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天涯記  作者: 浅黄 東子
第1章 術士と自由の革命
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術士と自由の一歩


ご飯を食べ終わり、適当に片付けた後、少女の顔はこわばり、言わねばならない事がありそうな、複雑な表情を顔に浮かべた。昨夜、掛け布団の代わりに使った、上着をたたみ、鞄に仕舞おうとするが、上手く入れられずイライラしてると「あの」と幼さがのこる、高めの声が聞こえた。


「ウィン、ちょっと来て」


その声に気づいたユキノは、俺の襟を掴み、少女の前に出す。ウィンはハンカチで手を拭きながら来るが、ちょっと助けろと言いたくなる。ご丁寧に俺がサボらないようにと、俺を挟むかたちで座った。


「質問の前に名前…聞いて良い?」


優しくユキノが問いかける。しかし、少女の顔はとても暗くなった、それはきっとユキノが苦手とか、そう言う意味ではないだろう、俺は聞きにくい言葉だったか、と後悔した。

沈黙_。

それを破ったのは、意外にもウィンだった。

ウィンは、穏やかな顔で言った。


「すまない、治療しているときに手首、足首の痣を見せて貰った、俺達はモリージェリー王国の市民ではないから、あくまで他国の物だからな、君を助けても良いと思ってな」


ウィンの言葉に、放心した表情になる少女にあえて、聞きにくいことを訪ねる。


「どうして彼処に居たのか、教えてくれるか?」


俺の言葉に、少女は体の中心まで両足を引き寄せる。やつれ細った姿に胸が締め付けられる。俺らの母国でも、あり得ないことではない、鮮明に思い出せる。

死ぬときも自由を与えられない、ただ道具として使い捨てられるもの達を……。感情に呑まれてはいけない、そんなこと知っているくせに、その感情を捨てきれない自分がいる。

沈黙が続く。


息を吸って、吐いて、震えそうな声を必死に整えようとする姿が見える、ダメかと思った時隣から…正確に言えば俺の隣に居る、ユキノから両手を叩く音が聞こえた。


「女の子2人で話そうか、だから男は退散!」


俺とウィンはきっと、ポカンとした顔になっただろう。ユキノは、人差し指を俺達に向けて一振りする、風の切れる音と共に、深層意識に何かがアクセスしたような感覚がすると同時に、体が勝手に動き始める。科学的魔法第一基礎〈操作(ジャック)〉が発動。術が視神経を伝って、脳に命令が下る。体が勝手に動き、家の外へとウィンと共に向かう、外に出た瞬間。その力は消え、俺の体はいきなり消えた、命令信号への本能的困惑により、一瞬ふらついた。

同じく術が解除されたウィンは、背伸びをして、唯一時刻が分かる太陽の位置を見る。


「今から行って間に合うか?」

「近くの村で馬車でも借りるか…いやこの村を見る限り全滅だろうな」


正午を示す太陽の位置を見て、げんなりと肩を落とした。腰に差している軍刀に触れ、視線を傾ける。ため息を吐き、いつの間にか前を歩くウィンに続き、整地されていない道を踏みしめれば、足の裏がかすかに痛む、ウィンはユキノを心配するそぶりを見せないので、俺は不本意ながらウィンを信じることにした。


帰り道が分からなくなってしまったら元もこうもない、科学的魔法第五基礎である〈(マーク)〉を発動。空気中にある水素を地面と俺の靴裏に軽く集め、摩擦を利用し足跡を残す、特に役にたたなそうな科学的魔法を使う。母国ヴァルレオーネでは使ったら罰金物の科学的魔法、理由としては半永久的に足跡が残ってしまうからだ。


「いいのかシルバー?使って」

「考えてみろ、ここはヴァルレオーネじゃないし、森で迷子なんてごめんだ」


それに一回使ってみたかった。と言葉を繋げておくと、ウィンの顔は愉快と言うような表情を浮かばせる。言わなきゃ良かったと後悔。十歳も歳が離れてるからか、たまにウィンが大人ぶる時は、大抵俺のかんにさわる。「餓鬼みたいな理由だな」と笑うウィンに取り敢えず、肘鉄を容赦なく入れ先に進んだ。


半日かけて城壁につくと、城壁内は浮かれたようにガヤガヤとしていた。城壁外であるボロボロの家は、スラムだと思っていたら全てが奴隷の収納場所だったらしく、地面には足枷のような引きずり跡や城壁内とは違い息を潜めたような、緊張が張り詰める空気感があるが家の中を見ても1人も居ない状態で、壁の外と中を繋ぐ大きな門は無防備にも開いていた。


