシリーよ本当に逃亡奴隷を匿ってないんだな?」

「本当よ?なに?家の中を見るかい?」


そう言ってセシリーは声の主である男_アンソニー= サウスオールを家に招くアンソニーはよっぽどその言葉が気に入らなかったのか怒りを露わに叫ぶ。


「いいか!?あの出来損ないをもしこの近辺で見つけたらお前の夫もお前も拷問用の野ねずみの餌にしてやる!!俺にはその権利があるからな!!」


大きな物音共にアンソニーが消える、叫び声に半分無意識に手が震える感覚が時間と恐怖感と本能に訴えかける、逃げろ、逃げろ、逃げろっと。

それを理性で食い止め、上手く息が出来ない事に必死に息を吸う努力をする。

危機が去ったと思ったら今度は警官が入ってきたのか女の声がした。


「あの、すみません」

「ここは、見物する場所じゃないのよ!出て行ってちょうだい!!」


アンソニーの襲来で疲れているのか溜息が混じっているセシリーの怒鳴り声が響いた、しかし一向に女は出て行こうとしない、それどころか土を踏み込むぐしゃと言う音を鳴らした。


「ここに自由の革命で勝利を掴んだ1048さんが居ると聞いたのですが」

「私は何も知らないわよ!!よそ者は出て行って!!」

「…いえ、それではいと言えません。それにここに彼女が居ることは知っています、私の友人に聞きました」

「いいえ!!断じて居ないわ!!それに私は知らないって言ってるでしょ!!!!」


段々と怒鳴り声が悲痛な叫び声に変わるセシリーに心が締め付けられる、あぁどうして私は彼女を巻き込んでしまったのだろう。どうして、優しい彼女を嘘つきにしてしまったのだろう。


「話を聞いて下さい!!!」 


私の心に罪悪感と自身への嫌悪感が陰る、すると思考を遮るように女が叫ぶ。

 

「私は、政治家です。今までこの国の政権と奴隷制に疑問を持ち考えを改めさせる為に革命を起こそうと思っています!ですがその為には、この国の理不尽を何も知らない国民や貴族に教えるにはどうしても奴隷目線の何が起こり何をされたか世間に知らせなければならないんです!!その為には彼女の意志と意見が必要なんです!!!」


驚いたのは私だけではなくきっとセシリーも驚いたのだろう、反奴隷制を掲げる政治家は居ない、これは断言出来る物だ。

だって政治家は必ず自分の偉大さを示すため多くの奴隷を所有している、だからこそ反奴隷を掲げる者は居ないと思っていた。

彼女の演説に折れたのかセシリーは扉を開けたのかギギギと言う音がした。


「入りなさい」

「え?」

「早く!!」


床板がぎしぎしと音を鳴らし、人口的光が私の目に入ってきて久し振りの明るさに目が痛い。

私の姿を見るなり女は私の頭を撫でる。

「あぁ可哀想にこんなに震えてしまって」

そう言って抱き締めおでこをコツンと合わせる。

「ごめんよ、1048でもさっきの話を聞いてりゃ大丈夫、あんた?もしこの秘密を喋ったらどうなるか分かってるかい?」

冗談半分本気半分でセシリーは女の人を脅す。

「勿論、この世界の創造主である神に誓ってこの事は公言しません」


女は首に吊り下げる十字架にキスをして神に誓いを立てる、同じ宗教を信じているのかそのことにセシリーは満足して「よろしい」と答える。


「申し遅れました、私はアギー=ビィーティー、※リベラリズムを掲げるリベロ党を立ち上げた責任者よ」

差し出される手に少し困惑しながら握り返す。

「えっと自由の革命で優勝した奴隷1048です、一応恩人に名前を貰いシトリンと呼ばれてます」

「まぁ良い名前を何故教えてくれなかったのよ」

セシリーが間に入り少し頬を膨らまし怒った仕草をする。

「えっと…なんか色々あって後回しにしてた」

「もう」

少し拗ねるセシリーに頭を何回も下げる、その様子を見てアギーさんはくすくすと楽しそうに笑った。

「仲が良いんですね」

「この子の母親には良くして貰いまして」

世間話のようなつかの間の平和に異常に鳴る心臓の音はいつの間にか収まっている。

真剣な眼差しに戻りアギーさんは私の両手を掴み意気込んだ。


「全ての者に自由と人権を…幸せを手に入れる為に力を貸してくださいシトリンさん」

「こっこちらからもよろしくお願いします!」


その言葉にアギーさんはホッとしたような顔をしてすぐさま僅かに険しい表情で唇をぎゅっと結ぶ。


「まずは貴女に安全な場所へ移動して欲しいと思っています、なので明日の早朝にここに車を持たせるので我がリベロ党の会社まで来て欲しいのですが」

「いや、私は心配だよ」

その言葉に間髪入れずにセシリーが私の体を引き寄せる、首を横に振り私をちらっと見て、すぐに目を離した。

「大丈夫だよ、これ以上セシリーに迷惑はかけれない」

「あんたはこの私の心をこれ以上潰したいと言うのかい!?」

傷ついた表情で唇が白くなるまでぎゅっと噛む。

「違うのセシリー、このままじゃバレるのも時間の問題よ、それに科学的魔法を使われてしまえば私の居場所なんて筒抜け」

私がそう言えば、セシリーは両手をもみ合わせたかと思えばひっきりなしに両手で顔を触る。

「だめだ、それは…バレてはだめだ」

セシリーは歯を食いしばり硬い姿勢になる。

「これ以上、セシリーに迷惑はかけたくないの」


沈黙。


「いいかい?じゃあ私の最後のお願いを聞いておくれ」

「なに?」

震える唇を必死に使おうとするセシリーに胸が締め付けられる。

「生きて、生きて、生きてそして幸せになりなさい」

その願いは私の心に重々しくのしかかり事の重大さを示すように降りかかる。

私はアギーさんの方向を向き頭を下げた。

「よろしくお願いします。」



月は沈むそして…

※リベラリズムとは日本語で自由主義と言う国家や集団や権威などによる統制に対し、個人などが自由に判断し決定する事が可能であり自己決定権を持つとする思想・体制・傾向などを指す用語。

Wikipedia引用。

※奴隷制の参考本

題名「ある奴隷少女に起こった出来事」作者ハリエット・アン・ジェイコブズ


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