「これはどう言う事だ?」


無人の集落にウィンの声が虚しく響きわたる、壁内から聞こえイベントのような盛り上がりとの温度差、居るはずの奴隷の安否にただ困惑する。

ウィンは髪をかき上げ眉をひそめる。


「確かにここは奴隷の家なんだよな?」


俺に確認する声は、不安定なトーンで混乱している事がうかがえる。確かに奴隷の存在は、あの少女が居ることで立証されている。そしてこの家の表札には、同じ名前が書いてあると同時に「have」と記されている。


これは名前が書いてある人の物だと証明されてることだ、無人と言うことは全員働かされてると言うこともあるが、無防備に開けられた門に疑念を抱く、奴隷泥棒なんてのはよくある、島国だからと言って1人の王が全てをおさめきれてるわけがない、王宮と仲の悪いところだってきっとあるはずだ…いや、無いはずが無い。


「一度、城壁内に行くか」


思考の渦に呑まれていると、ウィンの声で現実に戻される。そびえ立つ城壁に圧倒されるが、任務を思い出して急いで王宮に向かう、やはりイベント事があるのか、町には出店が多くあり酒を飲んでいる人達も居た。


その中で目にとまったのは明らかにあの少女と似た服の者だった。周りを見ても奴隷という身分なのか、そうではないのか、よく分からないもの達が少なからず居た。町を抜け王宮に近づけば、ウィンは軍服の胸ポケットから手紙を出し見張りの兵士にわたす。


「この国…何処かおかしくないか?」


賛同するかのように力強くウィンが頷く、だが俺達の目的は、あくまで俺達の母国であるヴァルレオーネとモリージェリー両国王の同盟を取り繕う事だ。それが国軍直属の軍事ギルドに出された国からの命令だ。たまたま暇だった俺らがそれを受けるなんて思っても見なかったが。


「どうぞお入りください」


兵士の声で金や銀、エメラルドやラピスラズリーでアピールされてる王宮に入る。芸術は理解できないので、壁に書いてある絵にはノーコメントで軽くスルーする。


応接室的な所に入ると、長方形の無駄に長いテーブルと部屋全体が真っ白で目に痛いと言う感想がまず浮かんだ。装飾の金も願わくば外して欲しい、徹夜のせいなのか目は限界を迎えてる。昼間に寝ていて正解だったとしみじみ思った。


席に座り数十分待つと、廊下の方から足音が聞こえてくる、この国は来客を待たせるのが礼儀らしい。


無気力モードに入っていると、俺達が入ってきた扉とは反対の奥の扉が開く。やっと来たかと思うと始めに入ってきたのはスーツのような理解に苦しむ服を着た男だった。


ウィンを横目で見るがもはや無に見える、と言うかそのしかめ面どうにかしろと言いたい。腕を組みたい気分だが、この同盟の取り繕いに失敗したら命が無くなる気がする。


ただでさえ肩苦しいものは嫌いなのに、レベルが上がり国からの命令と言う任務にもう涙すら出てくる。男は喋るどころか、一番奥の椅子を引いたと思うと扉に向かって心臓の位置に手を置き敬礼する。いやお前が座らねぇーのかよと心の中でつぶやく。


もう一度扉の音が鳴ると入ってきたのは予想外にも女だった。


(わたくし)がこの国を治めてる()()のアファルリカ・ジェリー・ウラ・クリスタルよ」


胸を突き出し、顎を高く上げ強気な態度を取る、高そうなドレスを身にまとう女が、座っている俺達を見下すような瞳をこちらに向けられる。


モリージェリーは王が治めてると聞いたが違うらしい、だが名前を聞く限り、目の前の女は国王の娘で合っていると思う。国王が居ないのは最近病いを患っていると聞いたので亡くなったか、もしくはこの女が代わりなのか、色々な可能性が脳を駆け巡るが国王(仮)だろうが王女(真)だろうが、この際どうでも良い。同盟の意志と国主同士の話し合いをしよう、という約束をすれば俺達の胃痛の原因を撲滅できる。


「アファルリカ・ジェリー・ウラ・クリスタル様、我々はヴァルレオーネ帝国直属軍事ギルドから来ました、ウィン・ルアーム地位は中佐です」

「同じくシルバー・オーラ地位は少佐です」


椅子から立ち上がり俺とウィンは右胸の位置に手を握り置く、軍でよく使う戦う気は無いという和睦を示す敬礼だ。左に心臓、右に心と言う宗教的習わしがあるため、その宗教に入ってはないが取り敢えず形だけでも敬意を示す。


「我々が来たのは他でもないモリージェリー王国と…」

ウィンが言葉を続けようとすると、相手が遮る。 

「それは知っている、だけどただ同盟の約束をするのもつまらないでしょ?」


ウィンの唇が開いたまま停止、俺の瞳も大きく見開かれた。驚愕の表情のまま脳も凍り付く、俺達にはタイムリミットがある、つまらない、つまらなくないで長引いて良い問題じゃない。


「お言葉ですが」

ウィンの続けようとした言葉をまた遮られる。

「私達は同盟をしても特にメリットは無いのよ?この意味分かるでしょう?」


嫌にかんに触る言い回しをする女だ。確かにこの国は昔バルカル帝国を追いやったことがある、モリージェリー王国は他国も認める列強だ、そんな列強は同盟しなくてもと考えられるがヴァルレオーネも列強に入る。


列強同士の戦争は国民にも大打撃になる事は、赤ん坊でも分かる、戦争をしたくなければ普通はうけるはずだメリット以上の物が手に入る、平和というメリットが。


何か策があるのか、しかしそう言ったようには見えない、どちらかというと自信がありすぎるように見える、どう言う意図で断っているのか…考えたくもないが無知なのか?


「条件を呑みます」

「まぁ条件を呑んでくれるの?海の向こうにいる人が自分の国以外のことも考えられたなんてびっくり」 


自分の顔から、表情が抜ける感覚がする。


「海の外から来た貴方達には分からないと思うけど、私達王宮側は奴隷の存在に心を痛めてるのよ、だから私はこの国の騎士と戦い勝った物を奴隷の地位から解放してあげるという約束をしたの、勝てば誰も文句はないでしょ?それに一ヶ月もゆうよをあげてるの」


何が心を痛めてるだ、俺は両手を丸めて拳を相手に見えないように握る、騎士に勝てばなんて何処のムリゲーだ、あの少女が逃げるのも頷ける、俺だって逃げるわ。


「それに参加しろ…と?」


答えが見えてる質問を、わざと投げかけるウィンに女は気色悪いほど口角をつり上げる、その顔は満足している様に見える。

「そうよ?だけど、一応貴方達は客人…そうだわ、貴方達にはシード権をあげるわ!私の国には科学なんとかて言う珍しいものを使う騎士がいるの、本当は一等兵と戦ってからなんだけど貴方達には、その段階をパスしても良いことにするのよ!まぁ無いとは思うけど奴隷に味方してシード権を破棄する…なんて事も出来るわよ?」


椅子にやっと座り、ふさふさがついてる扇で自分の顔に向けてあおぐ。ウィンの顔をもう一度横目で見る、一度動物図鑑で見たことがあるチベットスナギツネの双子かと疑うぐらい、うつむいてる顔は無だ。これが終わったらお前の前世は狐だ、とろくでもない話しをしよう、コイツの話を聞くより不愉快だがまだ、ウィンとろくでもない話しをしていた方がいい気がする、不愉快だが。


「そうと決まれば、地図を持ってきてドワーノ」

「はっ」


ドワーノと呼ばれた控えてる執事は、女の方向に一度体や足を向け微笑み廊下に出る、名誉だと思っているのだろうか、その顔はとても誇らしげである、もし本当にそんなことを思っているなら狂信者だろう、速くこの場から出たいと思わず扉に目が行く。


「お持ちしました」

「ここが私達のいる王宮、その隣が貴方達が戦うコロシアムよ」


ウィンは説明を聞きながら、ハッとした顔になり言葉を紡ぐ。


「我々の他にもう1人ユキノ・ルアームと言う地位は」

「あらもう1人居るの?まぁそんなことをどうでもいいわ」


残念なことに妻自慢する前に、また遮られたなっと笑いたくなるが、ぐっと笑いをこらえる。若干あばらや腹の痛みを感じるが、一応礼儀があるので無表情をよそおう、まぁこんな時に妻自慢するほどウィンは馬鹿じゃないと思う。


「ちょっとくらいユニーク性があれば、もっと面白くなるでしょ?」


人の人生がかかっている物を、遊びだと思っているのか?批判しようと口を開くが、俺はそれを言葉にすることはなく急いで口を閉じた。

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